第五話 守りたい
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震えが治まって暫くすると、レイは妙に恥ずかしくなり「もう、大丈夫です」と小声で伝える。
シオンは何やら楽しげに「遠慮するな」と言って、ぎゅっと抱き締める腕に力を込めた。
「ほ、本当に大丈夫ですからっ」
「あははは!そうか。なら仕方ない、離してやるかぁ」
シオンはゆっくり身体を離すと、ミユウの頬に優しく触れる。
「妹ちゃんは、どうやら君のことが大好きなんだろうね。命懸けで助けるなんて、愛がなきゃ出来る事じゃない。魔力の生み出し方は、守りたいものがあるかどうかなんだ。その思いが強いかどうか。それを、形に出来る人間は少ない。だが、君も妹ちゃんも、守りたいものが明確に分かっている。今回は無意識ではあったが、魔力を生み出した。妹ちゃんの想いは、相当な強さだったから暴走した。だが、これを訓練すれば、こんな事はもう起きない」
囁く様に語りかける言葉に、レイの眼頭がグッと熱くなる。
「これからは、こんな裏で喧嘩する様な人生じゃなく、妹ちゃんを守れる男になれ」
大きく温かな掌が、レイの頭を優しく撫でる。その温かさに、瞼の縁で留めていた雫がポトリと落ちた。
「そうだ、アシュレイ!」
唐突に名を呼ばれたアシュレイは、嫌そうな顔をしながら「何です?」と面倒臭そうに訊ねる。
「この子達をアカデミーに入れたらどうだろう?きっと良い法術師になると思うけどなぁ」
その言葉にアシュレイは、口角をへの字に下げながらも思案する様に顎に手を当てる。
「まぁ……確かに二人ともなかなかの力を持ってますね。訓練をすれば、良い線は行くかと」
「誰か良い法術師はいない?あぁ……ほら、君が言ってた彼……誰だっけ?期待のホープ。あぁ!ウィルって言ったか?その法術師に付けたらどうだ?」
レイの理解出来ない話を二人はどんどん進めて行くなか、腕の中でモゾっと動く気配を感じた。
「ミユウ?」
ゆっくりと瞼が開いていく。半分ほど開くと、ミユウは掠れた声を出す。
「おにい……さま?やっと……あえた……」
微かに笑みを浮かべると、再び瞼が閉じて、規則正しい呼吸音が聞こえてきた。
「……強い子だ。本来なら、魔力切れを起こすと少なくとも二週間程は眠ったままだ。それだけ、君が心配なんだな……。なぁ、君。これから俺が提案する事を真剣に考えてみて欲しいんだが……」
それから、シオンは「睡眠管理事務局」という組織についてと、法術師について語り出した。その法術師になる為にはアカデミーに入って訓練をし、卒業しなくてはいけない。二年間の実施訓練と筆記による授業を受けること。そして、上位成績者は卒業後すぐに法術師として組織で働く事になるとのこと。
「入学は随時受け付けている。あ、年齢制限はあるが、君は十四歳過ぎてるよね?」
「……はい……今月十六になります」
「うん。なら入学可能だ。あ、アシュレイ、俺の名前で推薦状出しても効果あるか?もう法術師じゃ無いから無理か?」
「いえ、恐らく大丈夫です。貴方は組織にとっては面倒臭さ満載の大切で貴重な存在ですからね。ちょっとでも恩を売っておこうと思って受け入れるでしょう」
「おぉぉいっっ!!言い方ぁ〜!」
「何です?本当の事ですよ。私は嘘は嫌いなので」
「ゔゔぁ!まぁいい!俺の推薦状で行けるなら、後でアシュレイに渡すから出して置いてくれ」
「彼の意志は聞かず?シオン、貴方さっき検討する様に伝えただけで、入れとは言って無いですよね?実は強制だったなら、その旨をちゃんと伝えて説明してあげないとダメですよ。全く……貴方はいつもそうやって暴走して。はぁ〜……あの頃から何も変わって無いんですから……」
「あ……」
シオンは間抜けな顔をして固まる。数秒して、レイを振り返った。レイは思わず吹き出して、何度も頷く。
「俺、そのアカデミーに行ってみたいです。でも、入学金とか高いんじゃ無いですか?俺、そんなに持ってないんですけど……」
その言葉にシオンは眉を下げ「あぁ……まぁ、多少は掛かるなぁ」と呟いた。
「君のご両親にお願いは出来ないのですか?」
アシュレイが表情なく訊ねる。
「……えっと……」と言い淀んでいると。
「あのね、アシュレイくん。こんな路地裏で如何にも悪そうな男らと大喧嘩してる子だよ?しかも自分の金でどうにかしようって考えてる辺り、親許から出て行って一人で生きてるんだって想像付かないかなぁ!全く、これだから月下美人はぁ!あ、ね、君。何かしら事情があるんだろ?妹ちゃんの服装と君の服装、だいぶ違うし。もし、その気が本当にあるなら、俺が立替えてやろうか?」
軽い口調で提案してくる言葉に、レイはギョッとしつつ断った。
「いや、見ず知らずの方に流石にそこまでは……。俺、親に頼んでみます……ただ、お願いがあります。恐らく、俺の言葉なんてきっと半分も信じてもらえないと思うので……アカデミーの事を親宛に手紙を書いてもらえませんか?」
シオンはレイの提案に、温かな笑みを向けた。
「お安い御用だ」
そう言って少し乱暴に頭を撫で、優しく頬に触れた。
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