自然主義国家の構想第1報告
==大思想構造==
そもそも、何人も価値観や信条を持ち、その実行のために生きているしかし、絶対的な価値観はここでは存在しないと考える。しかし価値観が存在しなければ、人は目標を失い、生きる意味を喪失する。よって、人それぞれが持つ価値観や信条をそれぞれ暫定価値観とし、同じそれを持つ人同士が団結する。
また、団結した集団同士の衝突を防ぐために、それだけを唯一の暫定価値観とする中央思想体を設ける。こうすることにより、現在世界各地で発生している紛争やテロリズム、対立などを防止する。この構造を大思想構造とする。それぞれの集団には、個人の意思で自由に入ることができる。
これから説明する自然主義思想は、それらの暫定価値観のうちの一つである。
==自然主義の理念==
自然主義は、英語では、ecosystemacy(第零議長提案の造語)で、直訳すると生態系主主義、生態系主主義国家という意味になる。Ecosystemacyという造語は、ecosystem(生態系)という単語にdemocracy(民主主義、民主国家)を対比させて、ecosystem + (democr)acy=ecosystemacyとなった。
自然主義の暫定価値観は、
・地球環境の召還及び維持
・人類文明の抑制及び維持
という二つで、これにより人類の絶滅までの時間をできるだけ引き延ばすことを目標とする。
前者の暫定価値観のために、地球環境を暫定主権者とし、主権を人間からそれに返還する。人間も自然の一部と考え、それに含まれるはずだが、人間には、地球環境を迫害したという原罪(暫定価値観への違反)があるため、主権が制限され、例えばのちに述べる自然区には特例を除き立ち入れない。
後者の暫定価値観のために、文明(近代医療や金属機器類など)が抑制されても人間の反発を引き起こさないために、人間がその状態においても幸福を維持できるために、人間政府はそれにのっとった政策を執る。
人間が二つの暫定価値観を十分に維持できると判断された時点で、人間は原罪から解放され、自然の一部としての主権を回復する。
==領土の分類==
自然主義国家においては、人類が原罪から解放されるまで、領土が「主権者直轄領(自然領)」と「人類実験領域(人類領)」の二つに大きく分かれる。「人類実験領域」というのは、これがあくまで、人類が原罪から解放された後も、再犯をしないように実験をする領域である、という意味合いからである。
この二つの領域を設けるには大きく二つの理由がある。
第一に、産業革命以降の文明発達によって大量に排出された二酸化炭素の吸収を主権者(自然)に依頼するためである。現在、大気中に存在する二酸化炭素の量は、産業革命以前のおよそ290ppmから380ppmほどにまで増加している。また強力な温室効果ガスであるメタンガスのそれも、同様に増加している。これは化石燃料の燃焼や家畜のゲップや排出物などによる可能性が高く、自然に減少する可能性は極めて低いといえる。
そのため、生態系の回復による森林系の復活や文明による浸食からの防衛、または水酸化ナトリウム水溶液(苛性ソーダ)を用いた二酸化炭素の固定などの何らかの対応策が必要である。
第二に、主権者に相当する領土を持つとともに、主権者としての強さを国民に見せ付けるためである。国民に地球環境の偉大さを誇示し、その重要性を訴えることで、人類が原罪から解放された後も自然をできる限り大切にしようという考えを形作る根底になりうると考えられる。
○自然領と人類領の割合
現段階では、
陸上 自然領:人類領=7:3 海洋 自然領:人類領=8.5:1.5
としている。自然領について、陸上よりも海洋のほうの割合が高いのは、陸上では人類領における農地が必要だからである。
○自然領
自然領では、原則、内政は主権者そのものに委譲する。例外的に、生態系が破壊された場所の修復や、生態系がほとんど存在しない場所における水酸化ナトリウムなどを用いた二酸化炭素の固定などは、のちに述べる自然府が指導する調査隊が行う。
人類が自然領内に侵入することは、原則禁止される。人工物などを投棄するのも同様である。例外的に、自然府(最高顧問)が承認した、調査隊や廃棄物収集のための作業員及び下に述べる防衛軍などは侵入できる。航空機なによる領空通過は、有事を除いて認められない。
