第二十九話 進展
読んで頂き、ありがとうございます。
本日2話投稿です。二十八話を未読の方は一つ戻って読んで下さい。
では、よろしくお願いします。
ミユウは圭の腕を掴んだまま、正門を駆け抜けた。学校から数十メートル離れた頃、ミユウは圭の腕を放し、真剣な面持ちで圭の顔を覗き込む。
圭はミユウ同様、息を切らせていたが、先ほどとは異なり、しっかりした顔つきだ。
「目は、覚めた?」
ミユウは息を切らせながら訊く。
「一体、何がなんだか……」
圭は頭の中を整理するような顔で呟くように応える。
「とにかく、一旦、うちへ行きましょう」
再び圭の手を取ると、ミユウは先に歩き出した。圭はまだどこかぼんやりしている頭を軽く振り、黙ってミユウの後について歩いた。
圭はミユウの後についてミユウの家の中に入った。家の中に入った途端、頭の中に自分には覚えのない記憶が流れ込む。
ミユウが圭を見ると、圭は驚きと戸惑いの混ざった顔でエントランスホールの天井を見上げている。圭はミユウが自分を見ていることに気がついたのか、囁くような声で言った。
「俺、つい最近、この家、来たこと……ある……」
ミユウは唾を飲み込んだ。そして、静かに息を吸うと「着いてきて」と、先を歩き出した。
圭はミユウの後を追いながら、自分の頭に流れ込んでくる記憶に戸惑っていた。
中庭を通り、隣の建物に入る。ミユウは多くのドアのうち一つにドアを開け、圭に中に入るよう目で促す。圭は黙って部屋に入ると、見覚えのある人物がそこに居た。
「父さん!?」
****
沙也加は恐る恐る顔から手を放し、そして不適な笑い声を上げ、立ち上がった。
「ウィル!」
沙也加はよろけながら保健室内にある回転椅子に座ると、机の上に置いてあった煙草に手を伸ばした。
「ウィル!居るんだろ、出てこい」
沙也加は煙草に火をつけ、足を組んで目だけを動かし部屋を見渡す。
数秒経ってから、黒猫がどこからともなく現れた。黒猫は沙也加の数メートル先に姿勢を正して座る。
「お前があの小娘を通したのか?あの娘は何者だ?お前と同業者か?」
沙也加は煙草をくゆらせながら言った。
黒猫は瞬く間に人間の姿になった。
「答えろ」
ウィルは何も言わずに跪いている。沙也加はウィルの目の前に立つと、髪を掴み乱暴に顔を上げ、ウィルの左右異なる瞳を探る様にじっと睨み付ける。
が、ウィルは無表情のまま黙って沙也加の顔を見ていた。
沙也加は「まあ、いい」と言い、乱暴にウィルの髪から手を離し、煙草を床に押しつぶした。
「記憶が戻った訳では無いようだな」
沙也加はそう呟くと、ウィルの前に立て膝をつくき、ウィルの顎を掴む。ウィルはアンドロイドの様に機械的に顔を上げ、無表情のまま沙也加に目を向ける。
「今夜、あの小僧の夢の中に行け。その瞳があればメモリーレムを呼び起こせる。今日は素晴らしい収穫が出来るだろうよ」
「はい。ヴァーミラ様」
沙也加は鼻で笑うと、ウィルの顎から手を放し、声を上げ笑った。その笑い声は、誰もいない廊下にまで響き渡っていた。
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