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第13話 次は絶対に守る

 村に戻った時には、すでに夜の帳が下りていた。

 森での戦闘を聞きつけた村人たちが集まり、私たちを取り囲む。


 「勇者様、ご無事で……!」


 「魔族はどうなったのです?」


 「しばらくは安全だ。だが……敵は必ず戻ってくる」

 ライルの言葉に、空気が一気に張り詰めた。


 人々は口々に避難の準備や守りの強化を話し始める。

 その輪を抜け出した私とライルは、村の外れにある井戸のそばまで歩いた。

 月明かりが二人の影を長く伸ばしている。


 「……今日は危なかったな」


 沈黙を破ったのはライルだった。

 その声には、怒りよりも悔しさがにじんでいる。


 「私こそ、ごめん。あんな勝手なことして……」


 「違う。お前がいなかったら、あそこで終わってた」


 ライルは立ち止まり、真剣な目で私を見つめた。

 夜の静けさが、その視線をさらに強く感じさせる。


 「ミナ。俺は……また同じことを繰り返すところだった」


 「同じこと?」


 「大事な人を……守れずに失うことだ」


 短く吐き出された言葉に、胸が痛んだ。

 彼の過去に何があったのか、全部は知らない。

 でも、それが彼の心に深く刻まれた傷であることだけは分かる。


 「だから……次は絶対に守る。たとえ命を懸けても、お前を守る」


 静かな声なのに、胸を打つ力は強かった。

 気づけば、涙がにじんで視界が滲む。


 「……そんなこと、言われたら……」


 「泣くな。お前には笑っていてほしい」


 不器用な言葉。でも、優しさが滲み出ている。

 ライルはそっと私の頬を拭い、指先で涙をすくった。


 「それに……泣いてる顔も、可愛いけどな」


 ――反則だ。

 心臓が跳ねて、呼吸が苦しくなる。


 何か言い返そうとしたその時、遠くで犬の吠える声が響いた。

 村の見張りが松明を掲げ、森の方を指差している。


 「……またか?」


 ライルの表情が険しくなる。

 だが、しばらく見つめたあと、犬は静かになり、松明も下ろされた。

 ただの獣だったらしい。


 「……安心したら、急に眠くなった」


 私が小さく笑うと、ライルもふっと表情を緩めた。


 「休め。明日からは村の守りを一緒に整える」


 そう言って、彼は私の肩に手を置き、村の家々へと歩き出した。

 その背中は大きく、そして何より――頼もしかった。

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