第四十話 解決
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「で、ウィルさんの処分は、無し、と」
アサトは記録庫のテーブルに頬杖をつき嬉しそうな声で言った。事件が解決してから、二日目の日曜の朝だった。
「当然だ。いくら暗示を掛けられての行為とはいえ、仲間を助けるための行為だったんだからな」
レイは心なしか鼻息荒く言う。
「まぁ、メモリーレムを根こそぎ呑まれていたわけではなかったし。そこは、さすがウィルと言うべきだろうな」
「でもデータ上では、全く消えてしまっていたんだよね?どうして、記憶修復が可能だったの?」
アサトは頬杖をつきながら小首をかしげた。
「そこが、ウィルのすごい所よ!ウィルはね、暗示を掛けられながらも自我が一生懸命、悪と戦っていたわけ。で、その自我が勝った僅かのな時間、そっと別の小瓶にメモリーレムを少量移動していたの。そのメモリーレムのお陰で、記憶修復が出来たってわけなのよ」
ミユウはまるで自分の自慢話でもするかのように腕を組み、頬を緩め嬉しそうに話した。兄妹でウィル大好きなのが良くわかる。二人とも同じ顔をして、自分の事かのようにウィル自慢をしている。
「でもさ、大半が辛い記憶の夢が多かったわけでしょう?反対に消えてしまった方が良かったって事はない?」
アサトはミユウに言っが、その返事をシンが「それは違う」と答えた。
「どんな記憶でも、その人を成長させるための大事な記憶だ。その記憶を少しずつ自分の中に受け入れることによって、人は人として成長する」
「でもさ、でもさ、僕達、大半の夢を消去作業しているでしょう?それだって、同じ事じゃない」
「それも、ちょっと違います」
アッシュがコンピュータの画面から顔を上げてアサトを見た。
「なにが違うの?」
「僕たちが行っているのは、『記憶』とは別の『夢』の処理です。毎晩見ている『夢』を処理しないと、人は『夢』と『現実』の区別が付かなくなってしまうんですよ。『夢』の記憶まで残すと、脳内の回路が混乱を起こすのです。でも、『夢』には、時々とても大事なメッセージも込められているから、その部分だけを残す。そうすることで、『これは夢だった』と認識することが出来る」
「その一部の夢を覚えていて『予知夢を見た』って騒ぐ人もいるよね」
「まあ、それは人それぞれですよ」
アッシュはにこりと微笑んだ。
「ねえ、お兄ちゃん。ウィルはこれからどうなるの?」
ミユウは一番気になっていたことを訊いた。それは他の三人も同様だったらしく、黙ってレイの言葉を待った。
「上層部が言うには、ウィルをリーダーに他のチームを作らせると言っていたが、帰り際、サミュエルが俺に耳打ちしてきたんだ」
「何て?」シンが訊く。
「俺たちのチームに居るべき人間だって。まあ、あれは俺に上層部に掛け合えと、言っているんだと思う。まあ、言われなくてもそうするけど」
「そうですね。それが一番かと思います。僕の記憶ではアーシャはウィルにも『鍵守』の術を掛けていたはずですし」
アッシュは心なしか困った顔で微笑んだ。
「そうだ!アッシュ!僕、気になってる事があるんだけど」
アサトが何か思い出した様に声を上げると、アッシュは小首を傾げて「何です?」と訊ねる。
「あのさ、僕たち『鍵守』になった訳でしょ?その『鍵守』って、圭くんに何かあったら守るって言うのは何となく分かるんだけどさ、普段はどういう事をすればいいの?」
アサトの質問は、他のメンバーも興味がある様で一様にしてアッシュを見つめた。
「そうですね……。普段は特にこれと言って特別な事は無いですが……。皆さんにの胸に『鍵守の陣』が刻まれているので、僕が持っているこのペンダントと同じ効力があります。『鍵』の機微が分かると言いますか……」
「『鍵』の機微?」
シンが眉間に皺を寄せながら訊ねると、アッシュは「はい」と一つ頷いた。
「『鍵』は意志があります。人間が喜んだり、悲しんだりする様に、『鍵』にもそういった感情があるのですよ。まぁ、人間程では無いですけども。ほんの僅かな変化を感じ取る事が出来ます。危険の察知は予知的で特に敏感に反応するので、事が起こる前に対策が出来るのですよ」
「なるほど……。だから今回、俺たちが選ばれるまでの時間があったという事か……。本当に不思議な存在だな……」
レイが独り言の様に言うと、その言葉に続くようにアッシュは説明を続ける。
「あと、『鍵守』は対象である圭くんの夢の扉に、今回の様な何か不測の事態があったとしても、扉に掛けられた全ての術を無効化出来ますから、誰かが意図的に扉を塞いだとしても、中に入る事が出来ます。ただし、緊急事態の場合のみです。通常は他の扉と同じく、扉へ入る為の呪文が必要です」
五人がそうこう話しをしていると、記録庫のドアを誰かがノックした。ミユウとアサト「はあい」と間延びした返事をすると、ドアが小さく開き、その隙間から、ひょっこり圭が顔を覗かせた。
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