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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Jésus

作者: こまりがお

 流れる雲を道標に旅して来た。


 風が行き着く先を知りたくて旅に出たが、未だに目的地には辿り着けずにいた。

 

 そんな旅の途中で立ち寄った村はドレミンと言う名前であった。このご時世では珍しく豊かとは言い難いが、それでも平和そうな村であった。


 ここに来るまで近隣の街や村で噂は聞いていたが、作り話のような噂を鵜呑みにする程に僕は単純ではない。


「見ない顔ね。旅人さん?」


 噂に聞いた通りの少女だった。


 噂が本当だと思ってもいなかったし、まさか村に着いて最初に声を掛けて来た人物が噂の当人とは思ってもみなかった。


 驚きのあまり返す言葉が遅れた。


「……あ、あぁ。僕は旅人さ。」


「やっぱり!ねぇ、何か旅の話を聞かせてよ。」


 歳は十二、三歳ほどであろうか。

 少女は女性へと羽化する準備を初めていた。


 腰のあたりまである長いブロンドの髪、まるで陽を浴びたことがないような肌。だが……、それ以上に噂通り『二つの満月』のような蒼い瞳からは目が離せない。

 

「どうしたの?旅人さん?」


 黄昏に染まり首を傾げる彼女は、この瞬間を記録に残す手立てがあるならば、命を賭しても良いと考える程に美しかった。


「いや、何でもない。砂の国の話でもしようか。」


「砂の国?」


 旅の途中で聴いた吟遊詩人の歌を彼女に語った。

詠ってやりたいのは山々であったが歌は門外漢だ。

それでも彼女は喜んで聴いてくれた。


 砂の国の女王は絶世の美女であり、世界を変えるほどの美貌が壮絶な人生を迎えることになったことを語った。

 最後に千年以上も昔の人物であるが、現在でも語られていることを告げると彼女はこう言い放った。


「私なら半分の期間で同様に後世で語られるわ。」


 冗談だとはわかっていたが、彼女の瞳が現実にするのでないかと思わせる。その冗談に乗っかってしまった自分に今でも後悔している。


「確かに君ほどの美人なら可能だろう。」


「じゃ、具体的に何をしようかしら?」


「……この戦争を終わらせる。なんてどうかな?」


 彼女の瞳がそれまで以上に輝いた。


 何かを思いついた彼女は両手を紫光しこうに染まる空に広げてこう叫んだ。


「天啓、キタワァ━━━━(n'∀')η━━━━!!」


(……キタ…ワァ?)


 彼女が壊れたのかと、勘違いする程のはしゃぎように驚く間も無く、自問自答の雨霰が降る。


「どうしようかしら。まずはそうね。イングランドの豚共を駆逐しましょう。大義名分がいるわね。王太子の復権よ!!。」


「……あぁ。……それで…その後は?」


「全ての取り戻すのよ。祖国の為に。豚共を殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、そして、殺しす。豚肉料理ってそんなにレシピがあるかしら?」


「……。あまり無茶はしないように。」


「はい、はい、はい。」


 彼女は地団駄を踏みながらクルクルと回る。スカートがはためき、ブロンドの長い髪が宙を舞う。

 その様子は新しいダンスのように創り出したかのように思えた。



 やはり噂は本当であった。

 女神のような容姿に狂信と行き過ぎた愛国心。

 少女とは思えない思考に意味不明な発言。


 『魔女』と呼ばれるには充分だ。



 気がつけば、陽は沈み辺りは闇に覆われていた。

 星灯を頼りに彼女を家へと送り届ける。


 興奮が冷めない彼女は道ながら僕に問いかけてきた。


「そう言えば、名前を聞いてなかったわね。」


「僕か?僕はミカエル・アレク・マルガリタ。」


「……マ、マジ天使!!モチツケ、私。」


(マジ?モチツケ?)


「コホン、失礼。私は————。」



 三年後、彼女は聖女と呼ばれていた。


 旅の途中でたまたま出くわした時には僕のことを覚えており、意味不明な言葉を告げられた。


「街娘から聖女にクラスチェンジしたわよ!」


(……クラス…チェンジ?)



 更に三年後、彼女は十字架に張り付けられていた。異端者と呼ばれ業火に焼かれる直前であった。


「あら?天使じゃない。どうしたの?」


「……忠告したじゃないか。」


「だって!あの大司教がキモいんだもん。寝こみを襲って来たから一物を切り落としてやったわ!!」


(……キモい?)


「とにかく、これに懲りたら————。」


「はい、はい、はい!お説教は充分!!」


 これが最期の言葉だと思ったが、彼女の魂は一言だけ告げてから天へ帰った。



 ありがと。天使じゃなくて……、精霊さん。



 もし、もし彼女が僕に出会わなければ、どんな未来に辿りついただろうか。


 彼女は少女の頃の言葉を現実にした。


 彼女が十九歳になった春だった————

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