表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭の少年  作者: 木乃羅
第一章 胎動
1/69

1-1 箱庭の少年少女たち

初投稿作品です。

正直、ヒマ潰しの為に作成しているので面白いのかどうかは大変、微妙だと思います。話の展開も割と遅いうえに、ご都合主義で進めるつもりです。

ちなみに、思いつきの為か主人公がどんな道を選ぶのか不明です(笑)


少しでも、皆様の暇つぶしになれたら幸いです。

 そこは世界から隔絶(かくぜつ)された場所だった。


 (ひな)びた農村のような雰囲気の中で、わずかな住民たちはその全員が普通とは違っていた。

 だが、大人たちは一般人と自分たちが異なっていることを知りつつも、この村の中ではそれが普通として子供たちを育てていた。

 そう、誰が何と言おうとも。これが彼らにとっての“普通”であるからだ。


 早朝というには、まだ早すぎる明け方の時刻。


 一人の少年が村の井戸のそばに来ていた。


「うぅ―ん。今日も天気良さそうだなぁ。」


 呑気(のんき)にのびをしながら、井戸の水をくみ上げて顔を洗っていると、落ち着いた雰囲気の少年が近付いてきた。


「おはよう、蒼溟(そうめい)。今日の狩りはもう終わったの?」


 彼の足もとには、様々な果物と川魚、それに獲物らしきものが置いてあった。


「おはよう、(ひいらぎ)。今日はおしまいだよ。後は、保存するために加工するだけ。」


 (ほが)らかに笑いながら少年―蒼溟は、果物のいくつかを柊に渡す。


「森にアケの実があったから、芽衣(めい)ちゃんにあげてよ。」


「妹が喜ぶよ。そういえば、僕が作っていた敷物が出来たから良かったら後で取りにきて。」


 貰った果物を大事にハンカチに包んで、近くに置きながら彼も顔を洗いながら言う。


「うん、わかった。柊の敷物は奇麗で丈夫だから、姉さんたちも喜ぶよ。」


 荷物を大事に抱えながら、お互いに「また後で。」といって別れた。



◇ ◇ ◇



「ただいまぁ。」


 玄関から入らずに、縁側に荷物を置く。そして、リビング奥の台所に向かって大きな声で挨拶をする。


「おかえりなさい。」


 奥から一人の少女が顔を出して返事してくれた。長い髪を後ろで一つのお団子にした明るい雰囲気の少女だ。


「おはよう、優花(ゆうか)姉さん。」


 見た目は僕とそんなに変わらないようだが、記憶にある限り幼少時より姿が変わっていない。村のみんなも、実年齢と容姿や言動が一致しない人たちばかりなので気にしていない。


「おはよう、蒼溟ちゃん。(みなと)兄ちゃんは畑にいっているよ。」


「わかった。捕ってきたものは後で加工するから、保存庫を借りるね。」


 僕は果物と川魚を数匹、優花姉さんに渡すと残りを納屋にある特殊な保存庫にしまった。この保存庫はこの村にしか無いものらしく、しまった物は腐ることなく何時出しても、新鮮なままなのだ。

 納屋に行くと着物のような和装的な感じを残しつつ、動きやすいようにアレンジされた服装の女性がいた。


「おはよう、光香(みつか)姉さん。」


「おはよう、蒼溟くん。今日は何を取ってきたの。」


 姉さんに捕ってきた物を見せながら、保存庫にしまい。僕は納屋にある(くわ)を持って兄さんの所に走っていった。


(みなと)兄さ―ん、おはよう。」


 柊よりも少し年長にみえる少年に向かって元気に挨拶をする。


「おはよう、蒼溟。今日の狩りはもう終わったのかい。」


 優しく大らかな笑みで聞いてきた実兄に返事を返しながら、蒼溟は今日の作業内用を聞いて手伝いを開始する。

 ウチの畑は面積も数も結構あるが、それを兄さん一人で管理していた。


「この作業が終わったら、爺ちゃんが稽古をするから来るように言っていたよ。」


 祖父はこの村の神事を行う神官の仕事をしているのだが、様々な武器を使いこなす不思議な人でもある。村のみんなが束になっても勝てないんじゃないかと思うくらい強い。


「今日は何の武器を使うんだろう。」


 村の子供たちは祖父からそれぞれ適した武器で稽古をつけてもらうのだが、何故か僕は色々な武器を教え込まれていた。ちなみに湊兄さんは剣を中心に行っているが、最近は刀と呼ばれる刀身がわずかに反り返った武器を学んでいる。


