SS02.オープン前のレストランの近くで
異世界転生転移のデイリーランキング2位になりました!
ありがとうございます(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)ペコリ。:.゜ஐ⋆*
カンカンカン
ドンドンドン
海沿いの街に響く音は、新しくオープンを予定している店の工事音だ。
この街では珍しい、それでも街並みに合わせた色合いを使用している外観になっている。
元は煉瓦造りの建物を、そのまま使用している。その煉瓦の上に、珍しい色が使われていた。ヴィータ王国でよくある色合いだ。
「もう少しで完成するのかしら」
その建物を眺めているのは、ソフィア・オルランド侯爵令嬢。この街では侯爵令嬢ではなくソフィアとして生活している。
「そうですね、あと一月もすれば完成しますでしょうね、オープンが間近に迫っているようですから職人達も忙しなく働いていますね」
ソフィアの姉として一緒に暮らしている侍女はご近所さんに聞いたらしい話をソフィアに伝える。
姉である侍女を見て、どこのご近所さんからの噂話なのかと考えに耽る。心地よい風が通り、髪がなびく。ソフィアは被っている帽子が飛ばされないように手で押さえ、再び建物へと視線を移す。
若い男が図面なのだろうか、大きめの紙を見ながら職人と話しているようだ。
近くにはガタイの良い男が控えているように見える。
余程の資産家なのだろう。
自身の身を守るために用心棒を雇う資産家がいるという噂を耳にしたことがある。恐らく図面を手にしている男は資産家なのだろう。
その姿にソフィアは、どことなく懐かしいように感じる。
男は図面と思われる紙を小脇に抱え、中へと入っていった。
「どうかされましたか?」
とある一点を見つめていたソフィアに侍女が声をかけ顔を覗き込む。
侍女に覗き込まれていてもソフィアは考え込んでいたのか暫く気づかないでいた。
気温が高めでもあるから、きっと蜃気楼のようなものだろう。あの姿をリヴォルタ王国で見るはずがない。見かけることもないし、今後は思い出すこともない姿だ。
ハッと気づいたソフィアは侍女と視線を合わせた後に目を伏せ首を横に振る。
「ううん、何でもないわ、少しだけ懐かしいように感じただけよ」
きっと自分が感じたことは真夏の蜃気楼のようなもの。そこにない、幻想だろうとソフィアは思うことにした。
「ヴィータ王国の食材を使用したレストランになるようですよ、オープンしたら食べに行きましょう、きっと美味しいはずです」
侍女の提案に微笑みで返し、一ヶ月後にオープン予定のレストランをソフィアは楽しみにすることにした。
その頃にはきっと、ヴィータ王国ではアルベルトとヒロインが親密になり、数々のイベントが起こっているはずだろうから。
ハーレムルートを目指すなら、最初に伯爵家子息がヒロインに恋心を抱き、次に侯爵家の子息と、順にイベントをこなす。
このハーレムルートの難しさは最初からアルベルトとのイベントをこなし好感度を少しずつあげていくことが必要なのだ。
急激な好感度アップは失速する、それこそ、アルベルトのルートからも外れてしまう。
そんな駆け引きが行われているヴィータ王国の学園を想うと、巻き添えとなる子息たちの婚約者に複雑な思いを抱いてしまう。
自分はもう悪役令嬢ではない、ただの、この世界に生きる一人の人間、ソフィアという人間なのだと言い聞かせて、変に乙女ゲームのことを思い出さないようにしようと心に決めた。
「今夜は何を食べようかしら?」
思考を切り替えて夕食のことを考える。
何はともあれ、食べることは大切だ。無駄な思考をせずにいられるからだ。
「漁師たちに新鮮な魚介と海老をいただきましたからパスタにでもしましょう」
「あら、いいわね!トマトベースの味がいいわ」
「えぇ、ではトマト味にしますね」
今夜の夕食へ思いを馳せながら、新しくオープンを予定しているレストランを背にして自宅へと向かう。
スキップしているソフィアを温かい目で見守る侍女と......
いつの間に気づいたのだろう、その店の前でこちらを見つめる男の姿。
ソフィアだけを見つめる男は口元を緩める。
「後少しだね、楽しみにしているよ?」
その男の声は誰にも届かない。
読了ありがとうございます♡
小話更新は今回で最後だと思います。
これ以上は本編より多くなりそうなので。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
気が向いたら小話か連載にしますね。
■完結済み
「男装令嬢は王太子から逃げられない〜義家族から逃げて王太子からの溺愛を知りました〜」
https://ncode.syosetu.com/n4328gm/
「狂う程の愛を知りたい〜王太子は心を奪った令嬢に愛を乞う〜」
https://ncode.syosetu.com/n4767gl/
■オススメ短編
「悪役令嬢はゲーム開始前に王太子に攻略された」
https://ncode.syosetu.com/n8714gg/