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恋とあたしと貞操帯と【スピンオフ】

茜色の生徒会室で、見つけたもの ~恋のライバルと始めた、新しい関係~

作者: 久寿 たまや
掲載日:2025/11/21

※本作は『恋とあたしと貞操帯と』(ノクターンノベルズ掲載)と同一世界を舞台にした、別視点スピンオフ作品です。

※後日談的なお話になりますが、本編情報なしで、単体でもお楽しみいただけます。

※性的描写はありません。

※挿絵は、AIイラストです。(使用ツール:ChatGPT Image Generation)




 ――生徒会室、その窓の外に広がるのは、本当に綺麗な夕焼けだった。




 窓の前に立ち、枠に手を添え、その光景を望む。

 茜色に染まった、とても優しく、幻想的な景色。



 こうして外を眺めていると、最近の悩みも、少し溶けて小さくなった気分になる。



『貴女は何も悪く無い。わたしは、知ってる』


 これは、つい、1時間ほど前にかけられた言葉。


『今まで頑張ってきた自分を褒めてあげなよ。

そうだ、こんど、一緒にケーキでも食べに行こうよ』


 友達にして経理係の千尋ちゃんに言われたもの。



 最近、わたしは、少しスランプ気味で、あんまり上手くいってない。


 その始まりは、2週間ほど前。

 柏樹君を巡る三角関係で、後輩に負けた後から。



 皆は、そんなわたしに優しく接してくれる。

 ここのとこ起きてた、ちょっとしたミスや手違いとかは、都合よく解釈され、わたしのせいでも責めてはいけない、みたいな変な空気だった。


 多分、今の、生徒会室に一人残る、という申し出がすんなり通ったのも、きっとそれの一環。



 わたしひとりで、仕事を全て回せる、なんて思う程には傲慢では無いけど。

 足を引っ張るのは、流石に自尊心が傷付く。


 『役に立つとかじゃなくて、会長は、ただ、いてくれるだけでいいんです』みたいな、気休めの言葉は、あまり響かなかった。


 みんなの掛けてくれる気遣いという名の薄衣は、綺麗ではあるけれど、少し重くて、動き辛い。



 ……何も役に立てないわたしなんて、ね。



 窓の外の、情感を誘うような眺めは、感傷に浸るならおあつらえ向きの、実にいいシチュエーション。



 ――けれど、感傷には浸れなかった。

 実のところ。それが問題。



 矜持が、とか、痛みで、とか、そういうのであれば、まだ良かったんだけど。


 どうやら、わたしは精神的には、そんなに参ってはおらず。

 少なくとも、皆の想像するような、傷ついた女の子では無い。



 そのことが、わたし自身をも困惑させていた。



 心配や配慮が、『傷ついた少女』と『本当のわたし』の間にある隙間に落ちてしまう感覚。


 わたしの名前が書かれた、わたし宛じゃない荷物を、奈落に落とすのも、受け取って嬉しくない気分になるのも、どちらも嫌で罪悪感があった。



 もちろん、喪失感なんてない、とは言わない。


 彼の、柏樹君の方は、生徒会メンバーだから、定期的に会わざるを得ないし。それで、モヤっとしたものは感じてる。


 でも、それは、話に聞く失恋の痛み、みたいな感じじゃなくて。仲良かった子が引っ越しちゃうのを聞いたような、郷愁に近い感情だった。



 ……わたし、薄情なのかな?



