小噺 〈それぞれの休日〉
読んで頂き、ありがとうございます。
今回、本編から離れて小噺を挟んでます。
先日頂いた感想を見て、仕事モードでは無いレイ達を見てもらえたら、もっと彼等が身近に感じてもらえるかなと思って挟みました。
箸休め的な感覚でお楽しみください♪
では、よろしくお願いします。
〈レイの場合……〉
ある日の休日。
レイは自室で熱心にあるサイトを閲覧していた。
「……おぉ……これ美味そう……あ、でも手間がかかりそうだなぁ。流石に五人分は……。あ、これならいけるか?あぁ、なるほど……調味料がなかなか家庭に無いやつばっかりだなぁ……これだけの為に買うのもなぁ……」
そう。彼は料理投稿サイトを見ているのだ。
レイの趣味は料理。
ひたすら食材を刻む、炒める、蒸す、焼く、煮る、燻す……という過程が頭の中をスッキリさせる様で、リフレッシュには丁度良いと好んで料理をする。
長期任務での約束事として、チーム内では自炊が基本。しかし、レイのチームに入ると、基本的にレイが毎日の料理担当を行っている。とは言っても、レイが何かに集中しているときは、他の誰か(主にアッシュ)が料理担当を行うのだが。
レイのチームに入りたがる騎士や法術師は多い。
彼の眉目秀麗な容姿に惹かれる者も多いが、何より仲間を大切にする行動や言動に感動し、慕う者が多いのだ。そして、そんな彼らの一番の楽しみは、レイの作る料理。
そんじょそこらのレストランより美味いと評判で、長期任務の話が上がるとレイを指名するチームまでいる程だ。
「よし!今夜は洋食で行こう。あ、食材メモ……っと。ほうれん草も玉ねぎもまだあるし、ベビーリーフが無いか……あとは……」
レイは画面を見ながら食材をメモすると、鼻歌混じりで部屋を出た。
こちらに来てから良く利用しているスーパーへ行く。
歩き慣れた道を行きつつ、散歩がてら公園の中を通っていくのだが、見た目が日本人がいう所の「外国人」なので、時々「ハロー」と子供達に声を掛けられる事がある。
そういう時は、レイもにこやかに「Hello」と返すと、その子供達と一緒に母親達からも黄色い声が上がる。レイはそんな事は気にも止めず、子供達に軽く手を振って散歩を続ける。
公園を突っ切って、暫く真っ直ぐ歩いて行くと「スーパーわかば」が見えて来た。
住宅街の中にある小さなスーパーだが、食材は充実しており、欲しいものが常に揃っている。
レイは慣れた様子で籠を手に取ると、店内の食材を吟味しながら籠へ次々と入れて行く。
「あら、レイさん、こんにちは。今日は何を作るんだい?」
声の方を振り返ると、恰幅の良いまん丸顔の愛想の良いおばさんがニコニコと笑顔で近寄って来た。
彼女は島田さんと言って、このスーパーで働いているパートのおばさんだ。
レイが初めてこの店に来た時に、買い物の仕方に手間取っていたのを見兼ねて、色々と教えてくれたのだ。彼女も料理や食べる事が好きな様で話をしているうちに意気投合し、仲良くなった。
「あぁ、島田さん、こんにちは。今日は魚介をメインにした料理にする予定です。そう言えば、この間、島田さんが紹介してくれた料理投稿サイト、すごく役立ってます。日本人は食に貪欲ですね。どれも美味しそうで、見ているだけで楽しいです」
「あははは。そうかい、気に入ったなら良かったよ。魚介なら、今日は海老がお買得だよ。あと、サーモンも今日のは脂が乗っててオススメだね」
「それはいい!海老は買う予定でした。サーモンは島田さんがオススメなら、今日は買う予定無かったけど買いましょう」
「まいどぉ〜」
*****
〈シンの場合……〉
「アッシュ、レムアドミニスターへのゲートを開けてくれないか。騎士団へ行って身体を動かして来る」
アッシュの研究室のドアの前でそう告げると、アッシュは顕微鏡を覗いたまま指をパチンと弾いた。
シンの目の前に魔法陣が現れ、シンはその中へ入る。
「集中してるところ、悪いな。ありがとう」
アッシュは相変わらず顕微鏡から顔を上げず、「いいえ、行ってらっしゃい……」と、消え入りそうな声で言った。
レムアドミニスターに着くと、シンは真っ直ぐ騎士団の鍛練場へ向かった。
「あ!シンさん!お疲れ様です!」
最近入ったばかりの若い騎士が、目を輝かせながら挨拶をして来る。
「おう、お疲れさん。団長は居るか?」
「はい!第五鍛練場にいらっしゃいます!」
「そうか、ありがとうよ」
「いえ!」
シンは教えてもらった場所へ向かうと、長い赤髪を一本に纏めた男の後ろ姿を目に留めた。
「ウッド団長!」
ウッドと呼ばれた男は、俊敏に振り返ると満面の笑みを浮かべ「よぉ、シン」と片手を上げた。
「現実界はどうだ?なかなか来ないから、相当、向こうが気に入ったのかと思っていたよ」
「まさか。向こうでは団長の様に痺れる程の手合わせが出来る相手が居なくて、退屈な日々ですよ」
