第三十三話 信実
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圭は、驚き顔が生まれつきの顔ですと言わんばかりに、その表情を一時も崩さずにレイの話しを聞いていた。
レイが話を終えると、瞬きの仕方を思い出したかのように忙しなく瞼を動かし、困惑顔をする。
「え、て、ことは、つまり……俺の中に時空間を繋げる鍵が入ってるってこと?」
「まぁ、つまりは『鍵蔵』は鍵が自分から選んだ『保管場所』かな」
シオンが顎に手を当て答えると
「じゃあ、俺、人間じゃないの?」と、不安げに顔を歪ませた。
その言葉にアサトが笑い、安心させるような明るい声で圭を宥めた。
「いや、リッパなニンゲンですよ。もちろん、僕たちもね」
「あの、君たちは、どこから来たって?」
混乱する頭で、浮かんだ言葉を口にする。
「うーん。現実界で言えば『未来』のような感じかなぁ。でも、ちょっと違うか……」
アサトが腕を組んで自分たちの世界を簡潔に説明できないか考えた。ミユウはアサトの言葉を引き継ぐように説明をした。
「『夢』と『現実』、『現実』と『パラレルワールド』の間にある世界。そこが私たちの住むレムアドミニスター。この家の外観は単なる箱で、家の中は私たちの世界と繋がっているの。普通の『現実界の人間』がこの家に入っても、ただの空家。でも、私たちと同じ力を持った人間が入ると、時空を超える事が出来るの。万が一、迷い込んだとしたら、それはドアの管理を怠ったとき。圭くんが初めてこの家に来たとき、私は確かにドアを閉めたはずだった……。あなたが『鍵蔵』とは知らなかったから、本当に驚いたけど」
「記憶回路を自己修正できたのも、多分、法術師だけの力ではなく、『鍵蔵』の力も加わったからなんだろうね」
アサトは腕を組んで自分の言葉に何度も頷く。それに賛同したのはシオンだった。
「確かに、アサトくんの言う通りだと私も思っているよ。『鍵』には意志があるから、きっと『鍵』が圭の記憶修正をした可能性は高いと思う」
圭は父親の横顔を、まるで知らない人を見ているかの様に眺める。
「あの……俺にも、その魔力とかあるのかな……?今まで何も起きた事なんてなかったけど……」
圭は自分の身体を触った。
「圭くんのおじさんは、今でも魔力あるんですか?」
アサトがシオンを見て訊いた。
「いや、記憶が戻っただけで、力までは……。一度、回復を試したことがあるが、何も出来なかった」
シオンは、どこか悲しそうに微笑んだ。
「でも、貴方も圭くんもこの家に入れました。完全に無くなっているとは、思えません」
レイはシオンを真っ直ぐに見詰める。
「長い間、魔力を使わず、ここの生活に慣れ親しんだからですよ。レムアドミニスターに戻って訓練すれば、また再び使えるようになるのでは?」
レイがそういうと、シオンは「いや」と言い首を振った。
「私は現実界に生きると決めた。だからこれで良いんだ。ここの生活では必要がない」
「私、一つ疑問があるんですけど……」
ずっと押し黙っていたミユウがシオンをみて言った。
シオンは微笑みながら「なんだい?」と柔らかい声で言った。
「アッシュは圭くんが『鍵蔵』だと言うことを知っていたんですよね……なぜ、知らない振りをしていたのかしら……」
レイとアサトは黙って頷き、シオンを見た。
「正確には、知らない振りではなく、話せなかったんだよ……。まぁ、『鍵』が記憶操作するだなんて、思ってもみなかっただろうし、それについては本当に知らなかったと思うよ。私も、そんな事は初めて聞いたからね」
レイ、ミユウ、アサトは眉を顰め首をかしげる。
「『鍵』の存在やその正確な役目を知る者は、ほんの一握りだ。『鍵』について知っている人物は、『鍵』に関わる者。『月下美人』と『鍵蔵』そして『鍵守』に選ばれた者のみ。ただし、多くの場合『鍵蔵』には知らせない」
「『鍵守』って?」
アサトが呟くように言った。
「『鍵蔵』を守る存在だ……」
レイが静かに答えた。シオンは小さく顎を引くと、話を続けた。
「『月下美人』は十二人居る……。それは、今も変わりはないはずだが……」
そういうと、シオンは三人の顔を見た。レイ、ミユウ、アサトは小さく頷いた。
「では、十二人以上増えない理由は、知っているかな?」
三人は首を横に振った。シオンは顎を引くと、話を続けた。
「『月下美人』は、死んでしまっても再生をする。『鍵』の記憶はそのままに、生まれ変わるんだ。身体は別になるが、『鍵』に関する記憶だけは消えることがない。死ぬ前に、自分の中にある『鍵』についての記憶を、新しい命に移動をさせる。『月下美人』の成長は、通常の人間とは異なる。彼等は専用カプセルの中で、十五歳までをたった一月で成長する。十五より先は、我々同様、一年一年をゆっくり成長する。彼等は、仲間同士で交信することが出来るんだ。自分が消えるとき、仲間の頭の中に語りかける。仲間はすぐにそれを察知し、新しい生命体を育てるための準備をする。新しい生命が産まれると同時に、一人の『月下美人』の寿命は終わる」