 恥ずかしながら、失恋のカタチは、恋愛初心者のわたしには、全然わからない。





 少し、目を閉じて、大きく息を吐く。



 柏樹君を取り合った、あの、翠眼の小さな後輩――佐伯紗葵の顔でも思い浮かべば、

 恨みのひとつでもぶつけられたのかもだけど。


 残念ながら、浮かぶものは何もない。

 彼にも彼女にも、心の表面がざわつくだけ。

 まるで、痛覚がないみたいに響くものが無い。



 けど、実際、近ごろ効率が落ちてるのは、否定しようがない事実。


 良い方法は、何も浮かばない。


 でも、心の中を占める黒は、空虚の軽さではなくて、薄く重いモヤモヤが重なり合ったもの。


 何か、ある。

 けれど、その糸口は、掴もうとしても上手くいかなかった。



 結論から言えば。

 わたしは、結局、何も得られないまま。

 心の探索を諦めて、元の生徒会室に帰還する。



 ――ああ、もどかしい。



 他の生徒や、柏樹君には、まだバレてはないけど。

 みんなのフォローにいつまでも甘えるわけにはいかない。



 その場で、上に引かれるみたいに、手を伸ばして伸びをする。


 横目で見える、ホワイトボードの役割表、そこに書かれたわたしの名前。


 園山(そのやま) 汐那(せな) 。わたしは今、生徒会長という肩書きに見合った活躍をまるで出来ないでいた。





 目の前の夕映えの景色は、ますます色を深め、よく出来た絵画のような、なんともノスタルジックな光景。


 全てを染め上げる無駄に綺麗な茜色に、感嘆のため息を漏らしながら、窓のガラスに軽く触れて、その光景を眺める。



 ここから見える外界は、みんな小さくて、綺麗で、現実離れしたミニチュアの世界。


 こんな世界なら、どこかにあるんじゃ無い?なんて感じて。

 赤の光の中に、わたしの探すべきモノを、見つけようと目を凝らす。





 夕方の校舎には、まだまだ人は残ってた。


 たとえば、向かいの教室のガラス。

 鏡みたいに反射して、わたしの頭上、屋上の光景を映してる。そこには、下を眺めてる男女ふたりの、カップルの姿。


 『ここ、実は覗きスポットなんです』なんて、千尋ちゃんの説明。その幻聴が聞こえる。



 こんなとこから見られてるなんて、想像だにしない彼らは、肩を寄せ合って、実に幸せそうだった。




 ――恋人の関係。

 手に入れようとして、叶わなかったもの。



 ああいう関係、彼という特別な男の子がいるって、いいなぁ。

 自然に、そう思えてしまって、

 そんな自分の、乙女のような感性に苦笑する。



 確かに、欲しかったもの。

 でも、なにか違う。


 手に入らなかった、眩く美しいものは、何故だか、わたしの探し物では無いようだった。



 肩を抱き合ったまま動かない彼ら。

 傍観者は、目を逸らし、そっと去ることにする。





 次に、目に止まったのは、

 グラウンドをかけていく、ふたりの女の子。


 どこかに出かける予定でもあるのか、何か呟き合いながら笑って歩いていく。



 離れていて、なにも聞こえないんだけど。

 彼女らの楽しそうな笑い声は、ここまで響いてきそうだった。



 ――友達、ね。

 生徒会の仕事が忙しかったのもあって、ああいうのは久しく出来てない。



 特に、意味のある会話、そればっかり求められる生徒会長になってからは、ああいうのは、とても貴重な経験。



 段々と小さくなってく彼らの後ろ姿を、懐かしく眺める。

 探し物ではなかったとしても、その価値は揺るがない。



 ……いつまでも羨んでいても、仕方ないか。





 ふと、遠くに目をやれば。

 グラウンドの片隅で、何かを言い合ってる二人組が目に止まった。



 身振り手振りを交えながら、お互いに向き合って言い合っている男女。


 遠くて顔は見えないんだけど、両方ともに、不機嫌な雰囲気がでてる気がする。



 不意に響いた吠え声に目を遣れば、

 塀の上の、子猫に吠える犬の姿。




 ――喧嘩の関係。


 あまり歓迎するものではないんだけど、

 なにも言わずに恨まれるよりは、こっちの方が好みだった。


 対等である、というところは魅力的でもある。



 そういう相手って、結構、居ないんだよね。


 生徒会長、みたいな肩書きが付いてると、最初から対等でない、みたいにとられることが多くて。


 しかも、わたしは金髪碧眼という目立つ外見もあるから、いつも特別扱いだった。



 物怖じしないとこのある、柏樹君に魅力を感じた理由のひとつも、それ。



