第三十話 鍵蔵
読んで頂き、ありがとうございます。
本日2話投稿予定です。次話は昼か夕方には……。
よろしくお願いします。
「父さん、なんで……?っていうか、何だ、俺、この部屋も知ってる……?」
圭は左手で自分の頭を触り不可解そうに呟く。
「それに、俺、このお兄さん方も知っている」
ミユウは発する言葉が見つからず、黙ったまま複雑な表情でレイに視線をやる。
レイはミユウを一瞥し頷くと、圭に目を向けた。
「実際、君はここへ来たことがある」
レイは圭に向かって静かに言った。圭は不思議そうな顔でレイを見つめる。
「それも、つい最近ね」と付け加える。
圭は混乱を沈めようと、落ち着きなく瞬きを繰り返す。
「お兄ちゃん」
ミユウは深刻な顔でレイを見た。レイはミユウに目を向け「何があった?」と訊ねた。
ミユウは唾を飲み込むと、シオンに目を向けた。レイは「彼は大丈夫」とミユウに言うと話しをするように促した。
「実は、ウィルに会ったの」
レイとシンは顔を見合わせると、目を見開きミユウに視線を戻す。
「……何から話せばいいのか……」
ミユウは僅かに表情を険しくし、朝からの出来事を整理するように言葉を句切った。
「順に。ゆっくりでいいから」
レイは落ち着いた声でミユウに言う。
ミユウは神妙に頷くと、ゆっくり話し始める。
「朝、圭くんの後に教室へ入ったの。圭くんの後ろを通りながら、昨日と同じ香りがするか確認をしてみた。でも、メモリーレムの香りはしなかった」
「メモリーレムの香りだって!?」
シオンが驚きの声を上げる。
「お父さん、少し黙っていてください」
レイはシオンの抗議でもしようとする勢いのある声を素早く制した。シオンは素直に黙り、ミユウの話しの続きを聞く姿勢になり、レイはミユウに視線を向け先を促した。
「アカデミーでは一週間、香りは残ると勉強したけれど、圭くんは一日で香りが消えた。おかしいと思ったの。だって、初めてあったときには、あの香りはしなかった。そうしたら今日、圭くんを呼び出しに保健医が教室へ来たのよ」
保健医と聞いた途端、圭は露骨に嫌な顔をした。
「その保健医から、メモリーレムの香りがぷんぷんしたわ。昼休み、圭くんが保健室へ向かって後を追ったんだけど、保健室へ向かう階段下に人避けの陣があったの。その陣はどうやっても私には解けなかった。その時、ウィルが現れたの」
ミユウは泣き出しそうな声を出しつつも、堪えながら話を続ける。
「ウィルは、陣を解いてくれたの。そして、こうも言った。今回の一連の事件は、自分がやったんだって……」
シンは深く息を吐き出し椅子から立ち上がる。背を向けると本棚を拳で叩きつけた。
レイは何かを考え込むかのように口元に手を当て、目を伏せる。
ミユウは話を続けた。
「陣の封印が解けたのは、ほんの数秒間だけ。ウィルは私の背中を押して、陣を通させた。彼は通らなかった。彼は、圭くんを助けられるのは私だけだと言って、私を行かせた。私はすぐに保健室へ向かったわ。そうしたら、圭くんが……」
「『守りの光』を放っていた」
レイは目を瞑ったまま静かに呟いた。ミユウは驚きを飲み込んで「そう」と答えた。
「なんで、分かったの?」
ミユウは心底驚いた顔で兄の顔を凝視する。
レイはゆっくり目を開けると、小さく笑った。
「彼は『鍵蔵』だ」
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!
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