第十八話 鳥籠
【注意】
今回、後半に残酷な描写があります。
苦手な方は回避をしてください。
では、よろしくお願いします。
室内は厚手のカーテンが閉められ薄暗く、よく見えなかった。
ウィルは左奥のカーテンを薄く開け、室内を素早く見回した。室内には以前まで使っていたのであろう豪華な装飾が施されたテーブルやキャビネットなどが乱雑に置かれている。
埃にまみれ、誰かが入った気配はない。
(いつも通りだ……)
ウィルは小さく息を吐き出した。
室内には五カ所の窓がある。足音を忍ばせ家具の間を慎重に通り抜けると、左から二番目の窓の下に屈み込んだ。
ベストのポケットから小型のナイフを取り出し、木目調のタイルを二枚剥がす。
タイルを剥がすと、床の下には小瓶が幾つも入っていた。
小瓶の中にはほんの少しずつ液体が入っている。その液体はどれも青緑の光を放っていたが、それぞれ微妙に色の濃さが違っていた。
ウィルはベストにナイフを仕舞い、スーツの内ポケットから小瓶を取りだした。
小瓶の中には、床下にある小瓶同様、青緑の光を放った液体が、瓶一杯に入っている。
ウィルは床下から空の小瓶を取りだし、蓋を開けた。液体の入った瓶の蓋も開け、そっと空瓶に傾ける。液体にはとろみがあり、ゆっくりと流れ出した。液体が少し移動すると、急いで両方の蓋を閉める。液体が少量入った瓶を床下に仕舞い、残りの液体が入った瓶を再びスーツの内ポケットへ入れた。タイルを元に戻し、再び家具の間を通り抜け、薄く開けていたカーテンを閉める。
ドアに耳を当て様子を覗う。音がしないことを確認すると、ドアを静かに開け部屋を出た。
ウィルは室内同様、薄暗い廊下を音も立てずに歩いた。廊下を右折しようとしたとき、人の話し声が聞こえてきて、こちらに向かって来ると気付くと素早く後ろを振り向き、先ほどまで居た部屋へ戻り中に入った。数名の足音が部屋の前を通り過ぎて行く。耳を澄まし、音が遠のくのを待つ。暫くしてウィルはドアを薄く開け、廊下の様子を覗き見た。誰も居ないことを確認すると、部屋を出て、足音が去った方角とは反対の廊下を静かに、しかし足早に進んだ。
黒く陰気な空気を漂わせるドアを開けると、室内から煙が押し寄せて来る。ウィルは手の甲で口元を押さえ、軽く咳払いをした。思いの外、声が廊下に響き、急いで室内へ入り込む。室内には誰もおらず、鳥たちの羽ばたく音が響いていた。
ウィルは室内の左奥に置かれた、大きな鳥籠の前に立った。鳥籠は円形のテーブルの上に置かれ、中には十六匹の鳥が入れられている。
ウィルは手袋を外し、ポケットからピルケースを取り出すと、中に入っていた錠剤を全部だし、鳥籠に手を近づけた。
「さあ、これを食べて。人が口にする物を食べておけば、自分が人間だったことを忘れずに済む。すまない。今の私には、この籠の鍵を壊すことが出来ない。もう暫くの辛抱だ。必ず助ける。信じて待っていてくれ」
鳥たちはウィルの手からこぼれ落ちる黄色い錠剤を食べたが、一匹だけ食べに来ない鳥が居た。水色の小鳥は、じっとウィルの顔を見ていた。ウィルは「さあ、あなたも」と籠の間から指を入れたが、鳥は口を開けようとはしなかった。
仕方なく、籠の中に数粒投げ込む。全て与え終えると、手袋をはめた。すると突然、後ろから頭を殴られたかの様な痛みが生じ、頭を抱え呻き声を上げた。その場に蹲るウィルに気がついた鳥たちは、一斉に鳴き声を上げる。
「そこで何をしているんだい?」
ウィルが顔を上げ振り向くと、ヴァーミラがドアの前に腕を組んで立っていた。
ブロンズ色の髪をアップにしているせいか、金色の蛇のような目が、益々釣り上がって妖しく光る。口元は両側に裂けるように広がり、妖しく光る舌が唇をぺろりと舐めた。次の瞬間、ヴァーミラは瞬く間にウィルの目の前に立っていた。
ウィルは額に汗を浮かべ、床に座ったまま肩で息をしヴァーミラを見上げ睨み付ける。
ヴァーミラはウィルの髪を乱暴に掴み、更に顔を上げさせると、鋭く睨み付けるウィルを見て面白そうに笑う。
「自我のしぶとい男だね」
ウィルの髪から手を放し、彼の右手を掴み手袋を外した。ウィルの右手の手の平には陣が象られ文字が書かれている。
「この手に書かれた文字は、この鳥籠とお前の運命が書かれている。お前がこの籠を壊そうとすれば、鳥たちは死ぬ。お前自身も無事で済むと思うな。お互いが生きていたいのであれば、何もしないことだ」
ヴァーミラは鳥籠を一瞥すると、にやりと妖しい笑みをこぼした。
そしてウィルを見下ろし、再び鳥籠に目をやる。
ウィルは両目を見開き「やめろ……」と声を振り絞った。身体を動かそうとするが全身が痺れ、上手く動かない。ウィルの息遣いが荒くなるのを見て、ヴァーミラは大声で笑った。ウィルの手を放すと同時に、素早く鳥籠に手を入れた。一匹掴み取ると、目を見開き狂喜な笑い声を上げた。籠の鳥たちが一斉に悲鳴のような鳴き声を上げる。
部屋に、水色の羽根が舞い散った。
ウィルの頬を羽根が掠めたが、ウィルは黙って跪いていた。
「今日の夢はどんなのだい?」
ヴァーミラが生臭い息を吹きかけてくる。ウィルは動じることなく無表情のまま内ポケットに手を入れ、小瓶を取り出した。
ヴァーミラは小瓶を受け取ると手の甲で口を拭き、小瓶の中身を一気に飲み干す。その手の甲には、血とおぼしき赤い色と、水色の産毛が付いていた。
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