防衛については、自然府が「防衛軍」を組織し行う。おもに人類の侵入を防ぐことが目的だが、武装勢力の国内への侵入を防ぐ場合もあり得る。自然災害により主権者が被害をこうむった場合、自然災害は古来より存在するので、超大規模でない限り自然府は干渉しない。
海洋及び領空における自然領についても、上記と同様である。
○人類領
人類領は、暫定価値観にのっとった生活をどれだけ維持できるかを実験する領域である。したがって、文明が若干衰退していて、国民のほとんどが農林水畜産業などの第一次産業に従事していると思われる。衰退した状態の文明を維持するために、その地域の文明になじむことができる人間のみが移住を認められる。人口の流出を防ぐため、基本的に出国は認められない。また、いわゆる「文明の利品」といわれる機械類は、一般国民は利用・製造できない。労働によって困憊する国民に対して、娯楽を与える目的で、芸能人やその他の娯楽提供業者が少数活動していると思われる。
地方自治体として、村を設ける。村は大きな権限を有しており、人間院が定める法律などの範囲内ならば、独自の自治制度を設けることができる。
各村には、必ず、人間府から派遣される警察官が常駐し、村の支配階級による不正の監視や、スピーカー・通信装置・図書館・裁判所などの管理などを行う。
==政治体制の概要==
○主権保有者の代理機関「自然府」
地球環境は意思を示すことはできないので、代理として人間がその状態を察知・研究し、それに基づいて、暫定価値観にのっとり判断を下す代理機関「自然府」を設ける。この機関が事実上の主権機関となる。
・内閣
のちに述べる「代理人養成院」の委員の中から、「最高顧問」(定数3名)及び「次顧問」(定数6名)が選出される。そして最高顧問及び次顧問(最高9名)全員で、内閣を組織する。内閣の最高責任者は最高顧問であり、全員が同じ権限を有する。最高顧問は、前最高顧問らにより、前次顧問の中から、全会一致により選出される。次顧問は、前最高顧問・前次顧問及びその他の代理人養成院委員らにより、獲得票数が多い順に選出される。次顧問選出の際、最高顧問は5票、次顧問は3票、その他の代理人養成院委員は1票を有する。
内閣の方針及びのちに述べる自然府諸法度などについては、全て閣議で決定される。全閣僚のうち3分の1以上が出席していなければ、決議される全ての議案は無効である。
・代理人養成院
自然府内閣の閣僚にふさわしい知識・技能を持つ人材の養成及び自然府維持のための必要最低限の労働力(事務)のために、代理人養成院を設ける。閣僚もこの委員に含まれる。代理人養成院委員は一般国民が志願し、面接に合格したうえで就業する。
閣僚を除いた一般委員は、内閣不信任決議権などを除きほとんど権限を持たず、おもに次顧問、場合によっては最高顧問による指導を受ける。
代理人養成院委員は、委員である限り、男女別に皆で共同生活を送り、婚姻及び委員以外の人間との生活は認められない。
給料は、食費・活動費を除いて常に国民の平均所得の20分の1未満とする。食料は、必要最低限分だけ支給される。活動費は、自然府より必要分だけ支給される。
以下に、内閣が有する権限を述べる。
・法案拒否(修正)権
のちに述べる人間府が決議した法案や予算案その他の多くの法令を、暫定価値観に基づいて修正もしくは拒否する権限を有する。内閣が承認し、公布された法律もしくは改正憲法は、主権者非常事態宣言発令中及び戒厳令発動中を除いて、25年後から30年後までの間に施行される。これは、人類が何十年も先のことを考えずに、その権力をふるい続けた結果、主権者が追放されたという教訓に基づくものである。
・統帥(防衛)権
一般国民が自然領に侵入するのを防いだり、有事の際に国外からの武装勢力の侵入を防いだりする防衛軍を統率する権限を有する。原則、この権限を国内での反乱・紛争などの制止のために用いることはできない。
人間府からの要請に基づき、自然院が戒厳令を発動した場合に限り、暫定的に自然府及び防衛軍が国家の統治権を行使する。
・自然府諸法度制定権
自然府内での規則などを定めた自然府諸法度を制定することができる。
閣議で、出席閣僚の3分の2以上の賛成によって制定される。決議された議案は、決議から1年後以降1年半後以内に施行される。
・人間府法案提出権
人間府に対して、法案を提出することができる。法案の扱われ方は、のちの「人間府」で述べる。
・人間府税源徴収税
人間府の全収入のうち3分の1を、財源として得られる。自然府維持のための必要最低限の費用以外はすべて主権者召還のための研究費もしくは活動費として用いられなければならない。
