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第4話 勇者の手料理

 次の日の朝。

 外からいい匂いがして、目が覚めた。


 パンの香ばしい匂いと、ハーブの爽やかな香り。

 なんだろう……と思って布団から出ると、台所からカチャカチャと音がする。


 「おはよう、ミナ」


 そこにいたのは、エプロン姿のライルだった。


 「……は?」


 「起こす前に、朝ごはんを作っておこうと思ってな」


 なんで勇者が私の台所に立っているんだ。

 しかも手際よく鍋をかき回して、焼きたてのパンをオーブンから取り出している。


 「ちょっと待って。なんで入ってるの」


 「お前の母さんに許可もらった」


 ……母よ、なぜ勝手に通すのか。

 しかも母はすでに裏庭で洗濯をしていて、「いい匂い〜」なんて鼻歌まで歌っている。


 「勇者が……料理?」


 「旅の途中で覚えた。仲間の中じゃ、俺が一番うまかったぞ」


 そう言って、ハーブを刻みながらこちらを見る。

 手元の動きが無駄なくて、なんだか悔しいくらい様になっている。


 「はい、味見」


 差し出されたスープスプーンを、思わず口に含む。

 ふわっとハーブの香りが広がって、野菜の甘みと鶏肉の旨味がしっかりしている。


 「……おいしい」


 「よかった。お前のために作ったんだ」


 さらっと言われて、スプーンを咥えたまま固まった。

 ……おいしい以上に、言葉の方が効いた。


 食卓には、スープとパン、それに野菜と卵のサラダが並んだ。

 見た目もきれいで、村の食堂に出しても売れそうな出来だ。


 「旅の途中って、もっと荒っぽい食事じゃないの?」


 「最初はな。でも、お前が好きそうな味を覚えたくて、いろんな所で教わった」


 「……私が好きそうな味?」


 「甘めで、優しい味」


 まただ。

 どうしてそんなことを真顔で言えるんだろう、この人は。


 食事中も、ライルは自然に私の皿にパンを置いてくれたり、

 スープが減ると注ぎ足してくれたり。

 なんだか……王都の令嬢みたいな扱いをされている気分だ。


 「なあ、ミナ」


 「なに?」


 「こうやって、お前の家で一緒に朝ごはん食べるの、ずっと続けたい」


 心臓が跳ねた。

 スプーンを持つ手が止まる。

 そのまま視線を合わせられて、逃げ場がなくなる。


 「……またそうやって」


 「本気だ。俺は世界を救ったけど……お前と一緒に暮らせなきゃ意味がない」


 世界を救った勇者の言葉なのに、やけに家庭的で、温かくて。

 気づけば、私は少し笑っていた。


 「……とりあえず、食べよ。冷めちゃう」


 ライルは満足そうに頷き、またパンをちぎってくれた。

 その表情があまりに自然で、私も自然と口元が緩んでしまう。


 ――こうして、勇者との距離はまた一歩、近づいた。


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