3-6 シャルの思いやり
シャーロット・リンデルは自室の机でノートと向き合っている。
横には分厚い論文と魔導書が開かれており、灯りがそれらを照らしている。
──(光量を増やすには、もっと魔石の量を増やすべきなのかしら。
それでは安直すぎるのよね。そうじゃなくて、
もっと根本的なところから改善していかないとだわ)
彼女は明かりを持ち運べる魔導具の設計図を書き起こしていた。
魔鉱石に光を取り入れ発光させて持ち運びができる道具で、
中の魔石を取り出せば室内を十分明るく照らせるほどに。
収納すれば小さなランプとしても使用可能だ。
シャーロットは十分な魔力を持ちながら、
それを属性魔法として扱うことができなかった。
どれだけ努力しても、それだけは叶わなかった。
だからこそ彼女は錬金術を学び、
魔導具を作ることで、自分の力を形にしてきた。
──コンコン
「シャル、いる?」
「ハンナ? ちょ、ちょっと待って。キャー」
「シャル!? どうしたの? 大丈夫? 」
「ええ、大丈夫よ。ちょっと待ってて」
椅子の隣、すぐ足元に試作品の魔導具を置いていたのを忘れ、
思わず蹴飛ばしてしまい、その弾みで山積みにしていた紙の束が見事に崩れた。
それらを跨ぎ、扉を開けると、眉根を寄せたハンナの顔があった。
「もう、普段から整理整頓しないからこうなっちゃうんでしょ?」
散らばった紙を拾い集めるハンナは驚いてもいない。
いつもの光景なのだ。
「わかっているわよ。ただ、片付ける時間がないのよね」
「はいはい。時間はみんな一緒ですぅ。はっ、違うわよ。
わたし、シャルの部屋を片付けに来たんじゃないんだから。
これ、返しに来たの。ありがとう」
「え? もう読み終えたの? 早くない?」
シャーロットはハンナに貸していた本を受け取り、パラパラとページをめくっている。
「何してるの?」
ハンナは首をかしげて見ている。
「ハンナの大事な大事な、誰かさんに貰った赤い革の栞がはさまっていないかって。
そんな訳ないわよねぇ」
シャーロットは目を細めて、「そうでした。そうでした」と自分のおでこを叩きながら
ハンナの反応を楽しんでいる。
「ちょっとぉ、やめてよー。だからそんなんじゃないってば」
ハンナの耳は赤く染まっている。
──(ハンナ、最近すごく楽しそうね)
少し前まで人の輪に入るのが苦手だった彼女が、
今は自然に笑っている。
だからシャーロットは、最近のハンナのキラキラした目を見ると嬉しくなる。
メルバが恋敵となってはいるが、さほど心配はしていない。
シャーロットは二人が並んでいるところを想像して、微笑んだ。
──(似た者同士なんだもの。どう見たってお似合いじゃない)
「ね、ハンナ? 後夜祭で着るドレスってどうする?」
「去年着たのでもいいかなって思っているんだけど、シャルは?」
「私はこの前のベルティア祭で買ったんだ。それを着るつもり」
「いいなあ。シャルは新しいドレス買ったんだ。ね、どんなの? 見せて」
「ふふふ、まだ見せない。
そうだ、前に私が着ていたのでよかったらあげる。
好きにアレンジしちゃっていいわよ。去年と同じじゃもったいないもの。
せっかくの後夜祭なんだから、いっぱいお洒落して見せつけてやりなさいよ」
シャーロットはクローゼットから数着のドレスを取り出し、ハンナに手渡す。
「ええ! こんなにいいよ。もったいないもん。
じゃあさ、お言葉に甘えて、一着だけもらってもいい?
ちょっといいこと思いついちゃった」
そう言ってハンナは紺色のドレスを胸に抱え、頬を赤らめた。
手先の器用な彼女は、昔からシャーロットに貰った洋服を、
自分好みにリメイクしていた。
その腕前は、もはや職人並み。
「どんな風に出来るか、仕上がりを楽しみにしているわ。
あ、そうだ。これ、」
ほんの一瞬、視線を落とし──それから差し出した。
「ん? なに? 何に使うもの? 」
「最近、だいぶ冷えてきたでしょ? これで身体を温めて。
ハンナ、季節の変わり目って体調崩しやすいじゃない? よかったら使って」
一見、普通のリボンに見えるが、それはシャーロットが作った魔導具。
冷え込むと、じんわりと熱を持つ仕組みになっている。
ハンナの三つ編みの結び目がちょうど鎖骨あたりにくるので、肩や首から身体全体を温めてくれる。
「夏頃から制作してて、やっと完成したの。熱くなりすぎてもいけないし、
外気温に左右されないように設計するのに手こずったけど、本格的に寒くなる前に渡せてよかったわ」
ハンナは両手でリボンを包み込み、満面の笑みをたたえる。
「ありがとう、シャル。嬉しい。しかもこのリボン、よくみると可愛い模様が描かれてる。早速明日からつけるね」
「どういたしまして。気に入ってもらえてよかったわ。
使った感想も教えてね。温度調整も出来るからいつでも言って」
「シャルはなんでも作れてすごいなぁ。本当、尊敬する」
ハンナの目尻は下がり、羨望の眼差しでシャーロットを見つめる。
シャーロットは何も言わず微笑み返した。
──(……本当は、私も使えたらよかったのに)




