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第一話 疑惑

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 執務室の重たいドアを開けると、電気も付いていない薄暗い部屋の一番奥に、背を向けて椅子に座る人物がいた。

 その人物はドアが閉まると同時に椅子を回転させ振り向いた。

 椅子に踏ん反り返って座る体格の良い年配の男は、執務室に入ってきた一人の青年に鋭い視線を送る。


「最近、幾人かの法術師が消える事件が起きているのは知っているな?」


 青年は心の中で、そりゃあ、もう当然です、と思いながら「はい」と短く返事をする。


「では、メモリーレムが消える事件が起きている事も知っているな?」


 男の声はさほど大きくはないが、足の裏から全身に伝わるような低い重圧のある声だ。青年はドアの前に立ったまま「はい」と一言返事をした。


「システムの故障ではない。誰かが故意に行っていることだ。何の目的でそんなことをしているのかは分からない。国や時代は様々だが、最近は二千年代のメモリーレムが立て続けに消えている」


 男は椅子から立ち上がると、窓に歩み寄り外を眺めた。


「法術師で一人疑わしい人物が居る。その男もここ最近、姿を消している」


 青年は息を吸い込むと「はい」と返事をした。


「お前は、ウィルと交流が合ったそうじゃないか」


 青年は目を伏せ小さく息を吐くと、凛とした声で「はい」と返事をした。


「ウィルという奴は、どんな男だ?」


 男は相変わらず窓の外を見下ろしながら訊ねる。


「とても優秀な法術師です。アカデミー時代、私は何度か彼の指導を受けましたが、とても素晴らしい先輩法術師でした。人としても法術師だけでなく騎士からの人望も厚く信頼されております」


「なるほど」


「彼の同期でも、彼に敵う者は居なかったと記憶しております」


「どんなことも?」


 青年は男を一瞥し、低い声で「大抵のことは」と答えた。


 男は青年に顔を向けた。その目は青年の内部を見透かすかのような鋭さがある。


「では、彼ならばどんな規制もかいくぐる事は簡単かもしれんな」


 男は青年の反応を観察する様に見つめるが、青年は表情一つ変えず黙って立っていた。


「お前はどう思う?」


「と、いいますと?」


 青年は微妙に鋭さを備えた視線を男に向ける。男は黙ったまま青年の瞳を見ていたが、直ぐに目を逸らし深く息を吐き出すと、低い声を益々低くし質問をした。


「お前は、『鍵』の話しを知っているか?」


 青年は眉を顰め、小さく顎を引いた。


「この睡眠管理事務局の創設者が考えたと言う……。現実界と夢世界だけでなく、全ての時空間を一つにするという物だとか。しかし、100年以上も昔の話で、今は存在すらしていない。それを再び開発することも許されてはいない……」


 青年の言葉に男は深く頷いた。


「『鍵』は、存在している」


「え!?」


 青年は涼しげな顔を一変、驚きの色をあらわにした。


「我々が調べたところでは、『鍵』が数十年前、現実界の二千年代に移動したと報告が来ていた」


「移動……?」


 男は青年を横目で見ると、静かに答えた。


「『鍵』は意志を持っている。自分で居心地の良い夢を見つけ、移動をする」


「……」


「二千年と言っても、二千年代のどの時代、どの国かは明らかにされてはいないが」


 青年は微かに眉を動かした。


「ウィルは最近、随分と二千年代の記録を熱心に読んでいたそうだが、知っていたか」


 青年は目を瞑り「いいえ」と短く答えた。

 男は鼻から大きく息を吐き出すと、再び椅子に座った。

 青年は苛立ちを押さえるようにぐっと奥歯を噛み締め、静かに目を伏せ立っている。


「今回の事件は、『鍵』が関係している可能性が大いにある」


 男は両手を組み机の上に肘をつくと、真っ直ぐ青年を見た。 


「チームを組んで、現実界の二千年代へ調査に向かって欲しい」


 青年はゆっくり目を開け、無表情のまま良く通る声で「はい」と返事をし、それ以上無駄な会話はせず「失礼します」と、一礼をして部屋を出た。



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