 変な特別感を打ち払おうと、多少の校則違反とかをしてみたりもしてるんだけど。


 親しみを感じてもらうよりは、先生公認みたいな変なとられ方もしてて、意識を変えるという点では、あまり成功してない。



 吠え続ける犬と、赤く染まった塀の上で縮こまってる猫に、わたしと、佐伯さんを重ねる。



 何故だか、恨んでたりとかはしないんだけど。


 周囲と彼女に、それをわかってもらうのは、たぶんすごく難しい。



 吠え声は止まず、この赤い世界の終わりまで、彼らの諍いは、続きそうだった。





 その光景から目を逸らし、視線を大きく別の方に向ける。


 つぎに、目に止まったのは、道路の向こう側を歩く親子連れ。幼い兄妹に、お母さんの3人組。




 ――家族の関係。


 あれは、良いなあ、って思う。

 わたしには、兄弟がいない。


 だから、そんな関係に憧れててて。友達以上で、殆ど家族の、近い年齢の人が欲しかった。



 幼い兄弟を羨み、彼らがじゃれあい、母に注意を受けながら、道路を横切っていくのを見送る。


 彼氏だったら、きっと、あんな感じになれるんだろうな。





 コツン、コツン、と廊下に響き出した足音に、茜色の世界から引き戻された。



 規則的に響き、近づいてくる誰かの足音。

 生徒会の誰か、にしては、足取りは遅いし、先生という線も、時間的にはなさそう。



 振り返ると、黄昏色に変わりつつある夕日は、部屋の奥までも、赤い世界に飲み込んでいた。



 わたしの身体にも絡みついてるその光を、手に取り、染まり具合を愉しむ。



 ふと、思いついて、髪を留めていたリボンを抜き取った。


◆◇◆◇

 肩にふわりと、金色の髪が広がる。


 この学校で、わたしを際立たせてしまうそれは、

 今は、赤みを帯びて輝き、この綺麗な世界には、よく馴染んでた。

◆◇◆◇

挿絵(By みてみん)

(挿絵: 夕日の中の園山会長(使用ツール:ChatGPT Image Generation))




「お、お邪魔しまーす」


 聞き覚えのある声と一緒に、ガラガラと、立て付けの悪いドアが開く。



 現れたのは、アンケート用紙の束を抱えた女の子。

 見知った、でも意外な相手。


 柏樹君を巡って争った当人、佐伯紗葵。



 彼女もまた、この部屋に満ちる光で、夕闇の世界に相応しい色で染まる。



 彼女の小柄な身体を包む紅もまた、美しく、その髪の黒色も、暗さを含み始めたこの世界に相応しい。


 ただ、瞳の翠色だけは、世界と反対の光を湛えたままだった。


 吸い込まれるような輝きの、大きく見開いた瞳がわたしを見つめる。




 まるで、金色の魔王と翠眼の勇者の邂逅。


 そんな幻想が、あるかもなんて思えるくらいには、この部屋は異世界色に染まってた。



 そんな勇者様は、少し離れた位置からでも、充分わかるほどに、わたしの存在に狼狽し、逃げ出そうかと何度も逡巡してる。


 彼女の片足は、置き場を求めて、ふらふらと宙を彷徨って。

 でも、最終的には、部屋に入ることを決めたようだった。



 夕日で赤く染まる彼女は、その瞳の反対色がよく映えて、まるで映画のワンシーンみたい。


 彼女は、目の奥底にうごく感情を見せまいとするように、顔を顰めて、目を細めた。


 一文字に結ばれた唇には、立ち向かうような決意。


 全身を茜色に染めた彼女は、あの日には無かった自信と妖艶さを纏ってる。



「あの、たかく……柏樹君から、お願いされてて。これ提出しておいてほしい、って」


 彼女は、アンケートの束を抱えたまま、まっすぐ歩を進めて、

 床に放置されてた小さな脚立にぶつかった。



「――ぁうんっ」


 痛みに耐えて、立ち止まる。


 傍目にはそれだけにも見えるけど。

 声に混じる感情や、吐息や仕草、そして潤みを帯びた瞳は、紅い世界で一際目立ち、妖しく儚げな雰囲気で、彼女を彩る。



 失礼とは思ったけど。

 その反応に、思い当たるものがあって。


 わたしの方から、彼女に、ずんずんと近づく。



 彼女は逃げようとしたものの、身体はその動きについていけず。茜色に染まった顔を、衝動を堪える為に歪ませて、悩ましげな吐息を漏らす。



 身を逸らす程度しか抵抗出来てない、彼女の腕を掻い潜り……

 スカートを押して、その中身を確かめる。



 ――指先に伝わったのは、予想通りの感触。



 女の子の身体の柔らかさではなく、骨のように包まれた硬さでも無い。

 そこにあったのは、剥き出しの硬いモノ。



 布一枚を隔てて、その硬さを、確かめる。



「柏樹君、まだ貴女に、それ着けさせてるの?

