第14話 勇者の嫉妬
翌朝、村の広場には男たちが集まっていた。
昨日の魔族襲撃を受けて、村全体で防衛の準備を進めることになったのだ。
「じゃあまず、槍の構え方からだ」
ライルが指導に立ち、村人たちに木槍を配っていく。
私も補助役として、槍を持つ手や立ち位置を整えるお手伝いをしていた。
「ミナちゃん、これで合ってるか?」
隣の若い農夫が、笑顔で木槍を持ち上げる。
「もう少し腕を伸ばして……そう、それでバランスが良くなるよ」
私が槍の柄をそっと直すと、農夫は「ありがとう」と屈託なく笑った。
――その時。
背後から、氷のような視線を感じた。
「……随分と楽しそうだな」
振り返ると、ライルが腕を組んでこちらを見ていた。
表情は変わらないけど、目だけがじっと鋭い。
「えっと……別に、普通に教えてただけだけど」
「そうか。じゃあ次からは俺が見る」
そう言って、ライルは農夫から槍を取り上げ、軽く振ってみせた。
その動きの速さと正確さに、農夫の顔が引きつる。
「こうだ。お前の構えは甘い。腕をもっと伸ばして、腰を落とせ。……ほら、もう一度」
農夫は必死に従うけれど、その口調はやけに厳しい。
見ているこっちが苦笑いしてしまう。
「ライル……ちょっと厳しすぎじゃない?」
「戦場じゃ甘さは命取りだ」
確かにそうだけど……なんとなく、これは戦術より感情が混ざってる気がする。
*
午前の訓練が終わる頃、村の女性たちが昼食を持ってきてくれた。
おにぎりや温かいスープが並び、皆が笑顔になる。
「ミナちゃん、こっち座りなよ」
農夫が空いている切り株を指さしてくれる。
「あ、ありがとう――」
「ミナは俺の隣だ」
気づけば、ライルが私の手首を軽く引いていた。
有無を言わさぬ力に、そのまま彼の隣に座らされる。
「……なんか、犬みたいだね。私を守る番犬」
「番犬? 勇者だ」
即答するところが、なんだか可笑しい。
思わず笑うと、ライルは少しだけ表情を和らげた。
「……俺は、お前が他の男と仲良くしてるのを見ると……落ち着かなくなる」
「それって……嫉妬?」
「……かもしれない」
小さく呟かれたその言葉に、心臓が跳ねた。
昨日の「守る」という誓いと同じくらい、胸の奥に響く。
「なら、安心して。私は……ライルが一番だから」
自分でも驚くくらい、素直に言えた。
ライルの耳がわずかに赤くなり、視線が逸れる。
――ああ、この人、やっぱり不器用だ。
でも、そこが好きだと、はっきり思った。