1-0 プロローグ
世界の音が、鳴り始めていた。
空気が震え、地面の小石が小さく跳ねる。
耳ではなく、直接身体の内側に入り込んでくる、不快な響きだった。
うるさい。うるさい。うるさい!
地面がひび割れ、今にも分断しそうな激しい揺れと共に頭を掻きむしる。
石柱は崩れ、砂埃が舞う。その奥に倒れている人影が霞んで見えた。
このままでは倒壊に巻き込まれる恐れがある。
重たい足を前へ出そうとするが、悲鳴を上げているその身体は今にもバラバラになりそうだ。
──くそっ、動いてくれ。
地面に張り付いた足を腕で持ち上げて剥がし、ゆっくり前へすすむ。
「来るな!」
倒れているその人物は力を振り絞って叫んだ。
その奥、陽炎を分けた黒い人影が、倒れている者の髪を鷲掴みにして持ち上げた。
キ──ン、と耳鳴りのような金属音が、内側からルシエルを蝕む。
再び膝をつき、歯を食いしばって苦痛に耐える。
しばらくして、その黒い影はこちらへやってくる。
ゆらゆらと、ゆらゆらと。
霞む視界が黒で覆われ、見上げるとそれはローブを目深にかぶり、金色の目だけが冷たく光っていた。
そして苦悶に耐えているルシエルの身体を蹴り飛ばした。
「がはっ・・・」
ルシエルは口から血がしたたり落ち、目の毛細血管は破裂し真っ赤に染まっている。
「だから何度も警告をしていただろう」
男はささやくように詠唱を唱え指先に白い光を宿した。
「お前のおかげで今宵世界は生まれ変わるのだよ」
光を宿した指先をルシエルの額に当て、さらに詠唱を続ける
ルシエルはガクガクと激しく身体を揺らし悶絶している。
「や・め・ろ、、、や・め・ろ!」
光の強さを増し、忌々しい音があたりを包み込もうとしたその時、
「「「◾️◾️◾️◾️!」」」
はっきりとした、迷いのない響きが重なった。
それも、ひとつではない。
音の共鳴が一拍、遅れる。
次の瞬間、世界が悲鳴を上げた。轟音とともに、境界が崩れ始める。
光の中から、感情の欠片も宿さない声が落ちてきた。
「──お前は、世界を知りすぎたのだよ」




