最終話 〜ドリームハッカー〜
読んで頂き、ありがとうございます。
第一部、これで完結します。
明日からは、番外編をお楽しみに!
では、よろしくお願いします。
「こんにちは……」
恐る恐るという表現がぴったり当てはまる様子で圭は室内を見た。
五人は顔を輝かせ、「こんにちは」と返事をした。
「身体の調子はどう?」
ミユウがドアに近づき、圭の腕を引っ張り室内に入れた。
「ああ、まだ少し頭がぼんやりしているけど、元気だよ。父さんの話しによると、丸二日寝ていたみたいだけど……」
圭はミユウに腕を引かれながら片手で頭を掻き答える。
「仕方がないよ、不正のドアで何人もの人が入り込んだんだから。しかも、大暴れするし」
アサトはちらりとレイとシン、アッシュを見てにやりと笑った。レイがわざとらしい咳払いをし、「ところで」と話を逸らした。
「お父様はどうされているんだい?」
圭はレイを見て「さっき、赴任先に帰りました」と答えた。
「なんでも、今回は俺の危機を感じたとかで帰ってきたらしくて。もう大丈夫だと分かったら、さっさと仕事に戻りました」
圭は苦笑いをして「本当、自由な人なんで」と言った。それを聞いたレイは、心なしか残念そうに眉を下げ「そうか」と返事をした。
レイは事件解決の後、シオンについて本部の資料を確認した。
シオンの名は、歴代最強と謳われた法術師の1人として記載されていた。
自分は一度、シオンに会っていると、彼は言っていた。しかも、荒れすさんでいた頃に。ミユウを知っている事も含むと、恐らくあの時だろうという記憶はある。
しかし、その時は月下美人がレイをアカデミーに誘うきっかけとなった時だ。その時に助けてくれたのは、月下美人以外には居なかったと記憶していたが、もし自分の記憶が操作されていたら?
そう考えると、レイはシオンと話をしたくて堪らなかった。
「そういえば、アッシュさん、今日は男なんですね」
圭は何の気なしにそう言うと、アッシュ以外の一同が噴き出した。圭は「え?」と周りを見る。
「ああ……。僕、また何かやらかしましたか?」
アッシュは苦笑いしながらレイとシンを見た。
レイは笑いを堪えながら「いや」と言い、シンは顔を赤くしてそっぽを向いた。それを見てアッシュは両手で頭を抱えた。
「あの、すいません、俺、なんか余計なこと言った感じですね」
圭は慌ててアッシュに謝った。アッシュは顔を上げ、「いや、君は悪くないよ」と微笑んだ。
女性のような柔らかい笑顔だ。
「僕はね、ちょっと特殊な体質で……。満月の日、一日だけ性別が逆転するんだ。どうしてなのか、自分でもよく分からない。女になってしまったときの記憶って、男に戻ったときには、あまりよく覚えていないんだ。重要なこととか所々、記憶はあるんだけど……」
圭は「ちょっとどころか、相当おかしな体質ですね」という言葉を飲み込み、「そうなんですか、大変ですね」と当たり障りのない返事をした。しばらく雑談をすると、圭は椅子から立ち上がった。
「それじゃあ、僕、帰りますね」
圭がそう言うと、アサトが「え?来たばっかりじゃない」と声え上げた。
「うん、でも、まだ頭がぼんやりしていて。父さんに、みなさんに元気な顔を見せてこいって。本調子になったら、また、遊びに来ます」
圭がそう言うと、レイは顔を綻ばせ「またおいで」と言った。その顔は、アッシュとは異なる美しさがあり、圭は一瞬見とれてしまった。
ミユウが「じゃあ、玄関まで」と声をかけなければ、そのまま見とれていたかも知れない。
圭は四人に一礼すると、記録庫を出て行った。
ミユウと中庭を歩きながら、ふと疑問に思ったことを口にした。
「この中庭も、別次元なの?」
ミユウは圭の横顔を見て「そうよ」と答えた。
圭は空を仰いだ。現実界と同じ空の色が広がっている。
「同じ空だね……」
「空には、境界線なんてないから」
「そうか……」
圭はミユウの言葉に何となく納得をした。
「あ、そういえばさ、瀬川さん達って、いわゆる『ハッカー』みたいなものなんだろう?」
「ハッカー?」
ミユウは素っ頓狂な声を上げた。
「うん、父さんがそう言っていたんだけど……。あ、ハッカーって言っても、良い方の!ホワイトハットハッカーみたいな」
圭は「良い意味で」と繰り返し言うと、その言葉にミユウは腕を組んで青い空を見上げ、唸った。
「そうなのかなぁ。まぁ……うん……そうか。そうね。夢については知識も技術もあるし、外部からの攻撃から守るとか……そういう意味で言うなら、そうかも知れないわね……」
と、一人口の中でぶつぶつ呟くと、圭の方を向いてにっこり微笑み
「そうです!所謂、ドリームハッカーです!」
と、少し胸を張って答えた。
「あはは、なんか誇らしげだね。そっか……。でも、大変だね。瀬川さん達の行動って夜型なわけだろう?昼間起きてて平気なの?大変じゃない?」
圭は本当に心配そうに言った。ミユウはその顔を見て爽快に笑う。
「え?何?変なこと言った?」
圭は驚きながらミユウに訊くと、ミユウは手を横に振って「違う、違う」と言った。笑いが落ち着くと、「大丈夫なの」と答えた。
「この家、次元が違うところにあるって、話したでしょう?次元が違うと言うことは、時間の流れも違うの。それも合わせて、夢の中は、あくまでその夢を見ている人のもの。他人である私たちの時間は止まっているようなものなの。うーん、何て言うかな……。ちょっと面倒臭い説明になるから、簡単に言うね。例えば、私たちが圭くんの夢に入ります。でもそれは、圭くんの『時間』であって、私たちの『時間』では無いわけ。だから、圭くんの夢に数十分入っていても、出てきた時には入った時と同じ時間なわけ。で、かつこの時空間の時間と、現実界の時間は違う。と、いうことで、私たちの睡眠時間はしっかり確保されるってわけ。ただし、これは圭くんが正常な睡眠を取っている場合です。今回みたいに『鍵』が絡んだりすると違うみたい」