「剣だったら、俺と試合をしてみようか。」


 優しくて滅多なことには動じない自慢の実兄だが、こと稽古に関しては祖父並に厳しい。


「うんっ。その後で柊のところに行ってくるよ。敷物が出来たんだって。」


 この村には学校というものが存在しない。その変わり、村の大人たちがそれぞれ得意な事などを子供たちに教えていくのだ。そこに男女や年齢、家の違いなどは関係しない。


「へぇ、柊くんが作っていた敷物って確か、結構な大きさと複雑な模様にすると言ってものかい。」


「そうみたいだよ。すごいよね、居間に敷くような大きなものをスイスイ作っちゃうんだから。」


 素直に感心する僕の姿を湊兄さんは微笑みながら何故か頭をなでてくれた。それから、二人して今日の作業を順当に進めて祖父の元へと向かった。

 祖父の住まいは、湊兄さんと姉さんたちが住む家の裏にある。山の高台に建っている大きな社の社務所が祖父の住まいである。


「おはよう、爺ちゃん。」


 境内で掃き掃除をしていた老人に声をかける。白髪の皺深い姿でありながら、その足腰は村の誰よりも機敏で力強く、武器を持たせると無双となる。いつか、祖父を負かしてみるのが僕の目標でもある。どれだけ、かかるのか分からないけどね。


「うむ、二人ともおはよう。」


 朝というにはすでに昼近くなっているが、村の暗黙の決まりとして挨拶はきちんとする。これを(おこた)ると後ほど、(しつけ)と称して厳しい稽古が待っている。

 今日は湊兄さんと一緒の刀での稽古だった。結果として、僕は祖父と兄さんの二人に足腰が立たないくらいコテンパンにやられました。まだまだ、だなぁ。



「大丈夫かい。柊くんの所に行く前にお風呂に入ろうか。」


 湊兄さんにおんぶされながら、僕は家に辿り着いた。ここで、もう一つ不思議なのがウチのお風呂は他の村の家と違うこと。

 家の中のお風呂場へと続くはずの扉を開けると――


「いつ見ても、湊兄さんの家のお風呂って不思議だよねぇ。」


 そこには、露天風呂のような雰囲気の球体状の空間があった。湊兄さんの家は結構な深さのある池のそばに建っていて、このお風呂場はその池の上に浮かんでいるような感じなのだ。

 それなのに、外からはその姿は見えない。

 かけ流しのようで三段階くらい高低差がある各浴槽にそれぞれ頂点部の岩からお湯が流れこんでいる。そして、余ったお湯はそのまま岩肌を伝って下へと流れているのだが、どこに流れ出ているのかが見えない。


