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第六話 侵入

読んで頂き、ありがとうございます。

隣の家の中の様子について説明回です。

よろしくお願いします。


 圭は一旦家に戻ると、押し入れの中から子供の頃のアルバムを探した。

 家の前で撮影した写真が何枚かあるはずだと思い探したのたが、アルバムがどこにも見あたらない。


「おかしいなぁ、この辺にあったと思うんだけど……母さんが片付けたのかぁ?」


 薄暗い押し入れに頭を突っ込んで探しても見つからず、諦めて押し入れから出る。


 押し入れの前で正座をし、腕を組んで目を瞑る。自分の記憶が正しければ、今朝まで隣は空き地だったはずなのだ。なのに、たった半日で、あんなにも素晴らしい何年も昔からそこにあるかのような佇まいの家を建てる事は可能なのか?いや、不可能だ。物理的に。しかし、昔テレビで海外では引っ越しといえば家を丸ごと移動させる国もあるとやっていたのを見たことがある。だが、しかしだ。隣に建っている家は、どうみても可動式住宅には見えない。蔦の絡んだアーチも庭の草木も、ずいぶん前からそこにあるかのような佇まいだ。

 自分の記憶を疑ったが、ロンの反応を思い起こすと、どうも記憶違いには思えない。

 混乱する自分の考えを、どうにかして解決できないかと、もどかしさを感じた。

 瞑っていた目をぱっと見開くと、組んでいた両腕を解き太腿を勢いよく、ぱん、と叩く。


「隣に行って聞いてくればいいじゃないか。同級生なワケだし、お隣さんなワケだし?」


 うん、と頷くと、素早く立ち上がり家を出た。

 洋館の門の前でインターフォンを探すが、どこにもそれらしき物が見あたらない。

「すいませぇん」と声を上げても、住人には聞こえていないようだ。

 白い壁が中に声を通させまいとするかのように、どっしりと立ちはだかっている。塀の脇を歩いてみたが、草木が生い茂っていて家の中の様子がよく見えない。

 この草木だけでも、ここ数日で育った物では無いように当たり前の顔をしてそこにある。半日で育つようではバケモノ植物だ。

 圭はその草木を見ただけでも、自分の記憶が間違っているのではないかと自身を疑った。

 再び門の前に来ると、玄関のドアが少し開いているように見えた。さっきも開いていただろうかと小首をかしげ、周囲を見渡す。誰も来る様子もなければ、誰かが覗き見ている様子もない。


「開いている……入って良いってこと?招かれているってことかな?うん、きっとそうだ。そうに違いない。うん」


 まるで泥棒心理のような言葉を自分に言い聞かせるように呟き、門をそっと開ける。見た目の割に力なく開けることが出来きた。半分ほど開けて素早く入り込む。蔦の絡んだアーチを抜け、そっと後ろを振り返ると、よく手入れがされた色取り取りの花が美しさを競う様に咲き誇っている。日本の庭とは明らかに異なる世界がそこにある。アーチを抜けた瞬間、自分が異空間へ入り込んだ気にすらなった。

 ドアの前に立つと、これまた日本の玄関口にはそうそう付いていないドアノックが付いていた。若干錆ついた雄々しいライオンが、輪っかを咥えている。ドアは少し開いてはいるが、インターフォンも無さそうなので一応礼儀としてライオンが咥えている輪っかを指先で掴みノックをしてみる。 

 誰の返事もない。

 そっとドアノブに手を掛け引くと、恐る恐る家の中を覗き込む。

 中を見た瞬間「はぁ」と感嘆の声を上げた。

 玄関は約三十畳ほどの広さで、吹き抜けになっている。天井は半ドーム型のガラス張りになっていて自然光が差し込み、真っ白い床や壁を優しく照らしていた。白い大理石の床はよく磨かれていて、圭の姿がうっすら映っている。

 家の中は三方向へ行く廊下が続いており、真っ直ぐ行く通路の先はガラス張りになっていて、まるで美術館の様だと思った。外に出られるガラス扉もある。そのガラス扉の先には、中庭と別の建物が見えた。

 圭は「すいません」と遠慮がちに声を出したが、とても良く響いた。しかし、相変わらず誰一人出てくる気配はない。むしろ、人の気配は全くないと言ってもいい。圭は家の中に入り込むと、静かにドアを閉めた。

 どの方向へ行こうかと左右に顔を向ける。

 が、左右の通路は不思議と、どこまでも続いているように見える。自分の中にある記憶を辿る限り「隣の空き地」の面積は、多く見積もっても百坪あるかないかの広さだったはず。しかし、たった今、自分の目に映る景色は、それ以上の敷地がある。塀の外から見たときも、これほどの幅があったとは考えにくい。いくら白は膨張色とはいえ、これは広すぎないか?と圭は首をかしげたが、以前、とある美術館で見た遠近法を駆使したアートを思い出した。大して身長差がない人同士で、左端と右端に立つ。するとどうだろう、巨人と小人があっという間に現れた。この家も、きっとそれだ。と、無理矢理納得をし、改めて廊下を見た。

 窓から射す木漏れ日は、夢を見ているかのように幻想的だ。真っ白い壁には、いくつも金色の突起物が見える。なんだろうと思いながら、左側の通路へ向かう。そっと壁に近づき金色の突起物を確認すると。