ちゃんと恋人として扱うように注意しようか?」


 わたしの申し出を、しかし彼女は、首を振って断った。


「良いんです。今のままで。

これは、約束で。あたしとの関係を、大事にしてくれてるって証だから」


「それじゃ、いままでと変わらないじゃない。せっかく恋人になったんなら、それに相応しい関係を、築かなきゃ」



「ごめんなさい。でも、ほんとに良いんです。なにも変わらなくても……」


 彼女は、恥ずかしそうに、もじもじと指を合わせる。


「……彼氏っぽいこと、何も、してくれなくてもいいの。あたしが、ただ、彼を好きなだけだから。

一緒にいるだけで、幸せになれちゃうんです」


 どこか困った顔で、そんなことを言う彼女。

 その言葉には、自分でも止められない感情の、不思議な実感が込められていた。



「…………そう、彼のことが、本当に好きなのね」



 はにかんで頷く彼女を見ながら、少し納得する。

 彼女が求めてたのは、柏樹君そのもの。


 わたしが、求めて、憧れたのは……




 ――ああ、なるほどね。


 日没の瀬戸際の光、閉ざされた空間の奥までをも照らすそれは。

 いま漸く、わたしの探し物に届いた。



 理解が、繋がっていく。


 わたしが本当に欲しかったもの。

 それは、親密で、変わらない関係。


 家族のような関係で、維持しようって頑張らなくても、あり続けるもの。


 それに一番近いところにいたのが、彼で……。

 たぶん、それだけだったみたい。



 ……もしかすると、彼となら本当に、その関係を作れたかもしれない。


 でも、考えてみても、やっぱり。

 欲しいのは彼ではなくて、関係のほうだった。



 だって、何もしない、柏樹君。


 恋人らしいことも、してくれないなんて。

 そんなの想像したら、わたしなら不満でいっぱいになっちゃう。



 もちろん。彼なら、何もしないなんて不義理はしない。頭と、経験則では分かってる。


 だから、関係の経験を幾重にも折り重ねたその先に。彼自身が、関係の象徴になった未来も、ひょっとしたらあったかもしれないけれど……。



 今は、まだ、経験則や理性の言うことを信じて、わたし自身を預けられるほどには、わたしの気持ちは、彼を信じてはなかった。



 ――佐伯さんとの、大きな違い。



 そっか、わたし、恋をしてるんだとばかり思ってたけど。

 どうやら、まだ、そうなってはいなかったみたい。


 わたしが、欲しかったのは、関係性であって、彼自身を求めてたわけじゃ無かった。



 恋に恋する乙女なんて、物語はよく知っているはずなのに。

 自身が陥るまで、そうと分からないなんてね。


 乙女を全然卒業できてなかった自分、それを意識して、苦笑い。



 そして、わたしを労ってくれた、生徒会の皆。

 何もしない、できないわたしなんて、価値ないって思ってたけど。


 ……そっか、うん。ただの慰めじゃあ、ないのね。



 みんなの優しさが、ようやく届いて、沁みていく。





「あぁ。もう、だいぶ暗くなってきたわね」


 窓の横に架けられた、照明のリモコン、それを操作しようとして。

 窓の外の、揺れる灯りに気づく。


 窓の外を覗けば、さっきの塀に警備員さんが登ってて、その腕には、震えて小さくなった猫。

 犬は、ずっと吠えてるけど、その尻尾は、よくみれば揺れていた。



 ――なんて簡単な見落とし。



 スランプ中のわたしの観察眼なんて、全然、全く、なんの当てにもならない。




 だから、暗くなった部屋に明かりを灯せば。

 そこに居るのは、勇者でも妖艶でもない、ただの女の子。



 白い光に照らされて、赤い不思議な輝きは、陽炎のように消えていた。


 改めて、彼女と向き合えば。

