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空からもたらされたもの

 愛しの巫女ちゃんとキャッキャウフフできる白竜、対、半強制的に国を出て、遠く曰くの土地まで旅をしなければならない黒竜。

 どう考えても、後者の扱いがひどい。


「王子殿下も好きで黒い方になったわけじゃないのにねえ」


 子供ふたりなら余裕で寝転べそうなベッドに背中を預けたファニーラは、アイテムボックスから取り出した中身を床に積み上げて選り分けながら、つぶやいた。

 白いカーテンの踊る窓からは、穏やかやな風と陽光が室内に踊る。

 今ファーニラがいるここは、王城近くの宿のひとつ。

 ほんとうは今日だった王都出発予定を王子による同行者選抜のおかげで狂わされたので、急遽、部屋を借りたのだ。ただいま、改めて荷物をまとめているところである。

 とはいえ、荷物整理が終わったら翌日にでも出発、とできるわけでもなくなった。

 第五王子の旅立ちには王家として何らかの催しなどはしないそうだが、当人の旅支度にももう少し日数が必要らしい。

 そう。もう、『空の滅び』に向かう王子に同行するのは決定事項だ。仕方ない。

 ファニーラにも学園と契約解除したあとの予定はあった。王都で仕入れた品物や技術や情報を各地に運んだりといった年間ルーティンを再開するつもりだったのだ。それが立ち消えに……は、ならなかった。

 行商ルートの申請をしていた商業ギルドに変更案の提出をしなければいけないし、一人旅がふたり旅になることについての相談もある。

 王子の旅程は急ぐものではないらしい。一年以内に目的地へたどり着けばいいそうだ。そして例の山脈周辺は影響のないあたりまでなら一部観光地と化していて、ある程度街道などの整備もされている。単純な話、その気になれば往復だけなら二ヶ月もあれば余裕である。

 なので、ファニーラの本来の予定に王子が着いてくる形にして、道中もっとも山脈に近いころに寄り道をする余裕をとってくれればいい、との仰せをいただいた。そういうことなら、とファニーラも納得した。

 王子本人も数箇所寄りたい箇所があるそうなので、そこは追々詰めることになるだろう。

 そういうフレキシブルな予定が立てられるくらいには、基本的に今のところ、この国含めて大陸は平和だ。期間中に慮外の危険が起こることはない。はずだ。


 それにそもそも、ファニーラだって『空の滅び』へ向かうつもりだった。


「……」


 腕輪をひと撫でしてみる。

 今はそこに収納しているトライクには、半永久機関の動力源だぜぇとツッコんだ黒竜の竜核が入ったままだ。第五王子に止められたから。

 ファニーラは、それを『空の滅び』の焔へぶちこむ気でいる。


 ――『空の滅び』とは、今ファニーラがいる大陸の中央山脈に囲まれて滾る焔だ。それはこの世界に存在する、あらゆるものを灼き尽くすといわれている。

 そんなものがあるならとっくに世界は滅びていようというものだが、あいにく、今日も世界はこのように在る。ついでに焔の性質も間違ってはいない。


 大陸中央にそんなものが居座る成り立ちについては、広く誰もが知っているところだ。


 世界創生からしばらく経ち、人や妖精、動物たちの生活がととのってきたころ、天空を切り裂いて落ちてきた巨大な火の玉が、その正体。

 空を燃やし大気を焦がし大地を熔解し、世界を灰燼に化さんとしたそれをすんでのところで留めたのが一匹の地竜――創生主がベッドにしてたとか言われている、それは巨大な(ファニーラ前世言うところの)カバっぽい生き物――だったという。地竜はベッドにされてただけあって、完全にこの世界のものというわけではなかったから、そのまま火の玉が大地に食い込む事態を防いだ。

 つづいて周囲に広がろうとした焔は、こちらも巨大な蛇が抑え込んだ。横たわる地竜の周りに壁を作るようにとぐろを巻き、その身を横たえたのだ。

 ただ、あわや世界を壊しかけた火の玉にも利点はあった。

 魔灰の循環だ。

 魔術を使うたびに大気中の魔素は消耗し、魔灰が発生する。

 世界そのものや生物が体内に生み出す魔素はあるから魔術行使に問題はないとしても、魔灰が滞留することは当時も懸念されていた。

 それが、火の玉のおかげで解消されたのだ。

 生じた魔灰は一度地脈に潜り、自発的に火の玉――『空の滅び』が盛る地を目指す。そこで灼かれ、魔素となり、今度はその地の上昇気流によって舞い上がり、再び世界へ降り注ぐようになった。

 そのおかげで一時は大気中の魔素濃度がどえらいことになり、数百年ほど魔術全盛期が続いただとかそんな歴史もある。

 そうこうするうちに気づけば蛇は山脈と化して世界中の魔素も落ち着いたが、火の玉は今もその中で地竜をベッドにして燃え盛っているというわけだ。


 『空の滅び』なんて御大層な名前がどこから来たかは誰も気にしていないが、そんなところへひょいひょい近づく誰かもいない。せいぜい、遠目に空へ登る魔素の輝きを眺める観光名所が繁盛する程度だった。

 ……案外、観光拠点になったあたりの村の誰かがネーミングセンスを発揮したのかもしれないとファニーラは思った。ちゅうに的な。あれ。


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