第九話 兄妹
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パーティー会場へ到着した時には、もう終わり間際だった。
二人とも目を真っ赤にし、如何にも泣きましたという顔だったせいか、誰もが「何も見ていません」とでも言うように目を逸らしていく。
「お前ら……どんだけ泣いたんだ?」
シンが飲み物を二人に渡しながら呆れた様子で言う。
「どのくらいかな?多分、俺は少なくとも二十年分は泣いたと思う」と、レイは真剣な顔で言う。
「二十年ですか……。それはある意味、とても重いですね」
ウィルが困った様な笑顔で言う。
「重くて何が悪い。これから俺は逃げも隠れもせず、妹を愛すると決めたんだ」
「その言葉、一歩間違えるヤバいから気を付けろ、レイ」
シンが苦笑いしながら窘める。
「あら!私だって、今までの十六年分の愛情をお兄様に注ぐと決めてます!その愛情はお兄様にだって負けません!」
何故か得意気に言うミユウを、シンとウィルは目をパチクリしつつ見つめる。その隣に立つ兄は、蕩ける様な笑みを浮かべて妹の頭を撫でる。
さっきからチラチラとこちらを見ている外野から黄色い声や息を吐く音が聞こえてくる。
「お前ら……本当、言葉には気をつけろよ?俺たちはお前らの関係を分かっているから大丈夫だが、その他の人間が聞いたら近親相姦とか思われるぞ」
シンは声を顰め心底、心配そうに言う。
「「それは無いから大丈夫」」
「お前ら……。でもまぁ、誤解を招く言葉は本当に気を付けろよ?特にレイな!浮かれ過ぎだ」
その言葉にレイは不服そうな表情をして見せたが「わかった」と素直に頷いた。
「あ、そうだ。ミユウ?」
レイは何かを思い出したかの様に、パッとミユウに顔を向けにっこり笑う。ミユウは首を傾げ、言葉を待つ。
「ミユウ、お願いだから『お兄様』と呼ぶのは止めてくれないか?俺には不似合い過ぎて、何だかむず痒くなるんだ」
「え?」ミユウは戸惑いながら訊き返すと、シンが笑いながら答えた。
「ミユウは知らないだろうが、レイは生まれは上流階級でも、心を作り上げたのは下町だからな。上品な呼び方は居心地が悪くなるんだろ」
「じゃあ……どう呼べば……」
「親しみを込めて『お兄ちゃん』では、どうですか?下町の兄妹達はそう呼ぶ事が多いですよ?」
さっきまで黙って和やかに聞いていたウィルが言うと、シンも「それなら良いんじゃないか?」と笑いながらいう。
「俺の意見は無視か?」
レイは不服申し立てをするかの様に不機嫌に言う。
「じゃあ、なんて呼ばれたいんだ?」
レイは膨れっ面のまま「……お兄ちゃん……」と、小さな声で答えた。
その答えに、シンとウィルだけで無くミユウも吹き出して大笑いした。
「あ!あと、丁寧な言葉もやめて欲しい。距離を感じるから」
「あはは!わかったわ、お兄ちゃん!これからもずっと、よろしくね!」
ミユウは飾らず大胆な笑い声を上げながら砕けた言葉で言うと、レイは嬉しそうに頷いた。
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