第十一話 狩猟
【注意】この回では、夢喰い(ハンター)の説明の際、薬物についての記載があります。しかし、否定的な意味合いでの記載です。決して勧める意味のものではありませんが、苦手な方は回避してして下さい。
では、よろしくお願いします。
ー飛行の夢ー
現実の抑圧から解放され、自由になりたいという願望。高く舞い上がり気持ちよく飛んでいる夢は、素晴らしい幸運に恵まれるしるし。低く飛ぶ夢は、精神状態が不安定になっていることを示す。
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「こんな時間からハンターが出るとはな」
シンは茂みに隠れながら言った。
ナイトメア。通称ハンターは人間が見ている夢を喰う。その殆どは空想夢と呼ばれる類だが、それでも夢を喰われた人間へのダメージは図り知れない。よく漠と間違われるが、全くの別の生き物だ。漠は悪夢だけを喰い、人間には益を齎す。今は絶滅危惧種だ。
しかしハンターは別だ。近年増殖し続けており、良い夢も悪い夢も関係なく、人間の精神を壊す喰い方をするのだ。何より達が悪いのは、ハンターの多くはシン達が通っていたアカデミーの落ちこぼれを相棒としている事が多い。彼らは力は大して無いが、夢の出入りの呪文と夢の回収の仕方を知っているため、近年ハンターと組んで、これを生業とする者が増えてきていた。ハンターと手を組む者の多くは、ハンターのお溢れを目当てにしている。夢の残滓を回収し、現実界で売り捌くのだ。夢は様々な形で売られる。白い粉や液体であったり、時には錠剤であったりした。それを現実界の人間が口にすると、幻覚を見る。目を開けながら、他人が見ていた夢を見るのだ。しかし、人の夢はあくまでその夢を見た人物の物。服用した者は、身体が拒否反応を起こし、悪夢を見る。その悪夢を断ち切ろうと、再び服用し、中毒にかかってしまう。多用すれば、死に至ることも多々ある。
また、ハンター達は正式な手続きを踏んで夢の中に入ってくるのではなく、不正の夢のドアから進入するため、夢を見ている主自体を死に追いやったり、眠ったままにさせてしまうことがある。
シンとアサトは、そういったハンター達を取り締まる警備隊だが、いつの時代か、ある女性が男性ばかりの警備隊に「まるで騎士ね。夜の活動が多いだけに」と言ってから、いつの間にか騎士と呼ばれるようになった。組織内の部署名までもが「騎士団」に変わったくらい、今ではその名が定着している。騎士は常に法術師とペアを組んで仕事を行う。法術師が、ハンターと夢を見ている主に気づかれないように、ハンターの周りに陣を組んで追い込んでいく。いわゆる結界を張るのだ。その結界の中心にハンターが来たとき、シン達の出番になる。結界の中では、どんなに暴れても夢の主に気づかれることも、傷を追わせることもない。心地良い夢を見させたまま悪者退治を行うことが出来る。
「今回の対象夢は『飛行』か。まぁ、高く売れる夢の一つだな」
レイは空高く飛んでいる夢の持ち主を見上げて言った。
ここは、とある二十代女性の夢の中だ。
彼女の背中には羽根もなくマントもなく、頭につけるプロペラもなく、箒もなく、ただ両手を真っ直ぐ左右に伸ばし気持ちよさそうに飛んでいる。どうやら、両腕の動きで早さを調節しているらしい。時々、片腕を前に突き出しスピードを上げたりもしている。
しばらくして、アサトがシン達のいる茂みに身を低くしてやって来た。アサトに顔を向けず「ハンターは?」とシンが訊く。
「二時の方向、百メートルほど先に一人。六時の方向、二百メートル先に二人いた」
アサトが小声で答えると、レイは小さく呪文を唱えた。
シン達の目の前に、金色に輝く毛色の中型犬が現れ、綺麗な姿勢で座った。毛並みは短く、上質の絨毯のようだ。
「いつもの手順で頼む」シンが言うと、犬の姿のレイは一度頷き、足音を忍ばせその場を去った。
「やっぱ、レイさんの変化はいいなぁ」
アサトはレイの消えた方角へ目を向け、うっとりとした顔で言った。微笑んだ顔は、もともと童顔の彼を、もっと幼く見せる。
「お前は無類の犬好きだからな」と、シンが苦笑する。
その時だった。
ハンターが三人、茂みから飛び出してきた。
「やっぱ、レイさんの仕事は早いな。犬だけに」
「犬は関係あるのか?」
そう言うと、アサトとシンはほぼ同時にハンターに向かって茂みから飛び出していった。
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