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ま、いいよね!

 突然だが、本日俺はめちゃめちゃ早く教室に来てしまった。


 なぜか? とかそんなの考えるまでもない。

 本日はレティシアちゃんが来るからです!!


 あー、なんとか部屋に呼んでエダにお世話されてるとこ見たいー。

 紅茶を淹れるレクチャーを受けてもらえば……いや、エダお茶に関しては結構スパルタなところあるしなぁ。

 なんとかエダにレティシアのお世話を……


 いや、レティシアは俺だったな。

 レティシアの姿をしたマリオンちゃんなのである。

 そこんところ間違えたら失礼だもんな。


 レティシアの姿をしても、マリオンちゃんはマリオンちゃん。

 人間、大事なのは姿より中身なのである。


 中身がよければ外見なんて、包装紙である。

 あ、でも、不潔なヤローは別。

 直人の時の俺も人のことは言えないもやしだが、最低限清潔にはしていたしな。


 いいですか?

 百合のモブになりたいのなら、清潔第一。

 臭い野郎のそばで百合が展開するわけねーのでございます。


 あ、でも見た目に頓着しないストイックな子はいいよね……


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 私はバイト先であるマンションの一室のチャイムを押す。

 当たり前のように反応がない。

 思い切り連打をするが、やはり反応がない。


 チャイムの電池が切れたか、もしくはチャイムが聞こえないぐらいに没頭しているのか。

 スマホで呼び出してみるが、はい、これも当然のごとく電源が落ちている。


 もう、帰ろうかなー。

 ダメもとでドアノブを回すと……開いてる。


 物騒だな!


