いきなり現れて俺の妹とか言われても困るんだが
日曜の朝、目が覚めてリビングに行くと朝食のテーブルを囲んで、父さん、母さん、そして見知らぬ女の子が座っていた。
女の子は中三の俺と歳は近い雰囲気で、しかもアイドル系。かなりカワイイ。その女の子が俺の顔を見るなり言った。
「お兄ちゃん、おはよー!」
お兄ちゃん?もしかしたら、親類か何かでこんな女の子が居たっけ?
俺は女の子に尋ねた。
「えと、君は誰だっけ?」
すると新聞を読んでいた父さんが顔を上げた。
「おいおい勇介、何を寝ぼけているんだ。妹の顔を見忘れたのか?」
いや、確かに俺は寝ぼけているようだが、俺は一人っ子のはずだ。今度は母さんが言った。
「勇介ったら朝っぱらからふざけてるんだから。もう早くテーブルに着いてちょうだい」
俺は訳が狩らぬままテーブルに着いた。女の子はクスクスと笑っている。
「お兄ちゃん、忘れちゃ嫌だよ。私はお兄ちゃんの妹の萌美です。よろしくね」
頭が完全にパニクっていたが、俺は深く考えるのはやめることにした。とにかく俺には妹が居るらしい。
「ああ、悪かった・・えと、萌美ちゃん」
「お兄ちゃん、頭大丈夫?いつもみたいに萌美とかお前とか呼んでよ」
「うん、ええとお前、今何年だっけ?」
「いっこ下なんだから、中二に決まってるじゃない。へんなの」
その日、俺は親友の中山とアニメフェスタに出かけ、夕方家に戻った。
俺の部屋に入ると、いつの間にか部屋の半分が女の子の部屋になっていた。
かわいいローチェストや、ちっちゃなドレッサー、ピンク色のベッドもある。
床にはもふもふしたちいさなクッションが転がしてあったので、俺はちょっとそこに寝転がってみた。すごくふかふかして肌触りが良いし、なんだかとてもいい匂いがする。
「お兄ちゃん、帰ってたの?」
いつの間にか萌美が部屋に入って来ていた。
俺は慌てて飛び起きようとした。
「あ、いいよそのままで。萌美も一緒に寝ころぶから」
萌美の髪が俺の頬に触れた。萌美が身体を寄せてきたので体温が感じられて俺はドキドキしてしまった。
妹にドキドキしてどうする俺?
「お兄ちゃん、あのね、話があるの」
「うん?話ってなんだ。言ってみろ」
俺はできるだけ兄らしい口調で応えた。
「お兄ちゃんには萌美が妹だった記憶が無いんでしょ?」
「うん、実はぜんぜんその記憶が無い。俺は一人っ子だったはずだ」
「じゃあビックリさせちゃったね。萌美は異世界から今朝、転生してきたの。お父さん、お母さんには萌美という娘が存在した記憶が植え付けられたみたいだけど、お兄ちゃんはなぜかそれが起きなかったみたい。驚かせてごめんね」
異世界からの転生と聞いても大した驚きは無かった。突然見知らぬ妹が出現したことで、とっくに俺の日常は非日常化していたからだ。
「萌美、お前はどんな世界から、どうして俺の妹に転生したんだ?」
「転生前の世界は戦いの世界。私はひとりぼっちの戦士だったの。戦いに敗れて死んだとき、神様に転生の希望を聞かれて、平和な世界の平和な家庭に生まれたいって頼んだのよ」
俺は萌美の転生前の境遇に同情したが、同時に腹が立っていた。なんでよりによって俺の「妹」になんか転生してきたんだ?
「お兄ちゃん、萌美が妹になって迷惑だった?」
「ああそうだね。転生してきていきなり俺の妹だなんて言われても困る」
「お兄ちゃん、こっち見て」
俺が横を向くと、驚くほど近くに萌美の顔があった。
萌美はいい匂いがして、大きな瞳はあまりにキレイで、俺は胸がバクバクしてきた。
「私の今回の転生はお試しなの。困らせてごめんなさい。今から転生やり直すから、お兄ちゃんが次に目を覚ましたら元通りになってるよ。短い間だったけどお兄ちゃんに会えてうれしかった。ありがとう」
・・・いや、待って。そういう意味じゃないんだ。。
翌朝目を覚まして、リビングに行くと朝食のテーブルには父さんと母さんが座っていた。
たった一日の、俺に萌美という妹が居た事実は、俺ひとりの記憶にしか存在しなかった。
俺は何とも言えないもやもやした気持ちを抱えて学校に向かった。
「おーい、勇介!」
中山の声だ。俺が後ろを振り返ると、中山の背後からひとりの女の子が飛び出して来た。
「セ・ン・パ・イ、おはよーございますっ!」
え?まさか・・・?
「あ、萌美?」
それを聞いた中山がむっとした声で言った。
「おい、勇介。なに俺の妹をなれなれしく呼び捨てしてんだよ」
・・・妹?中山の?
萌美は上目づかいで俺の顔を見ながら「えへへ」といたずらっぽく笑った。
・・・ふう、まったく。
よりによって今度は俺の親友の妹に転生するとは。萌美はどこまでも困った奴だ。