「ははっ!嬉しい事を言う!よし!では早速、相手をしようか?」
「えぇ、よろしくお願いします。手加減無しで」
「もちろん」
*****
〈アッシュの場合……〉
アッシュはシンが消えたあと、やっと顔を上げた。
「はぁ……。なんて美しいんだ……」
吐息をひとつ、ほんのり高揚した頬を緩め、満足した様に微笑む。
アッシュが覗いていたもの。それは……。
藻。
ケイソウを採取して、それを覗いていたのだ。
以前、本で藻を顕微鏡で見た時の写真を見てから、実際に自分でも見たくなったのだ。
レムアドミニスターでは飲料水はもちろんのこと海、湖の水も管理されており、藻が出る事が滅多にない。
ステンドグラスの様に美しい藻が作り出す自然の芸術を、一度でいいから実際に見てみたいと、ずっと思っていた。
今回の任務で二千年代の日本へ行くと分かると、アッシュはいそいそと採取道具を荷物に詰め込み、先に現実界へ来て準備をしつつ藻の採取をしていたのだ。
本当なら研究しなくてはいけない仕事もあるのだが、たまの休日くらい少しの時間、趣味に没頭するのも悪く無いだろうと。誰も咎めもし無いのに、アッシュはそんな事を思いつつ、再び顕微鏡を覗き込んだ。
*****
〈アサトとミユウの場合……〉
「あっ!ダメ!……ちょっ……まって……あぁ!ヒドイっ!いやあぁ!!」
若干、怪し気な声が、ある一室から漏れ聞こえる。
「待てと言われて、待つわけない!……えぃ!」
「いやん!ミュウちゃん、ヒドイ!!」
「よっし!!もらった!!」
「あぁぁぁ!!!!」
「やった!勝った!!」
テレビ画面を見ながら、リモコンを操作する。
そう、二人は圭に借りたテレビゲームに夢中になっていた。
ミユウは両腕を高く上げ、喜びのポーズをする。その横で恨めしい顔でその様子を見るアサト。
「二勝四敗一引き分け……」
「アサトくん。約束、覚えてるわよね?」
ミユウは意地悪く笑みを浮かべアサトを見遣る。
アサトは悔しげに口角を下げ、可愛らしいアーモンドアイに力を入れて、キッとミユウを見る。
「あと一勝。私が勝ったら……」
「絶対、女装はしない!!こっから大逆転だ!さっきまでミュウちゃん女の子だしって思って、手加減してあげただけだもん!!」
「ふふ〜ん、ならもう一度やりましょう?」
「望む所だっ!って、ちょっと待って!これじゃないゲームで!」
「まぁ、そのくらいのハンデなら良いかな」
若干、上から目線でミユウは頷く。
アサトは急いでディスクを入れ替えると、リモコンを構える手に力がこもった。
「絶対、勝つ!」
「私が勝つ!」
二人は一瞬、目を見合わせると、直ぐにテレビ画面に鋭い視線を送った。
*****
レイはキッチンから食堂に料理を運び終えると、テーブルの上を彩る自信作を見て満足気に頷く。
「なかなか良い感じだな。よし!冷めないうちにみんなを呼ぶか」
レイは通信機を使って、ミユウ達に声を掛ける。
『みんな、夕飯の支度が出来たぞ。冷めないうちに食堂に来い』
暫くすると、小走りで食堂に入ってくる足音がする。
レイが飲み物を用意し始めると、ミユウとアサトが入って来た。
「うわぁ〜!今日も美味しそう!」
ミユウが目を輝かせて喜ぶと
「良い匂い!めちゃくちゃお腹空いてきた!」
と、何故か前髪を横に流し可愛いリボンの付いたピン留めを付けているアサトが嬉しそうに言い、席に着く。
アッシュが食堂に入って来ると、その後すぐにシンが入って来た。
「よし!全員揃ったな。じゃあ、食べようか」
「せぇの」ミユウが小さく言うと、それに続くように一斉に声を出す。
「「「「「いただきます!」」」」」
「何このお肉!口の中でホロって解ける!」
アサトが牛肉を頬張りながら言う。
「このカルパッチョのソース、爽やかで美味しいですが、何をかけたんです?」
アッシュが味わう様に魚を口に運び訊ねる。
「このパスタ、魚介の旨味がしっかりしてて旨い!ピリ辛なのも良いな!」
シンはおかわりの心配までして食べている。
「お兄ちゃん、やっぱり、お兄ちゃんは天才だわ。毎日美味しいけど、今日は最高に美味しい」
レイの隣に座るミユウが、何故か眉間に皺を寄せながら褒めてくる。
レイはそれぞれの顔を見て、嬉しそうに微笑むと、自分も食べ始めた。
一人で食べる食事に慣れていたが、こうしてみんなで……。みんなが喜ぶ顔を見ながら食べる事も、悪くない。
レイはそんな事を思いながら、束の間の幸せを感じていた。
今夜のメニュー
・鯛とサーモンのオレンジとレモンのソースかけ
・アボカドと海老のオーブン焼き
・ベーコンと玉ねぎとほうれん草のキッシュ
・魚介たっぷりペスカトーレ
・牛肉の赤ワイン煮
・ふわふわ白パンとグリーンサラダ
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