「まぁ、お風呂に関してはちょっとした贅沢(ぜいたく)をしたからね。」


 のれんを潜って、空間という言葉にケンカを売っているのでは?と思うくらいのゆったりした脱衣所で服を脱いで湊兄さんと一緒にお風呂に入る。


「ふわぁ〜、気持ちいい。」


 温泉効果なのか、疲れてきった僕の身体がほぐされていくのがよくわかる。


「これも飲んでゆっくり身体を癒しなさい。」


 湊兄さんからスポーツドリンクを貰う。


「本当は浴槽で飲み物を取るのは、あまりよくないとは思うけどね。」


 苦笑しながらも僕につきあってドリンクを飲む二人。


「そう言えば、いつも不思議に思うけど。湊兄さんは姉さんたちと結婚しないの?」


 僕の言葉に兄さんは噴き出した。


「・・・・・・・・。」


 そのまま、無言になる。

 あれぇ?聞いちゃいけなかったのかな。でもね、姉さんたちが(みなと)兄さんの婚約者で、お互いに両想いらしい…というのは村の誰もが承知している事実でもある。

 兄さん一人に複数のお嫁さん、というのも特殊と言えばそうだけど、それ以上にこの村事態が“一般的”というものから隔絶しているのだから別に不思議ではないと思う。


「湊兄さん?」


 真っ赤な顔のまま兄さんがゆっくりと湯船に沈んでいった。



◇ ◇ ◇



「という事があったんだ。」


 僕はあの後、湊兄さんを救いだして優花(ゆうか)姉さんに介護を任した。そのまま、着替えて柊のところに来て、さきほどの事を話していた。


「まぁ、そういった事柄は本人同士に任せた方がいいと思うよ。」


 苦笑気味に答える柊に首を(かし)げる。そのまま、この会話は終わり。というように柊は完成した敷物を広げて見せてくれた。


「うわぁ―!?さすがだねぇ。」


 敷物には細やかな模様と色彩、全体的に落ち着いた感じがするものだった。僕の言葉に面映(おもは)ゆい感じで微笑む柊に、万面の笑みで絶賛する。


 (なご)やかに談笑していると、部屋の扉から小さな少女が顔を出していた。


「こんにちは、芽衣(めい)ちゃん。」


 蒼溟(そうめい)が微笑むと恥ずかしそうに表情を赤らめながら少女は丁寧に挨拶を返す。そして、その後ろから兄妹の母親がお茶を持って現れた。


「こんにちは、蒼溟ちゃん。今朝はアケの実をありがとうね。」


 ちょっとふっくらとした体系の母親は笑うととても魅力的で蒼溟は柄にもなく赤くなりつつ、返答する。

 そのまま、四人で楽しく雑談をするが夕飯の準備をするという母親に連れられて芽衣も部屋から出ていった。


「そう言えば、蒼溟は今後どうするんだい。」


 とうとつな柊の言葉にきょとんとしてしまった。


「今後って、何の事?」



 きょとんとした表情の蒼溟(そうめい)を見て、(ひいらぎ)はこの質問が唐突過ぎたな…と反省する。


「君の両親は、確か街に住んでいるだろう。もし、街の学校に行きたいなら、そろそろ準備をしないと間に合わないんじゃないかと思ってね。」


 自分が微妙な微笑みをしているのを自覚しながら蒼溟に言う。本音で言えば、彼には村を出ていって欲しくはない。


「う〜ん。でも、僕がこの村に来て随分経つけど…父さんや母さんからは何も言われていないから…このままでも、いいんじゃないかなぁ。」


 少し考えながら答えた蒼溟に内心ほっとした。



◇ ◇ ◇



 蒼溟がこの村に来たのは3歳か4歳くらいの頃だったと思う。当時6歳だった(ひいらぎ)はこの時すでに天狗(てんぐ)になっていた。


 この村の住人が一般的から逸脱(いつだつ)した“普通”とは違うらしいことを何となく理解していたからだ。だからと言って、それが何の自慢になるのかまでは理解していなかったが、ただ何となく“普通”とは違うことが特別な何かのように感じて。自分がまるで物語のヒーローのように思えたのだ。


