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第12話 森に現れた影

 木々の間から、ゆっくりとそれは姿を現した。

 人の形をしているけれど、背丈はライルの倍近くある。

 漆黒の鎧に包まれ、額からはねじれた二本の角。

 瞳は赤黒く光り、まるで炎のように揺れていた。


 「……魔将級か」


 ライルが低く呟く。

 その言葉だけで、背筋が凍りつく。

 魔将――かつてライルが倒した魔王軍幹部と同格の存在。


 「人間……勇者か。懐かしい匂いだ」


 魔将は、地を震わせるような声で笑った。


 「ここを通すわけにはいかん。全ての人間を、森で葬る」


 言い終えるや否や、巨剣が振り下ろされる。

 ライルは剣で受け止めたが、衝撃で地面にヒビが走った。


 「ミナ、下がれ! こいつは……危険すぎる!」


 「でも――!」


 「いいから!」


 その瞬間、二人の剣が火花を散らす。

 ライルの剣筋は速く鋭い。だけど、魔将はそれを易々と受け流し、反撃を繰り出す。


 何度も打ち合いが続き、やがてライルの呼吸が荒くなった。

 魔族との戦いで肩の傷が癒えていないことを思い出す。


 ――このままじゃ……負ける。


 私は必死に頭を回転させた。

 訓練で教わったこと、村の倉庫で見た道具の数々、全部。


 ――あれなら……!


 小声で「ごめん」と呟き、ライルの背後からそっと離れる。

 森の中を駆け抜け、倒木の影に隠された罠の材料を見つけた。

 狩人たちが使う大型の落とし穴用の網と、仕掛け用の縄だ。


 急いで設置しながら、ライルと魔将の戦いを横目で追う。

 剣と剣がぶつかる音が、少しずつ重く鈍くなってきている。


 「ミナ! 何して――!」


 ライルの声を振り切り、私は大声で叫んだ。


 「こっちに誘い込んで!」


 「は……?」


 「信じて!」


 ライルの目がわずかに見開かれたが、すぐに理解したように頷いた。

 次の瞬間、彼は魔将を巧みに後退させながら、こちらの方へ導く。


 ――あと一歩……!


 魔将が踏み込んだ瞬間、私は縄を引いた。

 足元の土が崩れ、巨体が大きく傾ぐ。


 「今だ、ライル!」


 ライルの剣が一閃し、魔将の左腕が宙を舞った。

 咆哮が森を揺らす。


 「……面白い。今日はここまでにしておこう」


 魔将は後退し、森の闇に溶けるように消えた。

 その瞬間、私は全身の力が抜け、地面に座り込む。


 「ミナ……お前、無茶しすぎだ」


 ライルが歩み寄り、膝をついて私の顔を覗き込む。

 怒っているはずなのに、その目は優しかった。


 「でも……助けたでしょ?」


 「……ああ。お前のおかげだ」


 そう言って、ライルは私の頭に手を置き、そっと撫でた。

 その温もりが、胸の奥まで染み込んでいく。

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