・自然府裁判所設置権
自然府(最高顧問)の許可を得ずに自然領に不法侵入した人間または航空機の運営会社、自然府公務執行妨害及び自然府諸法度違反などの事件を裁くための自然府裁判所(一審制)を設けることができる。
裁判員は、閣僚の中から出席可能な4人、その他の代理人養成院委員の中から無作為に選出された5人の計9人とする。
・人間府終審裁判権
人類領における訴訟を裁く人間府裁判所(二審制)の終審裁判を行うことができる。人間府裁判所の仕組みについてはのちの「人間府」で述べる。
・人間府解散請求権
人間府で、法案を審議・議決する機関である「人間府議会」に対して、解散を請求することができる。閣僚の全会一致の賛成によって解散請求が発議され、閣僚以外の代理人養成院委員の総委員のうち3分の2の賛成によって決議される。
○人類領統括機関「人間府」
人類領(人類実験領域)を統治するために、人間府を設ける。人間府は、その判断の多くを自然院によって検閲されるので、自然府よりも権限は劣る。議会を最高組織とし、付属組織として「省」、下部機関として「村(地方自治体)」がある。つまり村は人間府に含まれない。
・議会
人類領における立法機能を持つ議会を設ける。議会は、最高責任者たる議長を中心とした議員によって構成される。議員は、各村から1名ずつ、人間府直轄地から(人口÷5000)人が選出される。議会は、原則一院制で、議員は政党を結成することが禁止されている。議員の給料は、国民平均所得の1.2倍ほどとなる。
議会が可決した法案及び憲法改正案は、全て自然府の内閣による審査を受ける。しかし、省が通告する事項や、議会や省が行う村に対する指導などは、代理人養成院委員が摘発しない限り、内閣に審査されない。また、憲法改正の発議についてはさらに、のちに述べる「中立府」による審査を受ける。
自然府が議会に提出した議案については、出席議員の3分の1以上の賛成によって可決される。
・省
おもに村に対する行政を担当する省を複数設ける。省は、議会が定める法律に基づき、村が行っている行政を監視・指導もしくは支援したり、予算を用いて、外交や税の回収など必要な事務をしたりする。省の役人は、一般国民の中から試験・面接などによって採用される。大臣職(長官)は存在しない。給料は、国民平均所得の1.2倍ほどとなる。
おもな省は、税務省・財務省・総務省・法務省・警察省・外務省などである。
一般国民(人間府直轄地在住者を除く)を裁く裁判は全て、その村人が属する村で行われ、裁判方法や起訴基準なども村が定める。しかし、村人が村や人間府などの機関を訴える場合は、法務省がそれを裁く。その判決に、原告もしくは被告が納得できない場合は、自然府の、閣僚を除いた代理人養成院委員の中から無作為に選ばれた7人が裁判官となり、終審裁判を行う。
○第三者機関「中立府」
中立府は、「評議会」及びその直属の「中立軍」によって構成される、中立的な第三者機関である。中立府は、小さいながらも(国土全体の0.1%以下)自然府・人間府・及び村のどれにも属さない独立した領土を持つ。評議会はその中に位置し、中立軍隊員は通常その中立府領土の中で農水畜産業をしているが、有事の際に軍として機能するために、日ごろから訓練を行う。
評議会は、(16歳以上の)中立府領土住民の中から彼らの投票によって11名が選ばれる。評議会議長は、国民からの信頼が厚い人物(日本でいえば天皇家など)が、評議会によって推薦される(世襲も可能)。
以下に、評議会の職務を述べる。
・政府(自然府もしくは人間府など)の行動を監視する。また、自然府・人間府に関して選挙管理を行う。場合によっては、政府の暴走によって政局が極端に乱れたり、違法行為が行われたりするようになった場合、主権者及び国民が革命をおこし政府を倒す際の中心組織となる。中立軍はこの際、評議会の指示のもとに行動する。
・国外から武装戦力が侵入した場合、自然府の防衛軍と合同で応戦する。自然府からの依頼があった場合のみ出動する。
・全世界的な災厄(隕石の衝突・主権者消滅など)によって、地球上が人類に適する環境でなくなった場合、のちに述べる、政府が建設した巨大シェルターに政府の機能を移し、臨時政府を建設する。そしてその臨時政府における主権者として、暫定目標に基づき、復興作業を行う。
○一般国民における基礎的共同体「村」
