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中編

本日もよろしくお願いします!

おかしい、どうしてこうなったのだろうか?


学園へ入学する前から頻繁に顔を合わせることになった婚約者であるアルベルト王太子殿下にソフィアは頭を悩ませている。


当初は計画通り『女避けの婚約者』として距離を取ることができていたはずなのに、いつの日にからか顔を合わせる頻度が増え、アルベルトが学園へ入学してからは王城で会えない日は邸に訪問してくる。


言うまいと思っていたのに、つい、『心を通わせる人がいたら教えて欲しい』とまで伝えて、アルベルトの想い人がいるか探ったのに、探ったのに、だ、いなかった。


ソフィアは内心、驚愕した。

顔には出さぬようにしていたが驚いたのだ。


アルベルトが学園へ入学した年に、平民で優秀な少女が学園へ入学し共に学んでいるはずなのだ。


乙女ゲームでは、直向きに努力を続け笑顔で愛らしい少女に恋心を抱き未来を共に歩むことを望み、正妃として迎え入れるために婚約者であるソフィアを断罪するのだ。


ソフィアは入学してからアルベルトと少女の親しい姿に嫉妬し嫌がらせをする。

家の権力を使い学園の令嬢達を従わせて、少女に嫌がらせをするが、アルベルトの優秀な側近達により罪が暴かれる。アルベルトの卒業式に。


優秀なアルベルトは思いつきだけで少女をそばに置くことを望むだけではなく、王太子の隣にいて相応しいとされるように少女に教育を施すのだ。


未来の正妃、王太子妃となれるよう妃教育の基礎を教えて平民出身であることを理由に有力貴族達から反対されないように。


卒業する頃には立派な淑女となった少女に愛を乞い婚約者に望むのだ。


今の時期は少女に基礎の基礎を教えているはずだ。乙女ゲームではソフィアが入学した頃には貴族のことについては少し理解をしていた。


平民の愛らしい振る舞いは矯正されず残っていて、その愛らしさで王太子であるアルベルトに取り入っていると勘違いしたソフィアにより嫌がらせをされるのだ。


お妃教育でわからないところをアルベルトに話した際は、ソフィアのお妃教育の内容を知り練習で教えてくれていると思っていた。


全ては学園で出会う平民の少女のためだと思っていたのだ。


「どこで間違えてしまったのかしら」


自室の寝台に大の字になり呆然と天蓋を見つめる。上手くいっていたはずの計画が狂い始めている。


既に隣国で暮らせるよう手配は済んでいる。あとは身一つで隣国へ渡るだけだ。


「どうしてアルベルト王太子殿下は私なんかに構うのかしら」


優しい微笑み、包み込むような笑顔、甘い声に瞳、ソフィアにとって恋心を抱いてはいけない相手。


アルベルトのことを考えると胸の奥がキュウっと締め付けられる。


アルベルトとの関係性、以前のように距離のある関係性へ戻すことができないまま、ソフィアは学園へ入学することになる。


学園への入学が近づくにつれてアルベルトと過ごす時間が増えていった。

お茶の時間だけではなく、社交やマナー、ダンスの練習に王太子としての仕事で忙しいはずのアルベルトが相手になってくれている。


アルベルトとソフィアが夜会に出る機会もないのにダンスの練習をしていることに違和感しかない。


学園への入学が近づいた頃に社交界デビューの時期を聞いたが、アルベルトは学園生活が落ち着いた頃、もしくは卒業してからと話していた。


だから頻繁にダンスの練習をする必要はないはず、いや、練習して困ることではないが、相手がアルベルトである必要はない。そう、相手がアルベルトである必要性はないのだ。


しかも、だ、この王太子、何かにつけてソフィアに身体を密着させてくる。

最初は戸惑い緊張していたがアルベルトの上手いエスコートと甘い笑顔に騙されて、密着されるのを拒むことが出来ないでいる。


ダンスを教える講師も最初は「未婚なのですから」「異性との距離を.....」と王太子であるアルベルトへ可能な範囲で離れるように伝えてはくれていた。が、今は微笑ましそうに見守っている。


その対応に満足しているのか小言を言われなくなってから更にアルベルトは楽しそうにしている。


ぱぁあああとした笑顔が眩しい。


ダンスを見守っているソフィア付きの侍女はそんなアルベルトの笑顔を見て頬を赤らめているくらいだ。


ソフィア付きの侍女はソフィアが五歳の頃からの側付きで頻繁にアルベルトと顔を合わせているから滅多なことでは頬を赤らめることはないはずなのに、あの笑顔にはやられるらしい。


ダンスの際に時折、甘い言葉で囁いてくるのは気のせいだろうと思いたい。

甘く囁かれることにも慣れてくるとソフィアは視線を外し遠くを見て気を紛らわす。が、アルベルトには気づかれている。

必ずと言っていいほど、笑顔なのだ。黒さを感じる笑顔だ。


ダンス中、ダンスが終わった後、お茶の時間、帰路の馬車内でアルベルトのエスコートは完璧だ。


完璧なのに

完璧なのに

黒い、その笑顔が。


ダンスの際の、ぱぁあああとした笑顔は作り物なのかしら?と疑問に思うくらいには黒さを感じる笑顔だ。


「腹黒王太子なのかもしれない.....」


思わず声に出た言葉に驚きソフィアは慌てて口元を手で抑える。

チラリと視線を向けると、窓の外を見ていたアルベルトの視線と交わる。


目を細めたアルベルトの口角があがり笑みが作られた。


----コホン


ソフィアは恥ずかしそうにしてアルベルトから視線を外す。

その間もアルベルトはソフィアを見つめている。


(腹黒って聞こえたけど気のせいってことにしてあげよう)


