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アズール戦記  作者: カム
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第一話:王都での出会い

世間知らずの巫女ペルラは訪れた王都でリュート弾きの青年アズールと出会い、旅路を共にすることとなる。ふたりの抱える秘密と世界の闇が交差していく正統派ファンタジーになるといいな。

あの鮮烈な青を、私は生涯忘れないでしょう。


ちょうど天暦三千年の夏至の日でした。その日は抜けるような晴天だったのを覚えています。王都の入り口で麻の旅装束に杖を携えた私は、旅の疲れと目的地に到着した安堵から立ち止まり、呆然と空を見上げておりました。サンダルに擦れた足がひたすら痛く、また酷くお腹を空かせていた私は、すでに満身創痍で、とにかく入る店を探さないとその場に崩れ落ちそうなほど疲れ切っていました。ぱっつんに切った明るめの茶髪は額に張り付き、ほのかな色合いの真珠色の瞳には照り返しが辛く、次第に目眩までしてくるようです。白い石畳の町のあらゆる窓には真っ赤に染まったカーネーションが咲き誇っており、少し先には涼しげな噴水の広場が見えます。噴水の傍らには金髪の美しい巻毛を一つに束ねて青いベストと白い刺繍入りのマントに身を包んだ青年が腰掛け、リュートを爪弾いています。青年を囲んで若い女性たちがきゃあきゃあ言い合い、その光景を横目に人々が足早に歩き抜けて行きます。その全てが珍しく、私は息を切らしながらも、目を輝かせて見入ってしまっていました。そんな私は側から見ても芋っぽい田舎者の女だったのでしょう。街路脇で呼び込みをしていた男性が気付かぬうちに近くに寄って、私に話しかけました。

「お姉さん、巫女様かい?随分と背が高いねぇ。今日はどちらから?」

私は驚いて変な悲鳴を上げた後、自分の胸の下に見える男性を見返しました。たしかに私は巫女としての修行を積んでいて、旅装束とは言っても巫女が着るようなローブを羽織っておりましたし、体格の大きな男性ですら見下ろすほど背が高いのです。そのせいもあって人から遠巻きにされてきた私は、急に話しかけてきた男性におっかなびっくり返事をしました。

「すみません....!旅の途中で....」

男性は大きく頷き、いきなり私の腕を引っ張りって言います。

「じゃあ疲れてるでしょ!うちの店に寄っていきな!」

「あ、えっと....」

「心配しなくても巫女様から金は取らねえよ!」

「え、本当ですか!?」

旅の疲れが吹き飛んだようでした。なにせ手持ちもあまりありませんでしたから、男性の申し出は大変ありがたいものでした。私は喜んで男性の後をついて行こうとします。

「待ちなよ」

後ろから大声が聞こえて、私と男性は振り返りました。見るとリュート弾きの青年の青い瞳と目が合います。彼は軽やかに立ち上がってこちらに歩いて来ます。そしての目の前で立ち止まり、うやうやしく一礼して見せました。

「君、王都は初めてかい?」

「え、は、はい」

「そうか、街の入り口付近には、旅人を標的にするぼったくりが多いから気をつけるんだよ」

「え」

私が振り向くと、そそくさと去っていく男性の後ろ姿が見えました。あ、っと出た声は虚しく響きました。遅れて騙されそうになったことに気付き、恥ずかしさから顔に熱が集まります。追い討ちのように青年が「特にうまい話には気をつけるんだよ」と言うので、私は顔から火が出るような心地でした。しかし助けられたことは純粋に嬉しく思い、私はもじもじとその青年に向き直ってお礼を言いました。

「助けていただきありがとうございます....、なにぶん世間知らずなものでして.....」

青年は端正な顔で微笑んで言います。

「そのようだ」

さっぱりとした言い方に、私はまた頬が熱くなりました。青年はそれを見て笑みを深めます。

「良ければ着いておいで、僕のおすすめの店に案内するよ」

「え!?」

私はどうすればいいかわからず、その場でたたらを踏みます。小首を傾げる青年に、私は恐る恐る尋ねました。

「あなたは....ぼったくりではないですか....?」

青年はとうとう声を上げて笑い出しました。


「すみません!おかわりください」

「君....良く食べるね」

ペルラとアズールと名乗った青年は、噴水の広場を抜けた先にある大通り沿いのバルに入って遅めの昼食を摂っていた。

ペルラは空になった皿を押し除けて新しく運ばれてくる料理を受け取った。通りに面した料理屋の、十人がけほどの広いテーブルには、すでに開けられた大皿料理の皿が溢れんばかりに積み上げられている。呆れた顔のアズールを気にすることなく、ペルラはまた大口を開けて、取り分け用の大きな匙を口に運んだ。細切りにした牛肉が口の端からはみ出ている。

「なんて女だ....」

店員がぼそりとこぼした。ペルラはその冷めた視線も気付かないのか、淡い真珠色の目を料理に向けている。長い明るい茶髪は邪魔にならないよう耳に引っ掛けられていた。ペルラはもぐもぐと口を動かしながら店の外を見やる。店に入る前と比べて、人通りが異様に増えている。しかも石畳の道を行き交う人々は皆色とりどりの晴れ着で着飾っていた。まるで街全体が花園になったかのような鮮やかさだった。

「人が多いですね、お祭りでもあるのでしょうか?」

アズールが答える。

「おや、知らないで来たのか」

すでにビーフシチューを食べ終えてリュートを弄っているアズールに、ペルラは複雑そうな顔で言った。

「世間知らずなもので....」

「そのようだね」

アズールは気にした風ではない。それがペルラには有り難かった。

「今日はこの国、セレスティナの第二王子が十九歳になる。第一王子は身体が弱いから、彼が王位を継ぐのではと言われているんだ。その第二王子の成人だ。新しい国王が決まるかもしれないと、みんな期待して地方から集まっているのさ」

「へえ、この国に王子様なんてのがいたんですねぇ。私と同い年です。」

口の端に着いたソースを指で拭いながらペルラがそう言ったので、アズールは目を丸くして絶句した。

ペルラ:身長215㎝、スリーサイズと体重はちょっと大きめ。19歳の巫女。

アズール:身長170㎝、細身。美しいリュート弾きの青年。

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