村は、一般国民が属する自治体であり、政府(人間府)から大きな自治権を付与されている。法律で定められた範囲内(例えば、「文明の利品」の排除など)で、自治制度及び住民(村人)に与える権利を変更することができる。村は一般国民にとって最も身近な政治組織であるため、「自然主権の理念」で述べたように、ただ村人が幸福でいられるように努める。しかしそれは、豊かさを享受させることとは必ずしも合致しない。
村人の多くが、その村の政治体制によって不幸である場合、村人は人間府の法務省に対して村を訴えることができる。裁判方法は「人間府」の「省」で述べている。
村では、室町時代後期から江戸時代前期ごろの期間における百姓と同程度の生活が営まれていると思われる。このような非文明的かつ非大量生産的・非大量消費的・非大量廃棄的(つまり暫定価値観が示す目標にほとんど合致)である生活を営んでも、幸福は維持されると思われる。証拠として、1972年ごろから、ヒマラヤ山脈のふもとに位置する(国民の9割程度は農業従事者)ブータン王国は、GNH(Gross National happiness, 国民総幸福量)を政策の中心としており、2007年の調査では、国民の約9割が「自分は今幸福だ」と感じている。
参考:日本経済新聞2010年10月18日付朝刊より抜粋
(抜粋開始)ブータン国立研究所所長である、カルマ・ウラ氏はGNHについて次のように述べている。「経済成長率が高い国や医療が高度な国、消費や所得が多い国の人々は本当に幸せだろうか。先進国でうつ病に悩む人が多いのはなぜか。地球環境を破壊しながら成長を遂げて、豊かな社会は訪れるのか。他者とのつながり、自由な時間、自然とのふれあいは人間が安心して暮らす中で欠かせない要素だ。金融危機の中、関心が一段と高まり、GNHの考えに基づく政策が欧米では浸透しつつある。GDPの巨大な幻想に気づく時が来ているのではないか。」(抜粋終了)
以上のような理由で、文明を抑制しつつ主権者を可能な限り擁護し、かつ半永久的に持続される村社会の構成は可能であると思われる。
==対外政策・経済制度==
○国際連合その他の国際機関との関係
国際連合の目的は、
1 国際平和・安全の維持
2 諸国間の友好関係の発展
3 経済的・社会的・文化的・人道的な国際問題の解決のため、及び人権・基本的自由の助長のための国際協力
の三つである。このうち、1と3は自然主権国家の目的に適合しないので、自然主権国家は国際連盟に加盟するべきではない。また、これに相似する目的をもった国際機関にも加盟するべきではない。
○他国との外交関係
自然主義国家は、暫定価値観に基づき、以下のような政策・形態をとる国家とは国交を樹立するべきではない。
・主権者を著しく侵害する、もしくはそのように画策している政府
・化石燃料を多く産出し、輸出もしくは消費している国家
・国内でのエネルギー生産に関して、自然エネルギー以外の資源から75%以上を得ている国家
・思想統制を行っている政府
例外的に、上の条件のどれかを満たしていながらも、自然府がナショナルトラスト運動の展開を決定した地域を領有する政府や、国境を接する重要な周辺国とは、例外的に国交を結ぶ。
また、同じような目的を持つ自然主義国家とは、軍事同盟(防衛軍の統合)を結び、さらに政治体制が似通っている場合には、政府を合併して連邦国家を構成するべきである。
○領土の拡張
領土を拡張するために、防衛軍などの戦力を用いた先制攻撃によって他国の領土を侵略する行為は、自然主権国家の信ぴょう性を著しく下げる恐れが高いため、何らかの緊急事態を除いてすべきではない。
また、その地域を領有する政府に対して、資源(都市鉱山、食料など)や金銭と領土を交換することや、他国からの侵略に対する防衛行為などによって、結果的に新たな領土を得ることは可能である。
○経済制度
貨幣単位は、その地域における主要生産物を基準として設定される。つまり、主要生産物(貨幣の基準)を米1俵(60kg)としたとき、
1貨幣単位=米1俵
となる。つまり、米1俵は必ず1貨幣単位で買うことができる。
米の価格は、一年ごとに変動する。災害などによって米の収穫高が例年より低ければ、次の年の米1俵の価格は相対的に上がり、ほかの商品の値段も高くなる(インフレ)。逆に、米が豊作となれば、次の年の米1俵の価格は相対的に下がり、ほかの商品の値段も低くなる(デフレ)。この場合、デフレのほうが経済は豊かであるといえる。