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小説投稿サイト大事典【2019年版】  作者: とあるWeb小説投稿サイト研究者
3章 レンタルスペース型
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コラム3 i-mode × ケータイ小説  × 投稿サイト みたいな

全ての始まりは1999年。


この年にNTT DOCOMOが『i-mode』を開始、そして、株式会社ティー・オー・エスが無料ホームページ作成サービス『魔法のiらんど』を開始しました。



i-modeは、フィーチャーフォン (ガラケー)でキャリアメール(iモードメール)の送受信やウェブページ閲覧などができる世界初の携帯電話IP接続サービスのことです。


このサービスは当初から爆発的に人気が出て、通信量も予想を超えてiモードセンターがダウンするほどでした。


どれほど人気であったかは、2006年時点で世界最大のワイヤレスインターネットプロバイダとしてギネス・ワールド・レコーズから認定を受けたほどです。


恐らくi-modeというサービスがなければケータイ小説は生まれなかったのではないかと思われます。


今回はケータイ小説について書いていきます。





ケータイ小説の元祖はYoshiという人。


1999年に勤めていた会社を辞め、『誰もやったことのない新しいことをしてみたい』という想いからi-modeにてコミュニティサイトを立ち上げビジネスを始めます。


コミュニティサイト開設初日にいきなり10万人を超えるアクセスを達成しました。ただ、アクセスが多すぎてサーバーがダウンしたり、契約していたサーバー会社から追い出されるといったトラブルもあったようです。


その後、新しくコミュニティサイトを作り直し、広告収入を得ることに成功します。


今でこそ広告収入は当たり前ですがこの当時は大変珍しいもので、色々な会社をめぐりましたがほとんどの会社に門前払いされたようです。



サイト運営していく中で次の課題が出てきます。それは継続利用者が少ないことです。


そこでYoshi氏は継続してみてもらえるコンテンツを作ることになります。そのコンテンツこそが一大ブームを引き起こしたケータイ小説の元祖ともいわれる『Deep Love』なのです。




Yoshi氏は2000年に『Deep Love』の連載を開始します。



この連載を始めるにあたってYoshi氏が一番気を付けていたことは、『読んでもらえること』。そのために、過激な援交シーンから小説を始め、漢字を極力使わないようにカタカナしたり、難しい言葉は文章で説明したり、携帯の画面で読むための工夫をしたりします。


例えばガラケー画面表示の文字数が横8文字だったので漢字が上下に分かれないようにとか、登場人物は5人くらいまでとか、主人公の言葉には、二重カッコにするとか。


これがのちのケータイ小説を象徴する読みやすさの工夫となります。



ここでYoshi氏がターゲットにしていたのは普段小説を読まない人。だからこその工夫を行っただけなのです。


「大事なことは、小説だと感じさせないことです」


Yoshi氏はこう言っています。



またYoshi氏がすごいのは、アクセスログを取り、感想を募集し、読者の反応を見て、何を望んでいるのか調べたことです。そしてその反応に基づいて、アップした小説をどんどん書き換えて、アクセスが増えるように修正していくのでした。



今でこそWeb小説ではアクセス解析は当たり前の手法となっていますが、この時代から反応をすぐに反映させるという行為をしていた人はあまりいなかったのではないのでしょうか。特に小説業界においては皆無に近かったのではと思います。



そういった努力をしていくうちにどんどん人気が出てきます。そして読者の中にDeepLoveの書籍化を望む声が多くなります。


なのでYoshi氏は出版社を回りますがどこからも見向きもされません。そのため自費出版という形でまず販売することとなります。


サイト内で自費出版したDeepLoveは10万部を売り上げることとなりました。




そこでようやく出版社が動き始めます。


2002年にDeepLoeを出版したのは現在野いちごやベリーズカフェを運営しているスターツ出版。


そこから出版されたDeepLoveは漫画版を含めシリーズ累計で840万部を叩き出す大ヒットを生み出します。


ケータイ小説ブームの幕開けとなります。ここから多くのケータイ小説がうまれていくのです。




00年代半ば、そのころには魔法のiらんどを筆頭にフォレストページ、エムペなどに多くのケータイ小説が投稿されていました。


その中から次世代のケータイ小説が発掘されることとなります。




ある日、DeepLoveを出版したスターツ出版に1本の電話がかかってきます。その電話をかけてきた女性は泣きながら「感動する作品だから書籍化して欲しい」と訴えます。


それが、きっかけとなって魔法のiらんどで掲載されていた『天使のくれたもの』が出版されることとなります。




天使がくれたものは2005年に発売し、わずか3か月で10万部を突破。1年後には40万部を突破するという大ヒット作品となります。


全くの無名の新人が40万部を売り上げることなり。そこから多くの作品が投稿サイトから出版されることとなります。




『切ナイ恋物語』のちに『恋空』と呼ばれる作品が魔法のiらんどに投稿されたのは2005年のことです。投稿されるや否や、魔法のiらんど内のランキングの1位の座に輝きます。そしてランキングで160日連続で首位を獲得するなどの人気ぶりを誇ります。


そんな恋空が書籍化されるまで時間はかかりません。10社近くからの出版オファーがきた結果、『Deep Love』、『天使がくれたもの』と同じスターツ出版から発売されることとなります。



