第三十一話 美女
読んで頂き、ありがとうございます。
本日2話投稿してます!
この回で、月下美人の回収をします!
では、よろしくお願いします。
「だからぁ、シンさんは今、外だってば!」
エントランスホールにアサトの声が響き渡る。
「嘘おっしゃい!キミがシン様が呼んでいるって言うから外へ行ったら、どこにもいなかったんじゃない!まったく、何時間も無駄な時間を使わせて!いけない子!さ、そこをお退きなさい、おチビさん」
銀色の髪を頭の上に器用にまとめた美女が、自分より二十センチ程背の低いアサトの頭を軽く叩いた。
「チビって言うな!百七十はある!」
「あら、そうだったの?百六十八しかないと思ってた。しっつれぇい」
アサトは顔を赤くし、悔しそうに下唇を噛んだ。なぜなら、正確な身長は百六十八センチメートルだったからだ。二センチの鯖読みを、あっさり言い当てられるのは、なんとも恥ずかしい。アサトは気を取り直すように軽く咳払いをすると、真剣な眼差しで目の前の美女を見上げた。
美女は黒の細身のジーンズに男物の白いワイシャツという出で立ちだ。大きな胸のせいか、ボタンが今にもはち切れそで、アサトは目のやり場に困った。アサトが戸惑っている隙を見て、美女は前に立ちはだかるアサトを避け、直ぐさま先を歩き出す。アサトは慌てて美女の腕を掴む。
「どこへ行くの!今日は僕と外回りだって!」
「何言ってるの。そもそも私は記録士よ?なんで私が外回りなんかしなきゃ行けないの。騎士であるキミが一人で行けばいい話でしょう。昨日までそうだったんでしょう?」
美女は半ばアサトを引きずるようにして中庭へ向かう。あまりの力強さに、アサトも必死だ。
「だ、だめだって!今日は、レイさんが、記録庫で、仕事をして、い、そがしい、って言ってた……!!うわっ!!」
美女は一度立ち止まると、面倒臭そうに軽く息を吐く。やっと止まったと思った瞬間、急に視界が反転し、アサトは驚きの声を上げる。
美女は軽々とアサトを肩に担ぎ上げ、中庭へ続くドアを開けた。
「ちょっ!アッシュさん!!」
アサトが大声で叫ぶと、美女はふと足を止めた。そして、自分の顔の横にあるアサトの形の良いお尻を軽くつねった。
「痛っ!」
「アーシャ。アッシュさんじゃないでしょう?さ、言ってごらんなさい。アーシャさんって」
アサトは観念したように全身の力を抜き、小さな声で「アーシャさん」と呻く。
アーシャは「よろしい」と満足そうに言うと再び長い足を動かし、記録庫へ向かった。
記録庫のドアが勢い良く開いた。
記録庫にいた全員が、一斉にドアを振り向き、一同は口をぽかんと開けて、入ってきた人物を見ていた。
「シンさん、ごめぇん!止められなかったぁ」
アサトはアーシャの肩に担がれたまま、情け無い声を出した。
「げっ」
シンが小さく声を上げる。
「シン様ぁ!」
視線を滑らせシンを見つけると、アーシャは肩に担いでいたアサトを乱暴に降ろし、シンに向かってまっしぐらに駆けだした。
シンは慌てて記録庫の二階へ駆け上がったが、アーシャは驚くべく身体能力で二階に駆け上がるシンの目の前にジャンプした。シンは後一歩で二階に辿り着くところで立ち止まり、顔を歪め、何かを言おうと口を鯉のようにぱくぱく動かしている。
「お久しぶりです。シン様」
アーシャは瞳を潤ませ、艶のある声を出し、シンに抱きつこうと両手を広げて突進する。
しかし、シンは素早く右に避けると、手すりを飛び越えて一階へ飛び降りた。
「くそっ!今日は満月だったのか!」
苦虫を噛み潰したかのように顔を歪ませると、記録庫を飛び出して行った。
アーシャも負けじと二階から飛び降り「シン様ぁ!待ってぇ!」と、叫びながらシンの後を追って記録庫から出て行った。
嵐が去ったように静まり返った記録庫で、レイは声を出さずに苦笑いをし、アサトは同情をするかのような表情を浮かべ、ミユウと圭は口を開けたまま閉じられないでいた。
「彼女は、もしかして『月下美人』かい?」
シオンがレイに訊ねる。
レイは笑いながら「えぇ」顎を引くと、「名前は?」と言って訊いてきた。何故そんな事をと思ったが「アッシュです。今はアーシャですが」と答えると、シオンは「そうか、アッシュか」と泣きそうな、でも嬉しそうな、何とも言えない複雑な表情を一瞬見せたが、「そうか」ともう一度頷き言うと愉快げに笑った。
そんなシオンの笑い声に我に返ったアサトは、「あなたは誰?何で圭くんがここに?」と驚き顔でシオンと圭を見比べる。
「今、ちょうどその話しをしていたところだよ」
と、レイが答えた。
「圭くんは、『鍵蔵』だ。そして、我々と同じ、法術師の血が半分混じっている。だから彼はこの家の中に入れたんだ。いくら『鍵蔵』でも生粋の現実界の人間では入れる筈はない。でも法術師の血があるなら、この家に入れたのも頷ける。そして彼は元法術師で、圭くんのお父様、シオンさんだ」
ミユウとアサトは同じような顔をして圭とシオンを交互に見た。圭は戸惑いと不安が入り交じった表情で全員を見渡す。
「あの、全く話しが見えないんですけど。カギグラって、何ですか?法術師って?」
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