最終話 未来へ
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
卒業パーティー後、今までの離れていた時間を取り戻すかの様に、レイとミユウは沢山の会話をする様になった。
卒業したからと言って直ぐに仕事が始まる訳ではなく、入社まで三週間ほど時間があった。その間、レイが休暇の日はカフェでランチを共にしたり、時にはシンやウィルを交えて夕食の時間を過ごすようになった。
本来なら、その三週間は引越しをするための期間として空いていた時間だったが、ミユウの部屋探しは難航していた。
残り十日となった時、ミユウの事情を知っている寮母に呆れながら「いい加減、シェアハウスでも良いから部屋を見つけなさい」と言われ、ミユウは困り果てていた。
何せ一人暮らしなどした事が無いのだから。シェアハウスとは言え、見ず知らずの人に迷惑を掛けるのは、流石のミユウも気が引けた。その事をハルに伝えると「私には良かったのか!?」と怒られた。
ハルに一緒に住まないか誘ったのだが「またあの寮生活に戻る気はない」と冷たく断られた。
寮でも、ほぼハルや、その後同室になった女子生徒の世話になっていたのだ。自分で出来る事の少なさは、自慢じゃ無いが人よりも多いと自負している。
それを胸張って伝えると、ハルは呆れ顔で乾いた笑い声を上げた。
「まぁ、ミユウはやる気はあったからね。ただ、驚く程の家事センスが無いってだけで。いっそのこと、レイ様に頼んでみたら?兄妹なんだし、良いって言ってくれるんじゃ無い?」
という言葉に
「その手があったか!」と、青天の霹靂とでも言うように目を見開き、ハルに礼を言った。
ハルは心の中でレイに謝ったのは言うまでもない……。
「と、言う訳で!お兄ちゃん、一緒に住みませんか!?」
「……う〜ん。ミユウ、ごめん。俺、一人に慣れてるからか、正直、人と暮らすとか想像付か無いんだよ。例えば、一緒に暮らさなくても、俺の家の近くに住むとか、そういう考えもあるだろ?」
「なら、尚のこと一緒に暮らしてみるのは必要かも知れないわ。例えば、お兄ちゃんに恋人が出来て、その人と結婚するってなった時、一緒に暮らすのは苦手なんて言ってられないでしょう?人と一緒に暮らす事が、どんな感じかを慣らすのに丁度良いかもよ?」
「う〜ん……どうかなぁ。今のところ、俺は結婚願望とか無いし……寧ろ、一人のままで良いとも思っているからね」
レイは困った顔で穏やかに否定する。が、ミユウは何としても兄に頷いてもらわないと行けないので必死だ。
「お兄ちゃん程の人が一生独り身なんて有り得ないでしょう!それに今は結婚願望無くても、運命的な相手が見つかる事だってある!」
余りにも「結婚」や「運命の相手が」等と言い過ぎたのだろうか、急にレイが冷たい声を出した。
「……ミユウは恋愛話が好きなのかな?結婚願望が強いの?」
レイの雰囲気が変わったのに、一瞬身構えたが、ミユウはそれを無視する。
「私の話は置いておいて。今はお兄ちゃんの未来についての話です」
「俺の未来は、俺がちゃんと決めるから心配しなくて良いよ?ところで、今ミユウは好きな相手とか居るのかな?」
テーブルに片肘をつけ、手の甲に顎を乗せてミユウを見つめる。その仕草が妙に色っぽく、ミユウはすかさず視線を逸らす。
「別に。今は誰もいない」
「……今は?……」
「お、お兄ちゃんには関係ないです!もう過ぎた話だし、やっと心の傷も塞がったんだから、蒸し返さないでっ!」
その言葉に、レイの深緑の瞳が強い光を放つ。
「傷……?誰だ、ミユウを振った不届き者は……」
低く呻く様な声がに、ミユウは慌てる。
「だっ!もう大丈夫だってば!もう、思い出したく無いくらいなんだから!この話は終わりっ!」
納得のいかない顔でミユウを半目で見ながら、レイは「ふん」と息を吐き「絶対、見つけ出して締めてやる」と呟いたのは、聞かなかった事にした。
見つけ出したとして、自分をどうやって締めるのかちょっと気になったが、ミユウは軽く身震いして話を戻した。
「まぁ、そこまでお兄ちゃんが嫌だって言うなら、仕方ないよね。ごめんなさい、無理言って……」
ミユウは申し訳ないと小さく微笑みながら、爆弾を投下した。
「明日にでも、シンさんに一緒に暮らしてもらえないか……「一緒に住むか!!ミユウ!!」
ミユウの言葉に大声で被せながら、レイは笑った。青筋立てながら。
ミユウはしてやったり顔で「ありがとう!お兄ちゃん!よろしくね」と、満面の笑みで返した。
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レイと一緒に暮らす様になって、ミユウなりに頑張って家事をしようとした。が、何度やっても上手くいかず、レイがやや窶れた様子で