2006年に発売された恋空は瞬く間に売れ、最終的に200万部を突破し、漫画化、ドラマ化、映画化までされることとなります。




そして2006年からは日本ケータイ小説大賞が開かれはじめます。ケータイ小説の大ヒットから設立され、第1回の実行委員会は『毎日新聞社』、『スターツ出版』、『魔法のiらんど』の3社で構成し発足しました。


このころからケータイ小説に目を付けた企業が多く参入してくることとなります。そして多くのケータイ小説投稿サイトが誕生していくのです。



フォレストノベル(フォレストページと同運営) 2005年

モバゲー(エブリスタの前身) 2006年

野いちご 2007年

おりおん☆ 2007年

ポケクリ 2008年



これまで出版のみだったスターツ出版やゴマブックスが新しく小説投稿サイトを作ったのはなかなかの衝撃で、ケータイ小説作家の引き抜きなど裏側で色々とあったようですね。


またこれら以外にも多くのサイトができ、多くの作品が書籍化されていきました。2007年の文芸ランキングではトップ3を『ケータイ小説』が独占するという状況でもありました。


それに拍車をかけたかのように、ケータイ小説の書籍化、漫画化、映像化が相次ぐのです。


2008年の魔法のiランドは月間35億PVという数値を叩き出しました。それほど皆が熱狂していたのです。



しかしながらそのブームも長くは続きませんでした。


以前のコラムでも書きましたが、このころには技術も進歩し、新たな娯楽が供給されていくこととなります。徐々に衰退していくのでした。




ケータイ小説ブームの衰退原因のうち1つは供給過剰。

大量に供給されるケータイ小説に消費する側がついていけなくなります。要するに飽きが来たのです。


2つめは娯楽の多様化。

スマートフォン、YouTubeやニコニコ動画、mixi、Twitterなど多くのサービスが誕生し、普及。多くのサービスの誕生により、娯楽が分散していきました。


3つ目はリーマンショックによる金融危機。

本が全体的に売れなくなったのです。


4つ目として、ケータイ小説の先鋭化があげられます。


初期のケータイ小説は主に実話を元にしたとされる作品が多かったのですが、世代を重ねるにつれ、ケータイ小説を参考にしたケータイ小説が多くなっていきます。


小説家になろうにおけるテンプレみたいなものでしょうか。ケータイ小説を下敷きにしたケータイ小説は、ある程度の前提知識がないと楽しめないものとなります。ケータイ小説を煮詰めていった結果、万人受けすることのないものが出来上がったともいえます。


投稿サイトでは人気になりますが、それを書籍化しても一部のユーザーしか買わない作品が増えてくるのです。



それらが絡み合い、ケータイ小説市場は徐々に縮小していくこととなります。



2011年に魔法のiらんどは株式会社アスキー・メディアワークス(現KADOKAWA)に吸収合併。そして魔法のiらんどは徐々に機能を廃止していきます。魔法のiらんどの象徴でもあった、『魔法のiらんど文庫』は新刊の発売を2018年で打ち止めとなりました。



他の小説投稿サイトも似たようなもので、『おりおん☆』運営のゴマブックスは2009年に倒産し、民事再生法適用を東京地裁に申請しました。フォレストノベルも2014年に閉鎖。モバゲーも2016年に小説サービスを停止。多くのケータイ小説投稿サイトが閉鎖や放置となりました。



ケータイ小説から脱却して成功したのはエブリスタやスターツ出版でしょうか。


これらが他の小説投稿サイトと異なった点は、ターゲットを変えたことが挙げられます。


これまで横書きで出版していたものを縦書きに変え、キャラ文芸と呼ばれるジャンルを作りそちらへシフトしていくこととなります。


またスターツ出版は対象年齢が10代の野いちごユーザーがサイトから卒業することを見越して、年齢層をあげたベリーズカフェを2012年に作ります。


そしてスターツ出版はケータイ小説の象徴だったフィーチャーフォン向けのサービスも2018年に終了させる決断をしています。


時代の流れに逆らい現状維持を続けたサイトは力を失い、時代とともに変わっていったサイトは生き残ることとなりました。





なお、すべての始まりとなったi-modeは新規受付を2019年9月30日で終了、2026年3月31日にサービスを終了する予定となっています。



それにより魔法のiらんども過去のものになっていくのでしょうか。




いえ、魔法のiらんども変わろうとしています。



魔法のiらんどは2020年春にリニューアルを予定しています。それによりガラケー時代のホームページサービスや、フィーチャーフォン向けサービスの提供を終了します。より小説に特化させたサービスへと変わっていくようです。



また近年の魔法のiらんどはスターツ出版のようにキャラ文芸の方向に進みつつあります。



今後、魔法のiらんどがどうなるかはわかりませんが、これをきっかけにまた新しい文化が生まれていくのかも知れません。


少なくとも、ケータイ小説が作り上げたや、独特の世界観は受け継がれていくのだろうと思います。



時代の流れには逆らうことはできないのですし、時代に合わせて投稿サイトも変化していくのが大事なのかもしれませんね。


参考:


『ケータイ小説誕生物語』Yoshi Official Blog

https://ameblo.jp/yoshi-official/theme-10065291634.html


『ケータイ小説は、何故死んでしまったのか?』魔法のiらんど

https://s.maho.jp/book/92d185ic1a36b5a2/6960564035/


『魔法のiらんどは緩やかに衰退している』ミグストラノート

https://www.migusu.com/entry/2019/04/12/004615


『魔法のiらんどリニューアルオープン』魔法のiらんど

https://maho.jp/renewal/

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