「ふぅ〜ん、街から来たんだ。」


 初めて会った蒼溟に僕は高慢キチに言ったのをよく覚えている。今から思うと何とも恥ずかしいセリフだったが、自戒(じかい)の意味を込めて忘れないようにしている。


「うん、宜しくお願いします。え〜と、(ひいらぎ)お兄ちゃん!」


 そんな僕の様子に気を悪くするどころか、万面の笑みでお兄ちゃんと呼んだ蒼溟。きっと、親から教えられた挨拶を思い出しながらのちょっとたどたどしい様子だった。


 村に生まれて育った子供たちと違って、街から来たばかりの蒼溟は何事にも劣っていた。まず、子供同士の遊びについてこれなかったのだ。

 歳の差というのもあったと思うが、体力差がまず大きかった。そんな、足手まといな蒼溟に僕はちょっとしたイラつきと優越感を味わっていた。


「蒼溟、早くしないと置いて行くぞ。」


 そう言っては、彼を困らせようとするのだが。あの当時から蒼溟は泣いたりぐずったりすることはなかった。

 その時々で、彼に出来る精一杯で僕らについて来ようとしていた。


「ごめんね。必ず追いかけるから先にいってて。」


 そう言われて、一度だけ置いて行ったことがあった。その時のことは今でも後悔している。何故なら、蒼溟はその後しばらく行方不明になったからだ。


 村のすぐ近くの森の中で虫取りをしていた僕らは、遊びに夢中になりすぎて蒼溟(そうめい)のことをすっかり忘れていたのだ。気付いた時には、彼の姿は一切見えなかった。


 (あきら)めて村に帰った――その考えは思いつかなかった。


 彼は幼いながらも自分で言ったことは必ず果たそうとするからだ。その蒼溟が「必ず追いかける」と言った限りは体力が()きるまで僕らの後を追いかけるはず。

 いつもなら、蒼溟が追いつけれるように一定の距離を(たも)つように注意しているのだが、今回はそれすらも忘れてしまった。きっと、彼は一所懸命に僕らを探しているはず。

 僕らは(あわ)てて来た道を戻り始めた。その途中で蒼溟の姿を探すことも忘れずに。



 その日の夕方になっても蒼溟の姿は見つからなかった。


 村に辿(たど)り着いても彼の姿は無く、村の大人たちに事情を話して探してもらっても彼の姿どころか足取りすら見つけることができなかった。

 深い後悔と軽率な自分に自暴自棄になりそうになったとき、彼の実兄である(みなと)兄さんが心配しなくても大丈夫と言ってくれた。その言葉に思わず噛み付きそうになった。

 だって、蒼溟は…僕たちよりも体力がないのに、暗くなっていく森の中で一人ぼっちなんだと思うと、心配で、そして置き去りにした自分を殴ってやりたくなった。

 泣きたくても泣けずに、震えながら嗚咽(おえつ)をこらえる僕らの姿に大人たちは見守るだけにしてくれていた。そうしている間に、長老の一人に手をひかれながら蒼溟があらわれた。

 その姿を見た瞬間、僕らは彼のもとに走り寄って泣きながら謝りつづけた。本当に無事でよかったと、そして置き去りに、仲間外れにして「ごめんなさい」と心から謝った。



 後で知った事なのだが、蒼溟は体力の面以外ではすでに僕ら以上だったらしい。


 森で置き去りになった蒼溟は近くの大樹の根元でシダの葉などを使って隠れた後、少し眠り体力を回復。その後は、食べれる果物を摂取(せっしゅ)して僕らの姿を探していたそうだ。

 暗くなり始めると湊兄さんから貰っていた迷子用の道具を使って居場所を知らせていたようで、長老がそこまで迎えに行ったそうだ。

 自分よりも2歳近く年下の少年の冷静な行動に、僕の天狗(てんぐ)な思いはすぐに砕け散った。それ以降は、彼の親友になれるように、彼と共に歩める者になれるように、頑張ることにしたんだ。今もその気持ちに変わりはない。



◇ ◇ ◇



 (みなと)兄さんの家に帰って、皆で夕飯を食べた後は就寝時間まで僕は(ちがや)姉さんに勉強を教えてもらう。

 (ちがや)姉さんはこの村の中でも一番、実年齢と容姿が一致しない人だ。いや、言動も一致しない人でもある。


 昔、僕が森で迷子になった時に迎えに来てくれた(いばら)婆ちゃんよりも年上なのに、何故か「ちゃん」付けで呼ばせるのが好きな人で、湊兄さんはもちろんのこと。(ひいらぎ)の妹の芽衣(めい)ちゃんにも「(ちがや)ちゃん」と呼ばせている。


「さて、今日は復習もかねて薬づくりをしてもらおうかね。」


 ちなみに、好奇心も旺盛(おうせい)で何かと色々な実験を僕や湊兄さん、姉さんたちにする。その実験を無茶苦茶にしてしまう姉さんもいるのだが、普段はお仕事で家にいないから安心でもある。


「何の薬をつくるの?」


 一言に薬といっても用途や製法によって様々で、文字通り「薬にも毒にも成りえる」ので結構取扱いに注意が必要だ。


「そうだねぇ。まずは、準備しといたものを判別して、そこから出来る薬を作ってみな。」


 そう言って、茅姉さんの研究室に入るとそこは異次元な空間だった。一度、詳しい説明と知識を教えてもらったが…まぁ、要約すると…ものすごい量のエネルギーで空間を湾曲(わんきょく)させて、その歪みを利用して任意の空間を存在、固定しているそうだ。これは村の子供たちにも秘密なのだそうだ。


「・・・・量がもの凄く多いと思うんだけど。」


 茅姉さんが指し示す、その準備した物は大きな六畳分くらいの机に隙間なくならべてあった。知識として教えられた中で、とっても貴重な物も当然のように置いてあるのにはさすがにびっくりする。


「まぁ、やれるだけやってみなさい。ちなみに、実験は自分の体で試すように。」


 にやりと楽しそうで人の悪い笑みを浮かべる茅姉さん。う〜む、人で試す訳にもいかないから仕方がないかぁ。仮に毒にあたっても、姉さんの医療技術なら問題もないし…。

 (あきら)めのため息をしつつ、僕はいつも通り真剣に取り組むのだった。




 こんな何気(なにげ)ない。僕らにとっての日常をこれからもずっと続くんだと、僕たちは信じて疑わなかった。それが、根拠のない想いだったと気づかないまま。



すでにドコなのか分からないようにしてあります(笑)

H24年3/25 表示変更、修正を行いました。

H25年4/1 「薬草づくり」→「薬づくり」に変更しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