第二十六話 告白
読んで頂き、ありがとうございます。
本日2話投稿予定です。次話は昼か夕方には……。
登場人物がごった返してますので、近いうち人物紹介を書きますね。暫しお待ちを……。
では、よろしくお願いします。
シオンと名乗った圭の父親は、静かに語り始めた。
「丁度、私が君たちくらいの頃、私はパラレルワールドへ向かう入り口の守番だった」
レイとシンは椅子に座り黙って目の前に座る男の話に耳を傾けた。
「私はチームを組むことはなく、夢を見ながらパラレルワールドへ迷い込む者達を、元の世界に戻すための仕事や夢の扉付近でハンターの侵入阻止を中心に一人で行っていたんだ」
「チームを組まず一人で!?」
シオンの言葉にレイは驚き呟く。その呟きにシオンはチラリとレイを見遣り、小さく微笑む。レイの驚きは当然の事だった。
何故なら、どんな仕事でも一人で行うのは相当な魔力量を持ち、技術も優れた者で無い限り不可能に近い事だ。特にハンター侵入阻止は、チームかバディを組んで行う事が多い。
レイは俄に信じ難い思いに駆られながらも、シオンの話を聴く。
「ある日、私はいつものように夢とパラレルワールドの入り口で、迷い込む者が来ないか見回っていた。すると、一人迷い子が現れた。私は、いつものように、パラレルワールドへの来かたに関する記憶消去の処理を行い、夢の世界へ戻るように誘導した。その迷い子の夢はとても綺麗な夢でね。私はその夢の世界が大変気に入ってしまったんだよ。それから、頻繁に彼女の夢に入って行ったんだ。そして、彼女と話をしたいと思うようになった」
「「え」」
レイとシンは同時に声を上げた。他人の夢に頻繁に入り込むには、大きなリスクがある。
夢の主に一度や二度、姿を見られることは、記憶処理で何とかなる。が、話しをするという行為は、夢の主に完全に覚えられてしまう。記憶処理を行うにも、限度があった。完全に覚えられた場合、夢の主の「経験」として記憶され、「夢」ではなくなるからだ。そのため、法術師並びに騎士は、夢の主に話しかけてはいけないというルールがある。そして、「経験」は消してはいけないというルールもある。「経験」は大事な「思い出」であり、それが楽しいものでも、辛いものでも、その夢の主には大事な成長の糧になる。他人の「思い出」を他人の手で消すことは、決して行ってはいけない。
「現実界へ行って、『現実』の彼女に話しかければ良かったのに、なぜか私は、夢の中の彼女に話しかけてしまった。私は、ルールを破ったんだよ」
レイは信じがたいという顔をした。
「それが、妻だ。圭の、母親だよ」
シンはその言葉を聞いて複雑な顔をし、中途半端な笑みをこぼした。
「私は、彼女を愛してしまった」
「次元の違う人間を愛することも、御法度です」
レイは冷静沈着な面持ちで答える。シオンは小さく笑って頷いた。
「そう。私は、多くのルールを破ったんだよ……」
そう言うと俯いていた顔を上げ、レイとシンを交互に見て、再び語り出す。
「私は自分の記憶と引き替えに、この世界に住むことを選んだ。法術師であったことは勿論、魔力も組織のプログラムによって消された。次元の行き来の仕方、魔術の使い方、向こうで私と関わっていた人全ての記憶を消すこと。ただ、彼女の記憶だけを残して。他の大切だった全ての記憶を消すことを条件に、私はこの世界で生きていくことを決断した」
レイは頭で考える前に、すぐに疑問を口にした。
「では、なぜ今、あなたは私たちのことを分かっているのです?記憶を消したのであれば、私たちの組織についてはおろか、この記録庫について知っているのも、おかしい」
シオンは小さく頷く。
「それには、『鍵』が関係している」
「鍵」と聞き、レイとシンは顔を強張らせる。
「……一体、『鍵』とは、何なのですか?」
「『鍵』は、死者の魂を呼び起こす為のものだ」
「「魂を、呼び起こす?」」
二人は同時に声を上げた。
「そう。時間軸をね、狂わせるんだよ」
「なんのために、そんなものが作られたんだ……」
シンは独り言のように呟いたが、その言葉にシオンは静かに応える。落ち着いたアルトの声は、彼自身の性格を表すかの様に穏やかだ。
「『鍵』は、レムアドミニスターで君たちが所属している管理事務局の創設者が考え、二代目が実現化したものだった。二代目はね、大事な奥さんを、時空間で亡くしているんだ。現実界の人間を助けるためにね。彼は、彼女に会いたいが為に、必死で開発した。しかし、その『鍵』は時間軸を狂わせる。狂うことによって、次元が全て繋がってしまう。現実界も、我々が住んでいた世界も、パラレルワールドも、全て。その事が分かり、直ぐに彼は『鍵』の力を封印した」
「封印?なぜ、『鍵』そのものを破壊しなかったのです?」
レイはいつの間にか身を乗り出し訊ねていた。
「『鍵』は、意志を持ってしまっていたんだ。それが何故なのか、誰にも分からなかった。恐らく、彼の念が強かったのだろうと、当時の研究者達は言っていたそうだ。壊そうとすると『鍵』は反発を繰り返し、力を封印することだけが、唯一、出来たことだったようだ」
レイが頷くと、シオンは両手を組んで話を進めた。
「『鍵』は、主に現実界の人間の夢を好んだ。自分で居心地の良い隠れ家、つまり『夢』を探し、移動をする」
「移動……」
「私はこちらの世界で天文学者の道へ進んだ。妻と結婚したのはそれからだった。やっと子供が出来て、喜んでいるのも束の間、管理局の人間が私の前に現れた。あなたの息子さんの夢に『鍵』が移動した、と。あなたは元法術師だから、願ってもいない、絶好の隠れ家だとか、勝手なことを言っていた。法術師と現実界の人間との間の子供であれば、いざとなれば自分で鍵を守ることも出来るだろうなどと言ってな。現実界の人間のみよりも、安全さは大きい、と。はじめは何の話しだかさっぱり分からなかった。その時だよ、記憶修復をされたのは。私は全てを思い出した。私は管理局の人間と一緒に、圭の夢の中へ入ったんだ。圭の夢は、空一面に広がる星の夢だった。その中に現実界では存在しない、一番良く輝く星があった。それが、『鍵』だった」
「管理局の人間は、初めからどの時代に『鍵』があるか知っいるにも関わらず、なんで何も言わなかったんだ……」
シンが不服そうに言うと、シオンは顎を引き、その疑問に応える。
「管理局の人間でも、知る者はほんの一握りだ。私の所に来た人間は、『月下美人』だった」
『月下美人』という言葉に、レイとシンは一人の人物を思い出した。
「彼」をチームに入れたその時から、この時代へ来ることが決まっていた。レイとシンが「彼」に話をしに行ったとき「彼」は何の迷いもなくこの時代へ行こうと言った。そして、この土地に拠点を置く事を決めたのも「彼」で、そして、この結果だ。
「『月下美人』が開発されたのは、丁度、『鍵』が開発された時期と、ほぼ同時期なんだ。彼等は、『鍵』の『見張り番』として、産まれてきたんだよ」
シオンは、二人の考えを見透かしたように静かな口調で言った。
「アッシュは、どこだ?」
レイは誰にともなく呟いた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!
続きが気になる!という方は是非ブックマークや☆、評価、感想など今後の励みになりますので、残してもらえると喜びます!よろしくお願いします!