第18話 闇に揺れる灯
……ガタガタと揺れる振動で、意識が少しずつ浮かび上がってきた。
頭は重く、口の中は乾ききっている。
目を開けると、ぼんやりとした闇の中。月明かりがわずかに差し込む荷車の天井が見えた。
(……私、どうして……)
記憶が断片的に戻る。
倉庫で野菜を取っていたら、後ろから布をかぶせられて――。
耳元で聞こえた低い声と、むせるような匂い。あれが眠り薬だった。
動こうとしたが、手首も足首も縄で固く縛られている。
口にも布が当てられ、声を出すことさえ難しい。
「目が覚めたか」
冷たい声が耳に届く。
顔を横に向けると、荷車を引く影――ラントさんだった。
「……」
何か言いたくても、声が出せない。
彼はちらりと私を見ただけで、また前を向いた。
「すまん……だが、こうするしかなかったんだ」
表情は暗く、声は苦しげだった。
だけど、その言葉が言い訳にしか聞こえないのは、私が縛られているからだ。
「家族を守るためだ……あいつらは、拒めば村ごと滅ぼすと――」
(……あいつら?)
思考がその言葉を追いかける間もなく、荷車は森の奥で止まった。
月明かりに照らされ、そこに立っていたのは――見覚えのある巨大な影。
「……また、お前……!」
魔将ガルド。
以前ライルと戦い、退けられたはずの魔族が、今は私を見下ろしていた。
「よくやった、人間。約束通り、家族は守ってやろう」
ガルドの声は嘲笑に満ちている。
ラントさんはうつむき、私と目を合わせようとしなかった。
縄を掴まれ、私は荷車から乱暴に引きずり下ろされる。
転んだ膝が痛んだが、悲鳴を上げるのは癪だった。
こんなやつらに、私の弱さを見せるものか。
「勇者の女……おとなしくしていれば、命は取らん」
「……っ」
声を出せない分、睨みつけることで抵抗する。
だけど、ガルドの赤い瞳に射抜かれた瞬間、背筋に氷のような寒気が走った。
「その目……面白い。壊しがいがある」
(ライル……)
心の中で名前を呼ぶ。
きっと気づいてくれる。
あの人は約束した――「守る」と。
足元の土の感触を確かめ、歩く方向や木の形を必死に記憶する。
森を抜けたらどこへ行くのか、何が見えるのか、少しでも逃げるチャンスを探す。
ガルドたちは、私を中心にして三人。
森の奥へと進む道には、わずかに草の擦れる音と、遠くで鳴く夜鳥の声だけ。
(お願い……ライル、来て)
胸の奥で小さな灯を守るように、その名前を何度も繰り返した。