「ハカセ!! 一人暮らしなんだから、せめてカギかけてくださ――ハカセ!?」


 よくわからないもので足の踏み場もない部屋の中に、白衣のハカセが倒れていた。


「大丈夫ですか!? ああぁー、救急車って何番!?」

「あー?」


 ハカセがゆっくりと起き上がった。


「生きてたー!」

「寝落ちしただけだから……おー、助手。助手が来てるってことは、もう一週間たったのか」


 大きなあくびをしながら、長い黒髪に指を差し込んで頭皮をボリボリと掻く。

 真っすぐな黒髪は油っぽく重くなっているし、ちょっとずれた眼鏡には指紋がついている。


「また研究に没頭して生活を忘れてましたね!! 作ったの全部食べました?」


「あ、それは食べた。イチジクのコンポートが絶品でした。また作って」

「そうですね、イチジクの季節が終わる前にもう一度……って、お風呂に入ったのは何回ですか!?」

「ほどほどに入ったよ」

「何回ですか?」

「一回」

「お風呂に入るまではご飯作りませんから!!」

「えー」


 私はお風呂にハカセを放り込む。


 この自称ハカセは研究に没頭するあまり生活をするのを忘れてしまう。

 文字通り食うや食わず、不眠不休で研究に打ち込むので、私、アルバイト助手が、学校が休みの週末にこうしてハカセの面倒を見て、料理の作り置きをするのだ。


 シンクに山積みの洗い物から倒していくが、風呂場が妙に静かだ。

 これは……


「ハカセ!!」

「……はっ」


 湯船につかっていたハカセがびくんと頭を上げる。


「やっぱり寝てた!! 危ないからダメだって言ってるのに!!」

「いや、気持ちよくって」

「もー!!」

「来たついでに髪洗ってー」

「仕方ないですね。いいですけど、ハカセに任せたらいい加減にしか洗わないですし」

「うへへへ」


 ユニットバスに浸かったままのハカセの髪をシャワーで流し、シャンプーを使うが全く泡立たない。

 一度流してから、ようやくまともに泡が立つ。


「本当はお風呂入ってないでしょ?」

「シャワーはしたよ?」

「髪は洗ってないでしょ?」

「………」


 図星か。


「あー、気持ちがいいー」

「ごまかしてますね」


 怒ったふりをして、私はハカセの髪を洗う。

 丁寧に頭皮をマッサージするように洗い上げ、トリートメントを施せば油っぽく固まっていた髪は流れる水のように柔らかくなる。


「極楽~」

「はいはい」


 髪を軽くまとめると、むき出しになった長い首をソープを泡立てたスポンジで洗う。

 外に出ないせいか、ハカセの肌は驚くほど白い。


「いやぁ、助手がいてくれるおかげでなんとか人間の形を取っていられるよ」

「次来た時、溶けてるなんてことにならないでくださいね」

「いやー、一週間で腐乱はしないよ」

「部屋は腐敗してますけどね」

「うまい!」

「うまくないです」


 きついことを言いながら、口元は緩んでしまう。

 いいよね、今はハカセから私の顔は見えないし。


 正直、私はこうしてハカセの世話を焼くのが好きだし、ハカセが普段汚い格好をしているのも歓迎している。

 だって、ハカセはこんなにもきれいだ。

 いつもきれいにしていたら、外見にしか興味がない虫たちが寄ってくるだろう。


 ハカセがきれいにしているのは、私の前だけでいい。

 料理でも掃除でもいくらでも世話を焼いてあげる。


 だから、ハカセ。

 もっと私に頼って。

 もっともっと私に頼って。


 私なしでは、いられないぐらいに。


 ハカセのことを一番大好きな私が、ずっとずーっと甘やかしてあげるから。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 うーむ。

 ハカセを自分に依存させているつもりが、実はハカセに依存しているところがミソです。

 いいよね、静かなヤンデレ。

 そんでハカセも実は助手が自分に依存させたがってるのを知ってて、わざとダメ人間を演じているとなおヨシ!


 この場合二人ともヤンデレの気質があるのだが、病む暇ないのでただのデレデレになるというね!!

 いいぞもっとやれ!!


 などと忙しく妄想をしているうちに、教室に人が増えてきた。


「おはようございます、レティシア様」

「おはよう。いい朝ね」

「ええ、ほんとうに」


 ううーん。

 クラスメイト全員に挨拶をできるってのは、一番乗りの特権ですな!


「お義姉さま! おはようございます!!」

「おはよう。グローリアさん」


 突進してくるのはいいけど、自分の机に鞄ぐらい置こうよ。

 今、自分の机の隣、通り過ぎたじゃん。


「はよっございまっす」

「おはよ~ございま~す」

「イルマさんとラウラさんもおはよう」


「おはようございます。お姉さま」

「エリヴィラさん、おはよう」


 お、なんだなんだ?

 みんな連れ立ってきたの?

 いいねいいねぇ。

 俺も一緒に集団登校してぇー。

 三メートルぐらい後ろからキャッキャしてるの眺めてぇー。


「マリオンさんはどうでしたか?」

「ちょっと、それはあたしが聞こうと思ってたの!!」

「誰が聞いても一緒でしょ?」


 グローリアちゃんもエリヴィラちゃんも喧嘩しなーい。

 二人ともそんなにマリオンちゃんが心配なのか。

 なんていい子たちだろうか!!


「大丈夫よ。ちょっと知恵熱? みたいなものだったわ。今日は来るはずよ」

「よかったぁ。そうですよね、お義姉さまがお見舞いに来てくれたら、病気なんか吹き飛びますもの!!」

「確かにお姉さまほどの薬はないでしょうね」


 いや、なにそれ。

 病気になったらちゃんと医者で薬もらわないとだめだぞ?


「薬になれたかはわからないけれど……ふふ。マリオンちゃんを見たらきっとびっくりするわよ」

「びっくり、ですか?」

「もう私じゃないんですか? どんな姿に?」

「ふふふ。さぁねぇ」


 ほんと、どんな姿になるのかなー?

 やっぱしカラバリかな?

 金髪レティシアもいいよな。

 とはいえ、黒髪や茶髪も捨てがたい。

 いっそ、もっと白くして、白髪赤目とか……ああー、中二な心が刺激される!!


 あー、俺も楽しみー。

 早く来ないかなー。


 ざわっ、と教室がどよめいた。


 お? マリオンちゃんかな!?


「あら」


 マリオンちゃんは、ピンクだった。

 髪は、スライム時のピンク、材質もスライムだ!!


 スライムであるアイディンティティを捨てずに擬態してきた!!

 いいよ、いいよ!!

 そして、瞳は髪に合わせたストロベリーレッド。

 人間には出せない色で、ドールアイのようにキラッキラ。


 そして何より……ミニサイズ!!

