第十ニ話 夢語
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朝、圭がいつもの様にガレージから自転車を出していると「おはよう」と声をかけられた。
顔を上げると、昨日の美少女転校生のミユウが立っている。
「お、おはよう」
「一緒に行かない?」
ミユウは小首をかしげ、にっこり微笑む。計算された行動とは違う自然な動きに、圭は思わず「うん」と返事をすると、自転車を押しながらミユウと歩き出した。
「よかったら、鞄、ここに入れて良いよ」
圭は、自分の鞄が入った自転車の籠を指さした。ミユウは嬉しそうに礼を言うと、鞄を自転車の籠に入れる。手ぶらになって身軽になったせいか、ミユウの歩きは軽やかだ。その様子を見て、圭はなんだか微笑ましく思った。
「瀬川さんは、朝から元気だね」
圭は少し先を歩くミユウの背中に向かって声をかけると、ミユウはくるりと振り向き「圭くんは?」と訊いてきた。
「いい夢見られた?」
「夢?」
圭は何のことだという風に首をかしげた。元気であることと、夢がどういう繋がりなのか分からない。
「そう。夢。寝るときに見る」
「ああ……。今日は覚えてないかな……」
「いい夢を見た朝は、なんだか気持ちが良いなって思わない?しかも、その日の朝が今日みたいに良い天気だったら、尚更」
ミユウの言いたいことが何となく分かり、圭は、なるほど、と思いながら笑った。
「じゃあ、今日はいい夢をみて、目覚めたんだ?」
「まあ、そんなところ」
といって、再び前を向いて歩き出す。
「俺、あんまり夢って見ないんだけど、見ると必ず覚えている夢っていうのが一つだけあるんだ」
圭は自転車を押しながら、青い空をちらりと見上げた。いつの間にか、ミユウが隣を歩いて「どんな夢?」と訊いてきた。
「……うーん、ちょっと、恥ずかしいかな」
「あら、やらしい夢なんだ?」
ミユウがからかうように言うと、圭は慌てて「違うよ」と弁解をする。
「だって、夢には色々な意味があるって言うだろう?その夢が恥ずかしい夢でなくても、意味が恥ずかしい時もあるし」
「そうね。深刻な夢だったのに、意味は『幸運の兆し』とかね」
「瀬川さんは、そういうの詳しそうだよね」
圭が苦笑いしながら言うと、ミユウは腕を組んで「そうね、詳しいわよ」と、どこか誇らしげに言った。
「でも、何で詳しそうなんて思ったの?」
ミユウは不思議そうに圭を見る。圭は返事に困ったようにこめかみを軽く掻くと。
「何ていうか、朝、元気の良い理由を聞いて、その返事が『いい夢見た?』だったら、おおよそ見当は付くよ。それに、占いとかって、女子は好きだろう?」
ミユウは腕を組んだまま「なるほどね」と顎を引いた。
「じゃあ、人が夢を覚えていない理由、知ってる?」
「覚えていない理由?」
「そう」
圭は数秒考えてから、「いや、分からないや」と答えた。
「レム睡眠とノンレム睡眠って、知ってる?」
「ああ、たまにテレビとかで耳にするけど……」
「哺乳類には、レム睡眠とノンレム睡眠があって、夢は主にレム睡眠に多く見られるの。深い眠りにつくノンレム睡眠では、夢を見ないとされているけれど、ノンレム睡眠でも夢は見ているのよ。ただ、レム睡眠に比べると視覚的要素が乏しいの。だから、レム睡眠に見る夢の方が覚えていやすいのよね」
「はあ……」
「じゃあ、なんでレム睡眠の方が覚えていやすいのかと言うと、感情の機能として働いている扁桃体が動いているからなの。そして、レム睡眠は限りなく覚醒時に近い」
「覚醒?」
「目を覚ますか、覚まさないかの間。だから、夢を見ているときに無理矢理起こされると、夢を覚えているケースが多い。でも、その夢を全て覚えているわけではないの。レム睡眠は、明け方に近づくほど時間が長くなる。寝始めは十分程度から始まって、最終的には四十分くらい。その四十分の夢を人は全部覚えてはいられない」
「どうして?」
「そりゃあ、夢を見ている側から『夢処理人』が処理を始めるからよ」
「『夢処理人』?」
圭は困惑顔でミユウを見た。ミユウは生真面目な顔つきで深く頷いた。
「『夢処理人』が現れることで、夢と現実が一緒くたにならなくて済むのよ。だから、人は夢を覚えていない」
「はぁ……」
圭は曖昧な返事をした。初めて会ったときもそうだったが、かなり変わった子なのかもしれないと、圭が思っていると、ミユウは「なんてね」と言い、悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。
「へ?」
圭は歩くのを止め、驚きと困惑が混ざった顔でミユウを見遣る。ミユウは少し前をリズミカルに歩きながら振り向いた。
「そう考えると、夢を覚えていなくても合点がいくじゃない?」
圭はその答えを聞き、小さく噴き出し、最終的には大声で笑った。ハンドルを持つ手が蛇行し、ふらつきながら歩き出す。笑いが落ち着くと、圭はミユウに言う。
「じゃあ、その夢処理人ってのに処理されなかった瀬川さんが見た夢、教えてよ」
ミユウはにっこり微笑み「内緒」と言って前を向いき、軽やかに歩き出した。
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