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記憶
山田は思い出していた。まだ幼かった頃、何かで見聞きしたことを。
ある海沿いの地域で若い女が暮らしていた。幼くして両親が海で死に、女は漁船に乗る。そして、1人の男と夫婦になり、やがて身ごもる。しかし、男は喧嘩っ早く、酒に溺れる。そして、女はイワシをさばいて開いて、調理などして、寝る間も惜しんで漁村から少し離れた街で売りに歩いた。そのうちに女のお腹は大きくなり、身動きがとれなくなった。それを見た夫は、改心したのか、酒をやめ、喧嘩もやめ、漁船に乗る。そして、1人の子供が産まれた。女の子だった。ふたりは、女の子に光ヒカリ、と名付けた。




