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不確かな秋

作者: 根尾きの子

寝落ちさんのプロットは


舞台…学園

ジャンル…推理

形式…三人称

文章量…2千文字の短編

主人公…大人の男性

展開…シリアス

キーワード…魔王、獣人、甘々


です!

楽しい創作ライフを!


上記は診断メーカー(https://t.co/Fx0rouDsec)を利用させていただきました。

タイトル『不確かな秋』も診断メーカー(https://shindanmaker.com/137543)を使いました。

つまり何も考えてません。



時計は午後十時五〇分を過ぎていた。空き家の多い住宅地の中、ひっそりとした学校に、男は辺りを警戒しながら周囲を見渡し、柵を乗り越え忍び込んだ。鍵の開いた窓から校内に入ると、やっと男は息を吐いた。この学校は男の母校であった。微かな懐かしさも感じたが、それどころじゃないと思い直す。懐中電灯片手にそっと二階へ足を潜めながら、今日この場へ来た理由を思い出し強く奥歯を噛んだ。男の家族は、男が十五歳の時から、五歳下の妹の咲だけであった。咲も、男の事をよく慕っていた。二人家族だけど、とても幸せだった。しかし咲は中学2年生の時、学校の屋上から飛び降りた。それから七年、咲はまだ目を覚さない。咲はいつも明るくて、元気で、真面目で、自殺をするような子ではなかった。男は誰かが意図的に妹を突き落としたのだと強く信じている。



ふと、ピアノの音が聞こえた。シューベルトの『魔王』だった。

男は若干足を速めて音楽室を見つけ、閉まりきっていないドアを、音が漏れないようしっかり閉めた。

「おい、外に聞こえてたぞ。」

女はピアノの上のランタンの薄い光でピアノを弾いていた。顔に男の懐中電灯の灯を当てられた女は男に気付き、ピアノを弾く指を止めた。女は髪を一つに纏め、パーカーと動きやすいパンツ姿で、全身真っ黒だった。一見しただけでは性別すら分からないだろう。

「だってピアノを見つけたから。それに、すぐここにいるって分かったでしょう?」

スマホがあるだろう、と男は呆れた。

「魔王ってさ、長い尾があるって話だけど獣人かなー。それだったら可愛いよね。」

「下らない話をしてないで本題に入るぞ。」

男は一番手前の生徒用机に腰を下ろし、女を睨みつける。

「おい、さっさと咲を突き落とした犯人を教えろ。」

女は肩を竦める。まぁ落ち着いて、と呑気そうだ。

「まぁ、私が突き落としたわけではないけど、犯人って言うなら私かも。」

「どう言う意味だ。」

ガタン、と男が立ち上がり女の胸倉を掴むが、女は意に介さないようにヘラヘラ笑う。

「女の子の胸元を引っ張るなんて、お兄さんのえっち。」

「お前の事情なんて関係ない。お前が咲の死の秘密を教えると俺を呼んだんだ。早く理由を話せ。」

「まぁいっか。……ねぇお兄さん。咲が落ちちゃった時、私が通報して、一緒に病院に行ったって事覚えてる?」

男は一言で答えた。

「だよね。その時も今と同じように胸元掴まれたっけ。」

クスクスと女が笑うので、男は手を離し、腕を組んだ。怪訝な顔を崩す事なく、女の話を待つ。

「私さ、ずっと咲の事大好きなの。なんで今咲が不幸なんだろう。咲が苦しんでるのに、元凶がのうのうと生きてるんだろうって、許せないくらい。」

男の目を、真っ直ぐ見つめた。

「つまりね。私と咲は恋人同士だったの。」

ポカンと表情が崩れた男を、面白そうに笑う。

「付き合ってたのは一年の秋からだから、丁度一年間くらいかな?普段は真面目な咲も私に対しては甘々でね。そんなところも大好きだった。」

女は携帯を出すと、操作し写真を男に見せた。どの写真も必ず咲が映っていて、女との自撮りのツーショットもあった。どの咲も、本当に幸せそうに映っていた。

「お兄さんとしては複雑だと思うけど、付き合ってたってことに関して掘り下げると時間がかかるので我慢してね。」

女はウインクして口元に人差し指を当てた。不快そうに男は携帯を女に突っ返した。

「納得はいかないがひとまず了解した。話を続けろ。」

女は短くため息を吐いた。先程の表情とは一転、眉を顰めながら話し始めた。

「でも、あの日の放課後、突然別れてくれってメールが入って。前の日の放課後から、その日の朝も元気がなかったから心配で、慌てて学校中探して。そしてやっと屋上の扉を開いた途端、自分から落ちる瞬間の、見えなくなりかける咲が…………。」

「咲は痴話喧嘩の末の自殺だって言いたいのか?だから自分が原因だと?」

眉を顰める男に、女は自嘲気味に微笑む。

「いや。続けるね。咲、先生にセクハラに遭っていたっぽくて。」

何?!と思わず口を出し、男は狼狽えた。男にとって、その事は初耳だった。

「私も咲から何度か相談受けてたんだけど、普段は真面目な先生だったから。私も絶対ないない、って否定しちゃって。」

女は自分の髪を撫でつけて、首を摩った。そして、長くため息を吐いた。

「咲のこと、信じてあげられなかった。咲は私に助けを求めていたかもしれないのに。……だから、原因が私ってわけ。」

「俺は、そんな、そんな話一言も聞いていないぞ………。」

「お兄さんは咲に尊敬されてたからね。内容も内容だし。多分相談できなかったんだと思う。」

「どうして、今日になってこの話を……?」

「その先生、やっっっとちゃんと殺せたから。だから仇は打ったよって教えてあげようと思ってさ。」

絶句している男に、悪戯が成功した子供のように屈託なく女は笑った。そのまま椅子から立ち上がり男に近づき、動けない男の頭をわしゃわしゃ撫で回して、最後に真っ直ぐ男の目を見た。

「じゃあね、お兄さん。あとは咲をよろしく。」


女はひらと手を振ると、男に背を向けた。教室の奥にある窓を開けると、あっという間に夜に消えていった。我に返った男が外を覗いても、風で木が揺れているだけで何も視界に入らない。男はピアノの上から女の分のランタンも手に取り、周りに何もない事を確認してからそっと一人ワンルームの自宅に帰った。


次の日、新聞に小さく元教師の名前が載っていた。飛び降り自殺らしい。男は昨日の話を完全に信じたわけではなかったが、教師へのお悔やみの気持ちは一切感じなかった。畳んだ新聞を古紙置き場に放り、いつも通り朝ごはんを食べた。今日は咲のお見舞いに、いつもより少し豪華な花を病室に持っていこう、と思った。


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