「『月下美人』は、開発チームが育てているのでは?」
レイは組んだ手をテーブルに乗せ、いつの間にか身を乗り出して訊いていた。
「いや、彼等を開発した当初だけだ。彼等は、個々に意志を持った。『鍵』が意志を持ったように。それ以来、自分たちで自分たちを育てているんだ。なんとも不思議な生命体なんだよ。彼等は……。彼等は『見張り番』であり、『鍵守』の『審査団』でもあった」
「あなたは『鍵守』なのですね?」
レイは、じっとシオンの瞳を覗き込む様に見つめる。シオンは深く頷いた。
「彼等は『鍵守』が見つかると、『鍵』の話しをする。だが、『鍵』が認めた『鍵守』にのみだ。それ以上、話しが漏れないように、遺伝子がそうさせているらしい。私は『鍵守』に選ばれた。しかし、彼等の期待に応えられなかった」
「魔力が、消えていたから……」
「そうだ。彼等は慌てた……。『鍵守』が存在した時点で、彼等はもう私が死ぬか『鍵』が認めた『別の鍵守』が現れない限り、『鍵』の話は出来ないからね……。だから、私から提案をした。『鍵』に……圭に危険が訪れようとした場合、君たちが認めた法術師を連れて来てくれと。その時、私がその者達に話しをすると言ったんだ。彼等は承諾した。そして、現れたのが君たちだ……」
三人は困惑と戸惑いの顔で目を合わせた。
「僕たちが……『鍵守』に……」
三人は黙り込んだ。圭は混乱顔で父俺の顔やミユウ達の顔を見回していた。
自分には全く訳の分からない話。しかし、自分にも関わりがある話しを、漠然とだが頭の中で整理しようとした。だが、根本的な話しが分からないせいで、それも上手くいかない。詳しい話しを聞こうと口を開きかけると、レイが先に口を開いた。
「あなたは、なぜ『月下美人』についてそこまで詳しくご存じなんですか?『鍵守』については納得できますが、我々が知らない、彼等の誕生についてなど……」
レイの質問にシオンは顔を上げた。
「私の曾祖父と祖父が、開発者の一人だったからだよ。私は、おじいさん子でね。子供の時分、よく祖父の所へ遊びに行った。家には一人の『月下美人』がいたんだ。だから、全てではないが、彼等のことを知っている」
そう言うと、シオンは口を閉ざす。昔を思い出すかのように穏やかな顔で、じっと床の一点を見つめた。
短い沈黙を破ったのは、またしてもアーシャだった。
記録庫のドアが乱暴に開かれたかと思うと、アーシャはレイの目の前まで大股で近づき、腕を掴んだ。
「シン様が呼んでいるわ。着いて来て」
アーシャの真剣な顔を見上げ、レイは表情を変えず頷くと、一緒に記録庫を出て行った。
レイ達が出て行くのを見送り、四人は黙ってお互いの顔を見た。自分がどうするべきかを思案するようでもあった。
しかし、そうゆっくりと考えていられる時間は無かった。
突然、圭が床に倒れ込んだのだ。
ミユウとシオンが直ぐさま圭の脇にしゃがみ込むと、アサトが声を上げた。アサトはアッシュが普段座る席に着き、コンピュータ画面を見て、目を見開く。
「大変だ!この波動は不正の眠りだよ。今からどこかで不正なドアが開けられる」
「圭くんのドアはどこ?」
ミユウは圭の頭を抱えながら声を上げた。圭の顔からどんどん血の気が引いていく。アサトは素早くキーを打ち込む。
「二階、南、A0775番」
「おじさま、圭くんをお願い」
ミユウはシオンに託すと、アサトと共に記録庫を出て行った。
ミユウとアサトは中庭を走り、隣の棟へ移動した。
「先に行くわ」
ミユウはそう言うと、小鳥に変化し二階へ飛んでいった。アサトは階段を二段飛ばしで駆け上がり、廊下を走る。
ミユウは二階に上がると、青い光を放ったドアを見つけた。
「あれだ」
そう呟くと、一つのドアの前に舞い降りた。
ドアの上にある小さな金色のプレートを見た。「A00775」と書かれたプレートの下にあるドアは、他の真っ白いドアとは異なり、怪しげな青い光を放っている。
夢に誰かが不正に入り込んだ意味を持つ光だ。
ミユウが人間の姿に戻ると、隣りにアサトが立った。ミユウは呪文を唱えたが陣はすぐに消え、ドアは開けることが出来きなかった。
「この前と同じか!」
アサトが舌打ちをした。
「もう一度やってみる」
ミユウが再び呪文を唱えようとした、その時。
計ったように目の前のドアが開いた。
アーシャがドアの隙間から顔を出す。
「アーシャ!」
アーシャはにっこり微笑み「暗号解除。入って」と言い軽くウィンクをすると、すぐにドアの向こうへ姿を消す。
ミユウが目を丸くしていると「行こう」と、アサトがミユウの手を引き、二人はドアの向こうへ入り込んだ。
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