 ちびレティシア

 ちびレティシアですよ、奥さん!!


「あらあらあらあら」


 あらあらが止まらないぞ、あらあら!!


「おはようございます。あの、どうですか?」


 いや、もう、どうもこうもない。


「かわいいっ」


 年齢的には、12歳ぐらい?

 この学園に通うのは早すぎますよーって感じの年齢設定。

 幼すぎるようであり、もう大人と背伸びをするようであり……うーん、絶妙!!


「かわいいわー。かわいいわー。私もこんなにかわいい時代があったのかしら?」

「たっ、確かにかわいいけど、きっとお姉さまの方が可愛かったと思います」

「そりゃあ、当然よ! だってお義姉さまなのよ」

「はい。はい。きっとそうです!!」


 マリオンちゃんまで力強く頷く。


「お姉ちゃんのほうが、マリオンなんかよりぜったいにかわいかったにきまってます」

「あら」


 お姉ちゃん?


「はあぁぁぁぁぁ!? お姉ちゃんですって!? お義姉さまにむかってなんて口のきき方なのっ!」

「あら、いいと思うんだけど?」

「いけません、お姉さま。こういうことはけじめが大切なんです!」


 け、けじめ?


「お姉ちゃんって呼んだらダメ? グローリアお姉ちゃんとエリヴィラお姉ちゃんがダメって言うなら……」


 グローリアちゃんとエリヴィラちゃんが石化する。


「………」

「………」

「グローリア……お姉ちゃん?」

「エリヴィラお姉ちゃん?」


 あ、復活した。


「うん。だって二人ともお姉ちゃんのことおねえさまって呼んでるでしょ? と言うことは、お姉ちゃんの妹。お姉ちゃんの妹ならマリオンのお姉ちゃん!」


「ぐっ」

「かはっ」


 はい、クリティカルヒット入りました!!

 無理もない、無理もない!!


 こんなかわいい子に、上目遣いにもじもじしながらお姉ちゃんなんて呼ばれてみろ。

 即死しないだけましだぞ!!


「ふぐっ……む。そ、そういうことなら、仕方ないわね。だ、だけど妹だったらもうマリオンさん。は、なしよ! あなたなんかマリオンちゃんよ! マリオンちゃんなんだから!!」

「そ、そうね。妹だというなら、マリオンちゃんがふさわしいわ!!」

「はい! そう呼んでもらえてうれしいです! ありがとう、グローリアお姉ちゃん、エリヴィラお姉ちゃん!!」


「はぐっ」

「かはっ」


 メディーック!!

 今度こそ傷が深いですよー!!


「あー、もう手玉に取られまくりじゃないっすか」

「ちょろいよね~」


 イルマちゃんとラウラちゃんがさりげなく距離を取っている。

 うむ、被弾しないためには必要な処置だ。


 だが、俺はお姉ちゃん呼びにメロメロになって強がっている二人を見るためにあえてここにいる!!


 かぁー、溺愛される妹、いい!!

 文句を言いつつ、面倒を見るお姉ちゃん。

 妹はちょっとしたたかにお姉ちゃんを振り回していると思いきや、実はお姉ちゃん大好きっ娘!

 かぁー。

 いいねぇ。


「お姉ちゃん、二人ともどうしちゃいました!?」

「うふふ。気にしなくていいわよ」


 まぁ、二人して机に突っ伏してぴくぴくしてるのはどう見ても大丈夫じゃないけど、大丈夫だから。

 うん、ファーストインパクトが一番大きいものだから、きっと徐々に慣れてくると思う。

 ……多分………

 その前に死ななきゃいいな。


「マリオンちゃん、改めてその姿でもよろしくね」

「こちらこそです! 末永くよろしくお願いします!!」

「ん?」


 それは何か違うような気がするけど。


「お姉ちゃん、どうかしました?」

「ううん、何でもないわ」


 かわいいから、ま、いいよね!!




マリオンちゃん編、ひとまず終わりました!

次は、マリオンちゃんサイドをやっていきます。

みなさんの予想通りな感じになれたかと!

感想の返信もし始めます。

ありがとうございます!

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