表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/60

第十三話 更訂

読んで頂き、ありがとうございます。

よろしくお願いします。

 昼休み。

 ミユウは一人、学校の屋上へ来ていた。


 周囲を見回し、誰もいないことを確認すると、制服のポケットから懐中時計を取り出し蓋を開ける。

 懐中時計の外見は、なんの装飾もされていない古びた時計だが、中身は通常の時計とは様子が異なっている。現時刻を指すシルバーの長針、短針、秒針の他に、忙しなく出鱈目にぐるぐると回るゴールドの長針と短針、コンパスの様なブロンドの針がゆらゆらと揺れている。文字盤は、十二までの数字の周りを二十四までの数字が囲むように書かれており、他には東西南北を示す記号や、不規則に並んだ文字の羅列が反時計回りに秒針を刻むように動いていた。ミユウは懐中時計の縁にある三つの突起のうち一つを抓み、ゆっくりと回し、小さく呪文を唱えた。懐中時計は七色の光を放ち、映写機のように人物を浮かび上がらせた。


「お兄ちゃん」


『どうだ?』


「大丈夫そう。朝も異常はなかったし、今も特別おかしな所はないわ」


『そうか。しかし、油断はするな。午後になったら記憶修正が起こるかも知れない』


「わかった。じゃあ、何かあったらまた連絡する」 


『了解』


 懐中時計は徐々に光を失うと、何事も無かったように古びた姿に戻った。




 ミユウは教室へ戻ると女子生徒の会話の輪に入りつつ、圭の様子を観察した。圭は自分の席で腕を上げ身体を伸ばし、大きな欠伸をしている。その大口に一馬が自分の拳骨を入れようとして「俺のグーよりでかい口だったぞ」と騒いでいる。圭が「少し寝る」と言って机に俯せたと同時に、ミユウは圭を見る視線を微かに鋭くした。しかし、一馬が三分も経たないうちに叩き起こして何やら耳打ちをし、二人は廊下に視線をやると何が面白いのか大笑いをしだした。その様子を遠巻きに見ていたミユウは、大丈夫そうだと、そっと胸を撫で下ろし、女子の会話に違和感なく混ざった。



ーーーーー



「圭くん、もう帰る?」


 ミユウは帰り支度を終えて、圭の目の前に立つ。圭は顔を上げて「うん」と愛想良く返事をすると、周囲に目を向けた。案の定、痛い視線が圭をちくちくと刺してくる。


「あ、でも、ちょっと寄るところがある。かな。うん」


 圭は必要以上に大きな声で歯切れの悪い返事をし、ぎこちなく席を立った。圭は素早くミユウに「正門の前で」と耳打ちする。


「じゃあ、また。お先に」


 と、誰にともなく声を張って言い、そそくさと教室を出て行った。ミユウは瞬きを数回して、圭を見送った。

 圭が教室を出て行った後、「ミユウちゃんの誘いを断るとは、なんて男だ!」と、一部男子から批判の声が上がったのは言うまでもない。



 圭は正門の前で自転車に跨ってミユウを待っていた。圭が教室を出てから十五分近く経っている。もう帰ろうかと思っていると、ミユウが小走りでやってきた。


「ごめんね、遅くなって」


 圭の前まで来ると、ミユウは本当にすまなそうな顔で言った。圭は「いや、大丈夫」と微笑み、自転車を降りて押し歩く。ミユウもそれに続き、圭の隣を並んで歩いた。


「教室で宮野くん達に捕まってしまって」


 ミユウは遅れた理由を話した。


「僕たちが送りますとか言ってくれたんだけど、断るのがなかなか大変で……」


 ミユウは心なしか本当に疲れた声で言い、圭はその様子を想像し、笑い声を上げた。


「何だか想像つくよ。大変だったね。ご苦労様」


 圭の言葉に、ミユウは少し困った様に微笑んだ。


「明日からは、今日みたいに正門で待っていた方がいいかもね」


 ミユウは「その方が良い」と自分の言った意見に頷いた。

 圭は少々戸惑いはしたが、「まあ、いいか」と思い、ミユウの言葉に同意した。


 家の前に着くと、圭はミユウの家を見上げた。ミユウはその様子を黙って見つめる。

 不意に圭がミユウを振り向き「この家ってさ」と話し始める。ミユウはびくりと身体を揺らした。その動きが思いのほか大きく揺れたので、圭は驚いて「大丈夫?」と訊ねてきた。ミユウは誤魔化すように微笑むと「この家が、どうかした?」と話を促す。


「うん。この家さ、子どもの頃からすっげぇ興味あってさ。昨日、うちの父親が帰ってきて。あ、うちの父親、単身赴任しててさ。その父親と、この家の話しをしてたんだ。子どもの頃、父親とキャッチボールしてて、ボールが入っちゃって。取りに行きたかったんだけど、瀬川さんのおじいちゃん、怖くてさ。結局、諦めたって話ししてて」


 圭はミユウの家を眺めながら、懐かしそうに話しをしだした。アッシュの組んだデータがどんな記憶だったか知っていたミユウは、圭の話しを聞きながら小さく首をかしげた。

 ミユウが知っているデータは、ただ「この家は昔からある。誰も興味を示さない」というもので、具体的なデータは何も書かれていないはずだった。しかし圭は今、細かな「記憶」を話している。記憶修正が行われたことに気がついた。


「そういえば、昨日、父さんに瀬川さんの話をしたら、懐かしがっていたよ。瀬川さん、お兄さん居るんでしょう?俺の父親、一度だけ君たちに会ったことがあるらしいんだよ」


 懐かしい話しでもするかのように遠い目をして、微笑みながら話している。その姿をミユウは驚きの顔を必死に押さえ聞いていた。


「瀬川さん、覚えてる?」


 圭が不意にミユウを振り返った。ミユウは顔を強張らせ、「私の小さい頃だろうから、覚えてないな」と言い圭から顔を逸らす。


「お兄さんも一緒に住んでるの?今度会いたいなぁ」


 圭はミユウの様子を気にする風でもなく話しを続ける。ミユウは「そ、そうね。お兄ちゃんに言っておくね」と返すのが精一杯だった。今すぐにでも家の中に入ってデータ確認をしなくてはと思った。切りの良いところで家に入るタイミングを計っていた、その時。


「ミュウちゃん」


 と声をかけてきた人物が居た。声の方へ振り向くと、童顔の男が手を振って近づいて来る。ミユウは目を見開いて男を見た。他校の制服を着た男子生徒は、笑顔でミユウ達の前に立ち止まった。


「今帰ったの?」


 男はにこやかに言う。ミユウは自分の顔を圭に見られないようにして「アサトくん」と、助けを求めるような表情をし、童顔の男子生徒を見つめた。

 アサトと呼ばれた男は圭に目をやり、人懐っこい笑顔を見せ「どうも」と挨拶する。

 圭はつられる様に愛想の良い笑顔で答えた。


「瀬川さんの友達?」


 ミユウは圭を見ずに「ええ、そうなの」と早口で言うと「早かったわね」とアサトに言った。


「さ、じゃあ家に入りましょう」とアサトを促す。


「じゃあ、圭くん。また明日ね」


 そう言うとミユウはそそくさと家の中に入っていってしまった。

 圭は不思議そうにその後ろ姿を眺めていた。



最後まで読んで頂き、ありがとうございます!


続きが気になる!という方は是非ブックマークをよろしくお願いします!

☆、評価、感想など今後の励みになりますので、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