メス柿を、わからせて
『さるかに合戦』
あたし、柿の種。
小さな、柿の種。
柿の中から、お猿さんに、こんにちわー。
はじめまして、よろしくね、お猿さん。
これから、ちゃんとを土に埋めて、あたしが大きくなるまで、待っててよね。
お・ね・が・い。
こらー、サルー!
なんで、蟹のオニギリなんかと、交換してんのよ、あたしは、そんなに、やすくないぞー!
ああー、サルー!
あたしを置いてくなー、ちゃんと土に植えてけー!
もー、置いてかないでよー!
あ? 蟹さん?、あなたが土に植えてくれるの。
案外いいとこ、あんじゃなーい。
じゃあ、あたし土に埋まって、種から根を出すからね、それまで蟹さん。
お・や・す・み。
あたし、柿の木の芽。
土の中の、柿の木の芽。
って、チョッキン、チョッキン、うるさいな。
あたしが土ん中で、根を張ったり忙しくしてるうちに、上で何やってるのー?
オモシロいことやってるなら、あたしも呼びなさいよー、もー。
じゃあ、そろそろ、土から芽、出しちゃおっかなー♪
そーれ♪
お・は・よ・う。
って、
キャー!
蟹さん、ハサミふりまさないで、
チョッキン、チョッキン、威嚇しないで。
泡かけんなコンニャロー。
大きくなったら、渋柿のタンニンぶかっけんぞ。
ゴメンナサイ、若芽切らないで、それ切られると、あたし光合成できないの。
ギャー、だから、ハサミもってコッチくんなー。
ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、いう事きくから、切らないで!
おねがいよー!
あたし、柿の木。
実がつきそうな、柿の木。
もう、何か考えてんだか、あの蟹さんは。
ハサミで脅したり、世話したり、わけわかんなーい♪
けど、実がなるまで大きくなるなれたの、蟹さんのおかげ、…かもしれないのかな、ははは。
ありがと。
って、なに、あたし幹を登ろうとしてんのよ。
もう、蟹さんのハサミなんか、こわくなんだからー、へへん。
蟹さんなんか、あたしに登らせてなんか、あーげない。
あたし、柿の木。
実もついた、柿の木。
あーっ! お猿さん!
ひっさしぶりー♪
なーに、あたしに実がついたからって食べにきたの?
もう、よくばりさんなんだから♪
でーも、あたし幹を登れるかどうかからね。
おお、さっすが、お猿さん、木っ登りっ上手ー♪
わっ、すっごい食べっぷり、あたしの実、全部食べられちゃうー♪ って
ははは、美味しいでしょ、さすがあたしの実ね。
蟹さんは、相変わらず、せっかちさんね。
木に登れなくても、待ってれば、熟した実が落ちるんだから、ちょっとぐらい待ちなさいよー。
でも、この青柿は、風で落ちそうかな?
あっ。
あたし、柿の木。
花が咲いてる、柿の木。
さーって、頑張って実んなきゃーね、お猿さん達が食べに来るんだし。
モテる柿の木は、つらいねー♪
うん、あれ? なんだろ?
お猿さんが帰ったほうに、みんなが向かってる?
蜂さんが飛んでて、ワシャワシャと子蟹ちゃん達が横歩きしてる。
あと、どう歩いてるかわかんない、栗さん、臼さん、牛の糞さん?
なんか、合戦でも始まんの?
いいなー、あたしも行きたいなー。
それで、お猿さんも一緒に出陣?
それなに、合戦?
お猿さんも行くなら、鬼合戦!?
ああっ!
あたしも合戦したい!
こらーっ、あたしを置いてくなー!
甘柿は滋養になるんだぞ!
渋柿は漢方になるんだそ!
だーかーらー、あたしもつれてけー!
って…、
あたし、根付いてるから無理か…。
チクショウ…。
あたし、柿の木。
美味しい実の、柿の木。
ふっふっふ。
いま、あたしが付けてる実は、
去年より、もっと美味いぞー♪
ふふっ。
合戦から帰ったお猿さん達に、食べてもらうんだーっと♪
この柿に味を知ったなら…。
つぎの合戦には、あたしを連れて行くほか、あるまーい♪
ふっ。
早くこい、お猿さん。
実が熟して、落ちちゃったら、勿体無いでしょ。
子蟹ちゃん達が食べてくれるけど…。
蟹さんには悪いことしちゃったしねー。
けど、あたしの実は、やすくないそー!
っ。
…。
こらー、サルー、はやくこい、サルー。
あたしの実は、甘いぞー。
(おしまい)




