第二十八話 危機
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「来てくれたんだぁ」
沙也加は椅子を回転させ、嬉しそうに圭を見ると、一つに結んでいた髪を解き軽く頭を振った。
「健康診断の結果がどうこうってやつを聞きに来ただけです」
圭は無愛想に答える。
「ああ、あれ?うっそぉ、信じてたのぉ?」
圭は目を伏せ、ため息を吐き「やっぱり」と呟く。
「嘘なら良いんですよ」
と半ば自棄になって声を上げる。
「健康だったって事でしょう。じゃあ、もういいですね。失礼します」
圭が振り向いて保健室を出て行こうとドアノブに手を当てると、いつの間にか隣りに沙也加が立って、ドアノブを押さえた。
圭は沙也加を睨み付ける。
「まだ、だめ」
沙也加は素早くドアの前に身体を滑り込ませると、後ろ手で鍵を掛けた。
「何をやっているんですか」
圭は鍵を掛けた音に直ぐに反応した。
「だって、逃げちゃうでしょ?それに」
沙也加は圭の両肩に手を乗せる。
「誰かに邪魔されるのも嫌だし」
沙也加の力は女性とは思えないくらい力強く、圭は簡単に保健室の簡易ベッドの上に押し倒された。
沙也加の動きは素早く、圭が起き上がる前に上に跨り、両腕を足で押さえつける。
「だぁかぁらぁ、逃げちゃ駄目だって言ってるでしょう?何で言うこと聞いてくれないの?」
圭は藻掻きながら沙也加を睨み付ける。
「なんでそんなに俺に構うんですか!?迷惑なんですが!!」
「ん〜?そうねぇ。強いて言うなら、圭くんの魂の香りが大好きだ・か・ら。食べちゃいたいくらいに」
「魂の香りって……!!ちょっ!?何をっ!!」
沙也加は圭のシャツのボタンを外しながら、顔を徐々に近づけて来る。何とか片腕が逃れたのも束の間、すぐに沙也加の手に捕まった。
「女性の割には……随分っ……豪腕、ですね!」
そう言うと、圭は普段使わないような筋肉も総出演で、渾身の力でもって身体を起こした。
沙也加は小さく声を上げ、ベッドから転げ落ちる。沙也加の身体が圭から離れ、圭は自分でも驚く早さでベッドから遠ざかった。沙也加は素早く体制を整えると、片手を腰に当て、もう片手で長い髪を掻き上げた。赤い唇は怪しく微笑んでいたが、瞳は怒りの色を帯びている。
「逃がさないから」
沙也加はそう呟くように言うと、いつの間にか圭の目の前に立っていた。圭は一瞬、何が起きたのか理解できなかった。二メートルほど離れた距離にいたはずの沙也加が、一瞬で目の前に立っているのだ。瞬きを一回分、そのぐらいの早さで。
驚きで動きを止めていた圭の両手首を、沙也加は素早く掴み、壁に押し当てた。
「私の目を見て」
ねっとりした声で耳元に囁く。
「大丈夫、ただ目を見てくれればいいの」
圭は何とか逃げようと藻掻きながらも、沙也加の目を見た。大きな黒い瞳が、徐々に色を変えていくように見え、圭はいつの間にか藻掻くのを止めて、沙也加の瞳をじっと見つめた。
「良い子ね」
遠くの方で、沙也加の声が響く。
圭は目を開けたまま、朦朧とした顔で沙也加を見続ける。沙也加の顔が近づく。
その時だった。
圭のはだけた胸元から陣が浮かび上がり、強い光を放った。
それと同時に保健室のドアが乱暴に開き、ミユウが現れた。
ミユウは圭から放たれている光に目を細め、驚きで一瞬動きが止まる。
「この光……」
沙也加が大声を上げながら顔を手で押さえ、藻掻いている。
その隙にミユウは急いで圭の腕を掴み、保健室から飛び出した。
圭は朦朧とした顔つきのまま、ミユウに腕を引かれながら廊下を走った。
ミユウは廊下の突き当たりまで来ると、一度後ろを振り向き沙也加が来ないことを確認する。
呼吸を整えると右手を壁に突き出し、壁に向かって呪文を唱えた。
「リュ・デルラド」
壁に陣が浮かび上がる。
ミユウは圭の腕を引っ張り、陣の中へ飛び込んだ。
二人が陣を通った後、壁は何事もなかったように普段と変わらない無機質な真っ白い壁に戻っていた。
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