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あなたに祝福を!

作者: yamaト

好きだった人の結婚式に出席するほど、未練たらしくかつ、惨めな物は無いだろう。

判ってる。

自分でも馬鹿馬鹿しく思ってる。

式の最中、新郎新婦でもないのに、だーだーと泣き続ける私は、新婦の最良の友を演出する一部だろうが、私は、その新婦になりたかった。

なれなかった。

だからの悔し泣きだ。


ほぼ同時に好きになり、私は言わず、彼女は勇気を持って彼に告げた。

臆病者は惨めにも、ずっとただ思い続けただけで、勇気ある友達はどんどん前に進んでいって、おいて行かれてしまったのだ。


あぁ、こんなに好きだったのかと、二人を見ながら止まらぬ涙に明け暮れる。

席の半分、向こう側は新郎の友人達が座っている。

式が始まってから、ずーっとグスグスと泣き続ける私は迷惑だっただろう。


迷惑だったと言ってくれたら、とんでもなく楽になれるというのに。

二次会が終わり三次会には行かず、帰宅した私のスマートフォンに友人達からのLINEが飛び込んでくる。

その中の一通。

「席の向かい側にいた男の子にアドレス教えていい?」という一文に私はどうにでもしてくれといあ投げ遣りな気持ちを持って、イーヨーと軽く返した。

結構飲んだし、泣きすぎて頭も鼻も痛いし、何か疲れたわとシャワーも浴びずに布団に潜った。

スマートフォンが光り続けていたが気にもとめずに。


真夜中目が覚めて、何気なくスマートフォンを弄れば、そこには名も知らぬ物が友達になりたそうに点滅している。

面倒くささと、想い出したように、ぽちぽち登録ボタンを流れ作業のように押していく。


この人達、何考えて友達になんかなりたがってんだよという怒りに似た作業を終えて、からからの喉を麦茶で潤す。


ぷはっと詰まった息を吐き出して、手元のスマートフォンを弄くっていると時間はずれなメッセージが舞い踊った。

「新婦のお友達の中で君だけ凄く泣いてたから、目許良く冷やしてね」

言われてそっと触れるとヒリヒリとしたが、反抗的にもそのままにしてベッドに潜り込んだ。

まだ朝まで数時間ある。

新婦が結婚できて感動した!良かったね!という涙では無かった事と、自分の浅はかな思いがチリチリと痛むが、これは泣いたから痛いのだと思うようにして、目を閉じた。


新婦を見て良く笑っていたな。

幸せそうだったな。

仲良さそうだったな。

あぁいう風に私がなりたかったな。


思いに枕を濡らしながら眠りについた。


幾度となく過ぎていく日常に、ぱっと彼が光を刺す。


目許冷やしてねから、数ヶ月、あぁ、執着を手放してみたらこんなにも素敵な人がいたんだ。

しかも知らず知らず同じ会社だったのには流石に驚いた。

エレベーター待ちをしていると、後ろから、おはようございます。と良く通る澄んだ声が降りかかり、定例文となった挨拶を顔を見ずに返すと、同じ会社だったんですねという訳の解らない辞が続いていくでは無いか、ん?と思いながら首をかしげていると、目許冷やしましたか?という言葉が続き、弾かれたように顔を上げるとニコニコとした男性がそこに居た。

「まだ腫れてますね」

そんな言葉が続き、え?え?と言っている間に男性は私より下の階で降りていった。

降りた部署を確認して、はーと息を吐き出した。

法務部かと殿上人じゃないか。

自分とは関わりが殆ど無い。

非常に残念な話だと残念がって見せたのは、同期である新婦の友人に面白おかしく話して、自分の創を癒していたからだ。

目の前で笑う彼女は名前以外、何も変わらない。

そんな子に嫉妬しているのが、何故か判らないが馬鹿馬鹿しくなったのだ。


そんな話をしていたのは何時だったか。

目の前に、その人が居るこの状況は、何だろう。

新婦一家に呼ばれていった家飲みに行けば、彼と新郎新婦が餃子をせっせと作っていた。

何してるの?と尋ねれば、独り暮らしの男子的に食べたい物を強請ったらこうなりました!と朗らかに笑いながら白い粉の着いた手を上げ彼が応え、手を洗って僕を手伝って下さいと強請られ黙々と作り続けた。

時折幾つか聞かれて答えていくという会話形式に新郎新婦がやきもきしたような顔を向けるなか、気にも止めない様子の彼が最後の1つを包んでI done!と叫んだ。

あ、この人可愛いなとふと思うと、ただただ、彼は笑ってこちらを見ていた。


作った料理の味もお酒の味もわからない程緊張した。

目の前の二人を見てももう、痛まない。

時の流れの偉大さに感嘆しながら、もう遅いから帰るねと時計を見ながら立ち上がりコートを掴んだ。

「あ、送っていきます、飲んでないので車で良ければ」

確かに、彼は家飲みだと呼ばれたはずなのに、お酒に手を出しては居なかった。

ただただウーロン茶やコーラなんかを適当に飲み込んでいただけだった。

「………車で送るほど遠くないです」

徒歩数分。

そんな遠くない距離故に断りさっさと歩き出す。


同じ町の中になったのはたまたまだった。

新郎新婦が後から引っ越してきて、家飲みできる距離だね何て言っていた。

してみて判った。

本当にあれはただの執着に過ぎなかったのだ。

本当に手から離れてしまえば、痛みも何も感じないから驚くほど。


歩き出した足並みのように、軽やかに、もう感じないのだ。

すたすた歩く私の後ろからようやく追い着いたと言わんばかりの彼の声が降りかかり、ビックリして目を見開いて振り返ると肩で息をしながら、ま、待って…という声を続ける。


学生振りに走って心臓痛いとか、色々いっていて、この人、何考えてるんだろと思いながら、お酒の力もあって、笑いながら大丈夫ですか?

良ければウチで休んでいきますか?と続けると、やや驚いた顔をして額に汗が浮かんだ顔を向けられた。


結果だけ言おう。


お酒の力は偉大だと。

ケラケラ笑いながらもつれながら、人の温かさを思い出した。


くーくー眠る男の人の整った顔にそっと手を伸ばして、あぁ、現実なのかと思い知る。

俄な懐かしいような痛みも生々しいが心地よい。


彼氏でもない人と一線越えて、何やってんだろと足を抱え込む。


でも、幸せな痛みだ。

ごそごそと動く気配に薄く目が開かれ、手が足の先に触れた。

まだ朝早いよ。

掠れた声。


扇情的な。


途端、ぼろぼろと零れた滴に薄く開いていた目が驚きと共に大きく見開かれて、慌てて私に色々と尋ねてくるが、それのどれも的外れで、私は、込み上げてきた物を音として現した。


お腹の奥の方からケラケラと笑いながら、先程までの甘い気怠い空気を壊していく。


あぁ、この人のことが愛おしい。

愛おしい、愛おしい、愛おしい。


困惑した顔に、違うの、違うのと言い訳をを繰り返す。

幸せなのだ。


あんなに泣いたのに。

あぁ、今となっては何てことも無くて。

ただ、目の前の慌てふためく男が愛おしい。


驚いて、触れて良いのかどうか止まったままの手をかいくぐって、首に抱き着く。

伝わるだろうか。


あなたが愛おしいと。


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