朝
リーメイは朝からうずくまって丸くなっていた。
勿論朝食の準備は済ませてある。あとはヨウを見送るだけである。
そう、別に体調が悪いというわけではないのだ。むしろ、すこぶる快調である。昨晩のことを思い出すと、嬉しさやら恥ずかしさやらで頬が熱くなってきそうだ。
手に握っていたヨウの鱗のこともあり、リーメイの心境は現在混乱状態である。
「……体調、悪いのかい?」
ヨウがうずくまっているリーメイに心配そうに声を掛けてくる。当たり前である。妻がうずくまっていて心配しない夫はいない。
「い、いえ!すっごい良いです!おはようございます!」
リーメイはがばっと身体を起こした。急な動きに、ヨウが少し目を見張る。
「挨拶は君が起きたときにしたじゃないか。それに、顔が赤いけれど……熱でも出したんじゃないだろうね」
ヨウがリーメイの前髪を優しい手付きで上げ、そっと額に触れた。
急に距離が縮まって、リーメイは、ひゃ、と声を出しそうになった。
「……熱はなさそうだな。やっぱり昨日一緒に寝たのが――」
「違います!それは!絶対に!だってわたし昨日とってもぐっすり眠れました!なんなら、いい夢も見ましたよ!」
リーメイは夢の内容をうっすら思い出して、頬を両手で押さえたいような気持ちになった。
どんな内容かは、誰にも言えない。
「そんなこと言って、よく眠れなかったんじゃ――」
「違いますーーー!そもそもさっきまでわたしがくねくねしてたのは……その……」
ヨウの言葉を途中で遮ってまで勢いよく言ったのに、言い淀んでしまう。
顔が熱くなるのを感じた。心臓がどくどく動いているのが分かる。
だが、ここで言わねばヨウは勘違いをしたままになってしまうだろう。そうなってしまったらヨウのこころは傷ついたままになってしまうし、二度と一緒に眠れない。それは避けたかった。
「こ、子どもみたいに駄々をこねてたのを思い出して恥ずかしいのと!一緒に眠れたっていう嬉しさと!起きたときにヨウさまの顔が近くにあって良かったからです!」
リーメイは一息で言い切った。何故か少し息切れしてしまう。
「……そろそろ実家が恋しくなってくる頃合いだろうし、誰かと一緒に寝たくなるのは理解できるよ。別に恥ずかしがることではないんじゃないかな。
それと、君が気にならないなら……夜は僕のところへ来て良いのだし……」
ヨウが目をそらしながら、尻尾をゆらゆらと揺らす。最後のあたりがしりつぼみになって聞き取りづらかったが、リーメイにははっきりと聞こえた。
「え!これからも行っていいんですか!?あと、実家が恋しいとかそういうのはあんまりありません!」
「す、少しは帰りたいとか言ってもいいんだよ……?
それと、夜のことは君がいいなら……それを拒むのは気が引けるし……」
「わーい!それじゃあわたしのお布団はヨウさまのお部屋にしまうようにしますね!」
リーメイが急に元気になってぱたぱたと動きだしたので、ヨウは困惑した。ヨウから見れば、うずくまってもぞもぞしていたリーメイが少し話したら急に動きだしたのだから、その感情はごもっともである。
「リーメイ」
部屋に行こうとするリーメイの背中にヨウは声を掛けた。
リーメイはきょとんとした表情でこちらへ振り返る。
「……無理はしないようにね。何か嫌なことがあったら言ってほしい。それで君を責めることはしないから」
「……?ああ、何かあったら相談しますね!」
リーメイは首を傾げてから、納得がいったと言わんばかりの明るい笑みを浮かべて部屋へ向かっていった。
ヨウはリーメイの姿が見えなくなってから、軽いため息をつく。
あの顔、おそらくこちらの発言の意図が全く伝わっていない。
彼女がいくら気にしないと言っていても、実際にやってみたら無理だった、ということは十分にあり得るのだ。彼女は優しい性格だから、そう感じてもきっと口にも態度にも出さない。
そのため、無理はしないようにと声を掛けたのだが、きっと彼女はよく分からないけど気を遣ってもらった、という程度でしか理解していないだろう。
その態度こそが本当に無理をしていない証左になる、と言われれば頷けるのだが、どこかで彼女が無理をしていたら、それを見抜けなかったこちらは配偶者失格である。
どうであれ、リーメイとはこれからも色々と話さなければならないだろう。ヨウはいつものように朝の支度に取りかかり始めた。