ソフィアは先ほどの漏れ出た言葉はアルベルトには届いていないと判断した。アルベルトは聞こえていたが笑顔を作りソフィアの本音が聞けたことに満足する。


(危なかったわ、あの様子なら聞こえてないわよね。腹黒だなんて聞いたら怒るだろうし、何より、、、、あれ?怒らせて入学前に婚約解消に持ち込んだ方が良かったのかしら?)


腹黒と感じたことを言葉にしたのは後悔していない。アルベルトに気づかれないように、何も言葉を発していなかったかのように振る舞ったのを邸に着いてからも後悔した。


ソフィアは恐れている。

今だけかもしれない、ヒロインと結ばれるために、婚約解消の断罪のために、悪役となるために、全ては強制力によりアルベルトが自分に愛を囁いているのかもしれないと。


少し裏があり腹黒かもしれない。

でもそこは、前世の記憶補正なのか、今のソフィアにとっては魅力の一つだ。


キラキラ王子様より多少の腹黒さがあった方が人間味がある。


前世のソフィアは癖のある男が好きだったのか現世に多少の影響を与えているようだ。


「乙女ゲームのアルベルト王太子殿下は王道キラキラ王子様だったけど、今の殿下とは違うわ。やっぱりゲームと現実では多少の違いがあるのかしら。それとも強制力?」


邸に送り届けてもらった後は夕食を済ませ、湯船に浸かりながらアルベルトのことを考えていた。


乙女ゲームでの王子様と多少の違いがあるアルベルトは今のソフィアにとって魅力的で隣に立ちたいと思わせるほど。

そう思わせるための強制力なのかもしれない、そう考えると哀しくなり胸が張り裂けそうだ。


今すぐにでもリセットボタンを押して、なんならセーブデータなど残さずに終わらせたい。


現実のこの世界にリセット機能はない。

運命に抗うためには逃げ出すか自死か。

どちらにしても侯爵家にとっては醜聞でしかない。


貴族令嬢である自分が自死するためには用意するものと大きな覚悟、生を手放す覚悟が必要だ。


しかも、上手くいく保証がない。

やり方だってわからない。


ならば.....


かねてよりの計画を実行に移すほかない。

乙女ゲームの強制力に打ち勝ち、生ある未来を手に入れよう、そう、ソフィアは決意し決行を決める。



晴天に恵まれた入学室の前日、オルランド侯爵家から一人の令嬢が姿を消した。


令嬢の部屋の寝台は使用された形跡が見当たらない。シーツが整えられておりシワもなく綺麗な状態が保たれていた。


寝台横の台には水差しがあり、使用されたグラスが残されていた。


お風呂あがりに水差しとグラスを使用したのだろう。

前夜は珍しく早めに就寝すると話していた。そのためか最後に目撃されたのは19時頃だという。


次期王太子日となるソフィア・オルランド侯爵令嬢の住う邸には多数の護衛がいた。

王家から手配されていた護衛もいたのだ。


それなのに、それなのに、

王太子であるアルベルト・デ・ヴィータの婚約者、ソフィア・オルランド侯爵令嬢の姿が邸中を捜しても見当たらない。


邸の使用人、護衛に話を聞いてもソフィアの姿が見当たらないのだ。


ソフィアの姿が消えてから二時間が経ってから王城に報告がされた。


その日の王城は季節の花が咲き見頃となっていた。

晴天に恵まれた入学式の前日、この花を見ながらお茶をしようと考えていた王太子は公爵令息である再従兄弟と共にいた。


入学式の前日というこの日に自分の友人としてソフィアにサイラスを紹介しておこうと考えていたのだ。

その他の友人たちも入学してから紹介して皆にソフィアのことを知ってもらおう、そう考えていた。


ソフィアの姿が消えたと知らせを聞いて、アルベルト美しい花の前で呆然と立ちすくんでいるように見えた。


そう、側にいたサイラスはアルベルトがショックを受けて呆然としているように見えていたのだ。

アルベルトの護衛たちもだ。

声をかけずアルベルトの言葉を待った。


誰も気づいていない。

アルベルトの口元に笑みが溢れていることを。楽しそうに、嬉しそうにしている、その心中は誰も気づかない。


アルベルトは笑顔を作り空を見上げる。


「これで逃げられないね」


ソフィアは運命に抗うために邸から行方をくらました。

それなのにアルベルトは逃げられなくなったと喜ぶ.....

明日も20時に投稿です。

明日が最終話!


■完結済み

「男装令嬢は王太子から逃げられない〜義家族から逃げて王太子からの溺愛を知りました〜」

https://ncode.syosetu.com/n4328gm/

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