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私がニーナだよ

 今コイツは僕に向かってなんて…言った?


 放課後のチャイムが鳴って、校舎が少しずつ静まり始めていた。



 「……久しぶりだねサリー」


 おかっぱ頭の生徒はそう言った。


 どこか懐かしさを感じる素朴な顔立ち…。

 目には妙な光が宿っていた。


 僕は何も言い返すことが出来ず、ただ黙り続けていた。


 なぜだ。なぜコイツが僕のセラピーの仮名を知っているんだ。


 「ちょっと中島くんに話あるんだけどさ!」とおかっぱの生徒は1文字1文字気を込めて言った。


 「は…どな…た?」

 やっと絞り出した僕の言葉も虚しく、腕を掴まれ、そのまま引きずられるように校舎の奥へ連れていかれた。


 人のいない廊下。冷たい光。


 辿り着いた先は「多目的トイレ」と書かれた扉だった。おかっぱは勢いよくスライドドアを開けて僕をトイレの中に押し込んだ。


 「な…は、はぁ?」


 カチリと鍵がかかる音が響いた瞬間、空気が変わった。


 空間に漂う消毒液の匂い。

 心臓が早鐘を打つ。


 多目的トイレはさすが都立の高校と言うべきか、清掃が行き届いていて清潔感があった。


 おかっぱは僕の目の前に立つと、にやりと笑った。


 「サリー」


 息が止まる。

 なぜ…その名を、知っている。


 「……君は…誰ですか?」


 「私だよ。ニーナだよ!」

 おかっぱの生徒は左の掌をいっぱいに広げて胸に当てた。はにかんだ顔がとても可愛らしい子だった。


 ニーナ?この子が?


 違う。違うだろ。

 ニーナは天野ヒジリだ。

 あの時、渋谷で見た彼女は天野聖だ。


 じゃあコイツは誰だ?



 「……ニーナだっていう証拠は?」


 僕は無意識に問い返していた。

 おかっぱは少し目を細めて笑った。


 「証拠?」


 「あ、じゃあ僕たちの……合言葉は?」


 おかっぱは黙り込んでこちらを見つめた。



 そう、僕とニーナには合言葉がある。

 手紙の始めに書く合言葉が。

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