第10話 傷の手当てと揺れる想い
戦いの後、私たちは村外れの小屋に身を寄せた。
村に戻る前に、ライルの傷を手当てするためだ。
「服、脱いで」
「お、おう……」
言った本人の私も、顔が熱くなる。
旅の中で何度も傷は負ってきたのだろうけど、こうして間近で見るのは初めてだ。
逞しい肩、鍛えられた胸筋――そして、血に濡れた深い傷。
「……結構深いね。痛くない?」
「痛いに決まってる。でも、ミナに触られてると不思議と和らぐ」
そんなことをさらっと言うの、やめてほしい。心臓が持たない。
清潔な布で血を拭き取り、薬草をすり潰した軟膏を塗る。
ライルはじっと私の顔を見つめている。
「……なんでそんなに見てるの?」
「戦ってるお前、すごく綺麗だったから」
思わず手が止まった。
あの時は必死で、自分がどう見えていたなんて考える余裕はなかった。
でも、ライルの声は真剣そのものだ。
「守られるだけの存在だと思ってた。けど、今日のお前は……俺と並んで戦ってくれた」
彼の大きな手が、私の頬に触れる。
温かくて、力強くて、少しだけ震えている。
「ミナ、俺は――」
また、その言葉。
聞きたい。ずっと聞きたかった。
でも、今度こそ聞けると思った瞬間――
ドンドン! 小屋の扉が激しく叩かれた。
「勇者様! 村に急ぎの知らせが!」
扉越しに響く村人の声。
ライルは小さく息を吐き、私の頬から手を離した。
「……すぐ行く」
立ち上がった彼の背中に、言葉が引っかかったまま残る。
何を言おうとしていたのか、もう分かっている気がするのに――確かめられない。
「ミナ、手当てありがとう。……おかげで動ける」
その笑顔が、少しだけ切なく見えた。
私はただ、小さく頷くしかなかった。