「もう、良いよ……。やらなくて良い……。俺は家事に慣れているし……。家事、好きだから……」
と言って、家事を手伝わせてくれなくなった。
せめて出来る事をと、お茶を淹れてみると、これについてはレイにも認めてもらえてホッとした。
そしてボタン付けも任せてくれる様になって、ミユウは少しでもレイの役に立てる事が嬉しかった。
ただ……誕生日に渡した刺繍を入れたハンカチは、何故か微妙な顔をされて一度も使われていない。
何がダメだったのだろうかと、ミユウは少し落ち込んだが、きっと使うのが勿体無いと思ってくれたのかも知れないと前向きに思考を切り替えた。
朝は相変わらず弱くて、目覚ましを三個用意しても、いつの間にか止めているらしく鳴ったことにも、止めた事にも気が付いてない状態だった。
それを見兼ねたレイが、毎朝起こしに来てくれるのだが、なかなか起きない時の起こし方が余りにも刺激が強くて、半年経った今でも未だにドキリとしてしまう。
気持ちはもう「兄」として向いていて、昔の様な恋心は無いのだが、無駄に美丈夫であるため、ドキドキするなという方が難しい。
一緒に暮らし始めて半年。
随分とお互いを知り、自然と続く会話も無理していなくて、心地良い。
レイは基本的にとても静かで穏やかだ。….ミユウが何か失敗しない限り。綺麗好きで、お洒落で、料理も驚くほど美味しく、カフェやレストランへ行くよりレイのご飯を食べたいと思うほど、ミユウの胃袋はしっかり掴まれている。
そんな心地よい陽だまりみたいな毎日が、これからも続けば良いなと思っていると、レイから思いもしなかった事を言われ、目の前が真っ暗になった。
長期任務で一週間後に家を空けると言うのだ。その絶望感たるや。ミユウは思わず嘆くと、レイは一瞬、嬉しそうな表情を見せたが、直ぐに半目に変わった。
ミユウの心がレイが不在中の食事の心配に向いているとわかると、不機嫌丸出しで「実家に帰るなりしろ!」と冷たく言い放たれた。
ミユウはレイが任務で部屋を空けるのが、どのくらいかかるか分からない以上、外食は出来るだけ避けたいと思っていた。となると、やはり実家に帰るのが妥当なのかと思ったが、実家から職場までは一時間以上かかり、朝が苦手なミユウとしては通勤が辛くなる。では、使用人を一人派遣してもらうのはどうかと思い、父親に打診したが……。
「お前もそろそろ、いつか結婚をするのだろうし、自分でどうにか出来る様にしなさい」と言われてしまった。
ミユウがどうしたら良いのか考え込んでいると……。
ミユウに声を掛けてかる人物が居た。振り向くとシンが立っていて、いつに無くご機嫌な表情が見て取れた。
「ミユウ、仕事は慣れたか?」
「シンさん、こんにちは。ええ、だいぶバディとのリズムが分かってきて、慣れてきた所です」
「そりゃあ良かった。ところで、ミユウにはちと早いとは思うんだが……長期任務で現実界へ行くのに、興味あるか?」
「長期任務?お兄ちゃんが近いうち行くって言ってましたけど……」
「そう。それ。近いうちレイがリーダーとしてチームを組んで任務に当たるんだ。そのメンバーとして、どうだろう?一緒に行ってみないか?経験値積むには良いぞ。勉強にもなると思うけど」
まさかの誘いに、ミユウは瞳を輝かせた。
「良いんですか!?行きたい……行きたいです!よろしくお願いします!」
「了解。じゃあ、申請しておく。ただな、当日、現地で落ち合うまで、レイには黙っていて欲しい。所謂、サプライズだ」
珍しくシンが悪戯っ子の様な表情で言うので、ミユウは吹き出してしまった。
「良いですよ!私、そういうの大好きですから!」
「よし!決まりだ。とりあえず、先にミユウに頼むことは、現実界の『高校』という学校に通ってもらいたいんだが……」
シンの話を聴きつつ、初めてレイと共に仕事をするのだと思うとワクワクした。
そして……。
(良かった。これでご飯の心配しないで済むんだわ)
と、こっそり心の中で喜んだことはミユウ一人だけの秘密だ。
〈終〉
〈あとがき〉
レイの過去編からミユウの過去編を含め、最後まで読んで頂き、ありがとうございます!
これで一旦、お休みをいただいて、第二部へ行こうと思っております(*^^*)
第二部は、前回宣言通り、ダークログスター編として、レムアドミニスターの敵側ですね、その彼等との話を書いていきます。
現在、まだ数話分しか書けていない為、どのくらいお休みするか謎ですが……(汗)
その代わりと言っては何ですが、新しいファンタジーでも載せてみようかと思っております。
それも併せて、楽しんで頂けると幸いです。
では、しばしのお別れ……。
ありがとうございました!
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