第二十二話 夜明
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本日2話投稿します。次話は午後昼過ぎに。
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午前三時二分
ハンター達の活動が活発化する時刻より少し早い時刻に、緊急警報音がけたたましく鳴り響いた。
四部屋同時に勢いよくドアが開く。
「なになに!何が起きたの!?」
アサトが寝癖の付いた髪を掻きながら言う。まだ寝惚けているのか、騎士服のボタンは段違いで目は半分開いていない。
「この警報音が鳴るという事は、ただのハンターじゃ無い気がするぞ。アサト、さっさと目を覚ませ、忙しくなるぞ」
シンはしっかり騎士服を着込んでおり、一糸の乱れもない。それは、レイもミユウも同じで法術師のローブを纏い、戦闘準備万端だった。
「とりあえず、記録庫へ急ごう」
そう言うや否やレイは先に走り出し、三人は急いでその後に続いた。
記録庫へ到着すると、出入り口にざっと見た感じ二十数名の騎士と法術師でごった返しており、四人は唖然としつつ出入り口を塞いでいる騎士達を掻き分け急いで室内へ入っていった。室内にも騎士や法術師達が大勢居る。
「アッシュ!一体これはどういう事だ!」
レイの声に素早く反応したアッシュの表情からは、焦りの色が読み取れた。
「レイ!大変です!この地域一体に不正のドアが開けられているんです!本部へ緊急招集を依頼し、一部の法術師や騎士達は本部から直接ドアへ向かっています!ここにいる彼等は、先程、本部のゲートから集まって来た者達です!」
「アッシュ!また、十ヶ所のドアがこじ開けられた!」
アッシュがレイ達に説明をしていると、横から他の記録士が声を上げた。それを聞くや否や、アッシュはコンピュータの画面を最大化させ、ドアの位置情報を記録庫に居る全員が見える様にする。すかさずレイが見知った法術師と騎士達を組み合わせ指示を出していく。
「エリオット、マキとナナキを連れて東棟A4010のドアへ!ユイナ!ゼルとレイラを連れて西棟F23のドアへ!それから、カイン!シュウはどうした!?すぐにシュウとクリオを連れて南棟G303のドアへ!ーーーー」
次々と部屋から出て行く仲間を見送りつつ、ミユウ達は焦りの色を隠し切れずにいた。圭からメモリーレムの香りがして、それについて調べようとしている最中、ハンターが一斉に動き出した。今まで、こんな事は一度も無かった。一体何が起きているのか、何故こんな事態になっているのか、誰にも何も分からなかった。
記録庫に居た緊急招集された騎士や法術師達が居なくなり、レイ達の五人と本部の記録士だけになった。
レイは画面を見つつ、先程とは打って変わって静かに指示をし始めた。
「俺とシンは、二宮圭のドアへ向かう。画面上、変化は無いが、だからこそ気になる。ミユウとアサトは、ここで待機を。日の出までまだ時間がある。恐らく、これで収まるとは思えない。アッシュ、ハッカーの討伐を終えた騎士達が法術師モドキを連れ帰ったら、拘束の陣の中にぶち込んでおいてくれ。後で本部の人間に連れ帰させる」
「わかりました」アッシュは真剣な表情で返事をする。
「ヒスイ、悪いがもう少しアッシュを手伝ってくれないか。またハンターの襲撃があるかも知れない」
「えぇ、もちろん、そのつもりです」ヒスイと呼ばれた男が頷く。「ありがとう」と礼を言うと、互いに頷く。アッシュ同様、中性的な顔立ちと銀色の髪、その名の通り翡翠色の瞳は、不思議な煌めきがある。
ヒスイの返事を聞き、アサトを見る。
「アサト、いざという時はミユウを頼む」
「了解!任せて、お兄ちゃん!」
アサトはキリッと敬礼をするが、レイは目を吊り上げ睨み付けた。
「お前がお兄ちゃんというな!お兄ちゃんと呼んで良いのはミユウだけだっ!」
「落ち着け、レイ」と、シンが苦笑いしながら言うと、レイはシンを振り向き半目で見つめる。
「シン、先に行く」
「あぁ、すぐ追いつく」
シンがニヤリと口角を上げ短く返事をすると、レイは深緑色の鳥の姿に変化し記録庫を飛び出して行った。
ーーーーー
アンティークの調度品が揃った部屋には、蝋燭の灯りが揺らぎ、辺りを怪しく照らし出す。
豪華な飾り付けをされた椅子にもたれ座る男が、目の前に立つ女をじっとりと見つめ話し出した。
「噂によれば、レムアドミニスターの元法術師が現実界で生きていると聞く。それもお前が最近、好んで居る街に。そんな人間が居るという事は『鍵』がそこに在るのは間違いない筈だ。満月になるとナイトメアの動きが鈍くなる。出来れば今夜中に見つけ出して欲しい。ヴァーミラ、お前が最近飼っている法術師……ウィルと言ったか?『鍵』を見つけたら、そいつにメモリーレムの回収をさせろ。……そのメモリーレムは、絶対に呑むなよ?」
ヴァーミラは、妖艶な笑みを浮かべ「酷いですわね?」と口を開く。
「私がメモリーレムを独り占めするかの様におっしゃって」
「フン。メモリーレムの香りをプンプンさせて、よく言う。だが、ヴァーミラ、『鍵』だけは絶対に呑むな」
男は胡散臭いものを見るかの様に目を細め、鼻で笑う。
「もう、大丈夫ですわ、殿下。流石の私でも『鍵』付きのメモリーレムは何が起こるか分かりませんから、飲んだり致しませんわ。必ず、良き報告が出来るよう、今夜にでも育ってきたナイトメアも含めて、一斉に放ちましょう。そうすれば流石のレムアドミニスターの法術師達も、全て守るなど不可能でしょう」
ヴァーミラが、ねっとりとした笑みを浮かべると、殿下と呼ばれた男が「はぁ」と息を漏らす。
「あぁ、出来る事なら、私も奴等が慌てふためく姿を見てみたいものだ」
椅子を回転させ立ち上がると、窓際から空に浮かぶ限りなく丸に近い月を見上げ、低く笑い声を上げた。
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