 開いたその瞳の奥にあったのは、僅かな怯えと罪悪感に潤んだ、優しい感情。


 そして、一文字に結ばれた唇は、よくみれば少し震えて、己を鼓舞するために奥歯を噛み締めてた。



 それは、さっきの、子猫の姿に重なってみえる。



 ……そういえば、紗葵さん。

 かつて柏樹君に、完全に振られて。そこから再チャレンジしたんだっけ。


 まだ、恋に成り切っていなかった想いのわたしですら、スランプに陥った。

 だったら、恋心を抱えた彼女がそこから、しかも思いを捨てないままに立ち直るには、一体どれほどの――


 ……その凄さを、僅かな片鱗ながらにも掴んで、指に馴染ませる。



 夕刻に触れたいろんな感覚、それと一緒に、解いた髪を纏めて、リボンで結い直していく。


 白いLEDの光に追われ、わたしの心にあった霞も、いつの間にかすっかり消えていた。





「これは、柏樹君の差金かな?」


 佐伯さんの近くに寄って、たじろぐ彼女に、優しく尋ねる。


「え、う……はい。

……でも、最後は、あたしの意思で来ました。

たかくんは、タイミングを教えてくれただけで……。

約束、なにも果たせてなかったですし」



 返ってきたのは、意外としっかりした回答。

 ただ震えるだけの子猫とは違うみたい。


「埋め合わせ、あの約束ね。

何をしてくれるつもりだったの?」


「ごめんなさい。実は、まだなにも。

でも、あたしじゃ、考えてもわからないから。

だったら、園山先輩と決めよう、って」


「わたしと?」



「はい。園山先輩は、憧れの先輩で、恋のライバルで。なのに後押ししてくれて。

それなのに、友達でも、家族でもない。

そんな関係なんて、初めてで、どうしたらいいか全然分からなくて……」


 そこで、彼女は逸らし気味だった視線を戻した。

 深みを増した翠色の瞳が、わたしを覗き込む。



「だから、園山先輩と決めよう。全く新しい関係にしよう、って」



「――そっか。まだ名前のない関係……。

ふふ、良いわね。すごく、いい」


 口元から溢れた笑みを指で拭う。



 彼女に改めて向き直る。

 表情は、まだ硬いけど。わたしが賛同したことで、ガチガチに緊張してたのが解れ始めたみたい。



 それに、考えてみれば。

 図らずも、素のわたしを曝け出したことがあって、秘密も知ってて、おまけに貸しまであって、多少の甘えは絶対許してくれる。


 彼女との関係の始まりは、そんな破格の条件だった。



「そうね、じゃ、新しい関係の前に。

わたしからあなたに3つだけ、伝えておこうかな」


「はいっ」


 先生に呼ばれたみたいに、背筋を伸ばして返答する彼女。



 固い表情をしてる彼女に、立てた指を見せる。


「ひとつはね。貴女は何も悪く無い。それはね。わたしが、保証してあげる。

ふたつめ。わたし、貴女のこと、すっごく気に入ったわ」


 3番めの指を立てて、彼女に見せる。


「そしてみっつめ、これが一番重要なの」



そして、真剣な目でわたしを見つめる彼女に告げた。


「……紗葵ちゃん。今から一緒に、ケーキでも食べに行かない?」


 初めて見る彼女の純粋な笑顔。

 それは、あの窓から見た、幼い兄妹のものとよく似ていた。

同じスピンオフ短編として、紗葵の親友・チカ視点のお話も「小説家になろう」側に公開しています。


タイトル:

『デートプランは、模索中!〜 指先で巡る、恋のキセキと歩きかた〜』

(Nコード:N4229LI)


今回のお話と同じ本編後の時間軸で、図書室で紗葵のデートプランを一緒に考えるチカの気持ちを描いた青春寄り短編です。

よろしければあわせて読んでいただけると嬉しいです。

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