「何が……違うの?」
「今回、私たちが圭くんの夢から出たとき、時間が進んでいた。私たちは、圭くんの夢に約一時間入っていたの。でも、出てきたときは入っていた時間の五倍の時間が進んでいたの。不正の眠りだけではこういう事は起きないから、『鍵』のせいなのかも知れないけれど……」
圭は分かったような分からないような曖昧な顔で頷いた。
「まあ、詳しくはまた今度ね。私より、アッシュやお兄ちゃんの方が説明が上手いし」
ミユウは圭の曖昧な顔を見て苦笑いしながら言った。玄関まで来ると、ミユウが圭の腕時計をちらりと見た。
「圭くん、その時計、あってる?」
圭は自分の腕時計を見て「ああ、おおよそは」と答えた。それを訊くと、ミユウはドアに右の手のひらを当て、短く呪文を唱えた。ミユウがドアから手を放すと、ドアには時計が現れる。二十四時まである文字盤とそれを囲むように不規則な数字の羅列が書かれていた。文字盤の中を目まぐるしい早さで動く針が二本と止まっているように「今」の時間を指している針があった。ミユウは動いていないように見える針を少し動かし、勢い良くドアを開けた。
「この家の門を出てから、その時計、もう一度見てみて。面白いことが起こるから」
ミユウはそう言うと、いたずらっ子のような微笑みを浮かべ、圭に「またね」と言った。
圭は玄関から出ると、ふいに後ろを振り向いた。ミユウが「なに?」と言うように首をかしげる。
「また、会えるよね?」
心なしか、強張った顔で圭は言った。
圭の言葉を聞き、ミユウは微かに目を見開き、すぐに「もちろん」と頷く。実際は、分からなかった。まだ、上層部から詳しく指示が出ていなかったからだ。圭の夢の中には、まだ『鍵』がある。『鍵』が移動しない限り、きっとこのままここにいることになるだろうと、レイが言っていたことを思い出す。ミユウの返事を聞いた圭は、ほっとした表情になり小さく微笑んだ。
ミユウはその微笑みに頬を緩めた。
圭はミユウに「じゃあ」と手を挙げると、次は振り向かずに門を出て行った。
圭は門を出ると、腕時計に目をやった。
圭は小さく声を上げた。
時計はいつの間にか圭が隣の家に向かった時刻に戻っている。
「異世界ハッカーにやられた」
圭はニヤリと笑って、隣の自分の家へ帰って行った。
〈Mission complete〉
あとがき
こんにちは、星野木です。
約1か月間、『ドリームハッカー 〜隣の家は異世界への入り口だった〜』にお付き合い頂き、本当にありがとうございました。
楽しんで頂けましたでしょうか?
このドリームハッカーでの「夢」の意味ですが、実際の夢占いを参考に書いています。
なので、もし同じ様な夢を見た事があるという方は、「そうなのか!」と思って頂けたら、また楽しいかなぁと思っております。
また、ミユウが力説していた夢の仕組みも、実際の睡眠のリズムについての資料を元に(レム睡眠・ノンレム睡眠)書いているので、物語自体はフィクションですけど、私達の現実世界にあるものにも繋がっているので、その辺も楽しんで頂けたら幸いです。
元々、出版社へ応募(紙媒体で)しようとしていた作品で、文字数制限が設けられていた事から、最初からさほど長くはならない物語でした。
ただ今回、これで終わりにするのは、何だから寂しいな……と思い、WEBで公開することを目的とし、更に手直して続きが書ける終わり方にしました。
なので、これは『第一部が終了』で、『第二部』への伏線を後半にかけて、チラホラと撒いてます。
第一部では、あくまで「タイトル回収が最終目的」として、第二部ではもう少し深く、この物語の世界を楽しめる様に……と思っております。
そして、第二部へ行く前に番外編を書いていきます!
そこでは……
・レイの荒れていた過去
・シオンとレイの出会いについて
・シオンと月下美人のアッシュ/アーシャについて
・レイがミユウを溺愛する理由
・シンとレイが親友になったきっかけ
この辺の事を、番外編で回収して行こうと思っております。
また、別の機会で『月下美人』を単体で書けたらなぁと……色々と世界を広げております。
番外編後には、第二部をスタートさせるつもりでおりますが、まだこれについては何も書いておりませんので、ちょいと遅くなるかなぁ……
ただ、頭の中での組み立ては完了しておりますので、なるべく早く皆さんと一緒に、レイ達の活躍を楽しめたらと思っております。
第二部からは、敵側であるダークログスターが全面に出て来る予定です。
まだ名前を明かしていない「殿下」が登場します!
第一部はこれで終わりですが、これからも『ドリームハッカー』をよろしくお願い致します。
最後までお読み頂き、本当にありがとうございました!
さのより
参考文献
ドリームブック夢辞典 ベティ・ベサーズ著
夢占い マドモアゼル・ミータン / 監修
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最後まで読んで頂き、ありがとうございます!
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