 近づき初めて気がついた。


「ドア……?」


 目の前には真っ白なドアがあった。顔を左に向け、ずっと続くドアノブを見た。ドアとドアの間隔は数センチほどしか無く、同じ真っ白い板に金色のドアノブが付いている。部屋数が欲しいと言っても、いくら何でもこれはやり過ぎだろうと思った。どうせなら広い部屋を用意した方が良いのではないだろうか、とも思った。余計なお世話だが。

 ドアは左廊下だけでも五十部屋以上ありそうな気がした。とは言っても、目の錯覚を利用している廊下であれば話は別だが。右に続く廊下も、同じように真っ白いドアに金色のドアノブが付いている。

 手前のドアノブに手を掛けて、ゆっくり回してみようとしたが、びくともしない。やはり飾り物かと思った。それにしても、この夥しいドアノブの数は異常な光景だ。


「何なんだ、この家は……」


 圭はエントランスから真っ直ぐに伸びる廊下を行くことにした。両壁には、左右に行く廊下同様、金色のドアノブが付いている。正面には中庭に出るガラス扉があり、ガラス扉に近づくと左右に二階へ上がる螺旋階段があることに気がついた。  

 全てが真っ白で気がつかなかった。圭は立ち止まり、二階を見上げた。天井には上品なシャンデリアが飾られている。圭が知っているシャンデリアというものは、成金が好むようなやたら金や何やらをゴテゴテと飾った豪華なものしか知らない。しかし、この家に飾られているシャンデリアはクリスタルのみで出来た物で、とてもシンプルな作りだ。どこか二階の窓が開いているのだろうか、雫のような形をしたクリスタルが微かに揺れ、日の光できらきらと輝いている。

 圭は二階には上がらず、一旦中庭に出ようと思った。ガラス扉のドアノブに手を伸ばそうとすると、左右に廊下があることに気がつく。玄関先で見た光景が、そのままそこにある。左右の廊下には、真っ白な壁にいくつもの金色の突起物。

 圭は左右にゆっくり顔を向け、その光景を眺めた。こんな不可解な家は初めて見る。しかし、こんな風に他人の家に堂々と不法侵入しておいて何だが、何故か心地よく、恐れはなかった。

 そのままガラス扉を押し開けると、中庭に出た。

 中庭には小さな噴水が、ちょろちょろと申し訳なさ程度に水を出している。それでも、水が流れている音は心地よいものだ。青々とした芝生と玄関先同様、夏の草花が咲き誇っている。一見、乱雑に植えられているように見えるが、バランスの取れた色や配置は、花々の高さを上手く計算された植え方だ。これだけの庭を半日で造れるわけがない。そして、中庭を見回して分かったことが一つある。

 この家がロの字型をしていると言うこと。この草花といい、可動式の家ではないと確信した。しかし、そうなると自分の記憶がおかしいということになる。ロンの反応はいったい何だったのか、自分がとても自然に口走った「隣の空き地」と言ったのは、なんだったのか。

 圭は自分記憶に「おまえ、大丈夫か?」と問いかけながら中庭を歩き、入ってきたときとは反対側にあるドアを開け、隣の建物へ入った。

 こちらの建物も、異常なまでのドアの数があった。ただ、違うのは玄関の真っ白さとは対照的に、温もり間溢れる木で出来たドアだ。そして、玄関先のドアと違ってドアとドアの感覚もそれなりにある。床には厚手の高級そうな真っ赤な絨毯が敷かれている。圭は土足で歩くのを躊躇い、靴を脱ぎ右へ真っ直ぐ続く廊下を歩くことにした。すると、どこからか人の話声が聞こえてきた。先ほどまで自分でも驚くぐらい堂々としていたのにもかかわらず、人の気配がした途端、心臓は小動物のように忙しなく動き出す。

 圭は声のする方へ足を忍ばせながら近づいた。ドアの一つが少し開いている。どうやらそこから声がするようだと分かると、開いているドアに素早く近づく。


「だから、なんでお前がここにいるんだ」


 一番先に疲れ切った男の声が耳に入った。続いて聞き覚えのある女の声が耳に入ってきた。


「だって、シンさんから連絡が来たんだもの。私だって、ま、さ、か、初仕事が()()()のチームだとは夢にも思わなかったけど」


 女は「お兄様」と強調して言い、その声はまるで、からかうような愉快な気持ちが込められている。


「まぁ、いいじゃない」


 と、笑いながら言うもう一人男の声がした。


「法術師が二人いるとなれば、案外早く事が片付くだろうし。だいたい、今回の任務は急を要するんでしょ?」


 どこか幼さを感じさせる声だ。


「シン、よりによって何でこいつなんだ?」


「俺の推薦なら誰でも受け入れるんじゃなかったのか?」


 シンと呼ばれた男は、飄々とした感じで男に答える。そして「まぁ、お互い様だな」と言ったその声には、どこか含み笑いのようなものが聞き取れる。

 圭は何故かその場で耳を澄まし、中の話しを聞き続けた。


 後ろから肩を叩かれ「君、ここで何をしているの?」と、声をかけられるまで。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


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