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お見舞いに行こう

 マリオンちゃんが欠席して三日目。


 担任であるリゼットちゃんには連絡が入っているみたいで『ちょっと具合が悪いので、大事を取って欠席』らしい。

 ちょっとと言っても、もう三日目だぞ。


「さすがに心配……」


 エリヴィラちゃんがぽつりとつぶやく。


「ええ、そうね。私も心配だわ」


 もしかして午後から出席とか。

 って、期待していたんだけど、マリオンちゃんの席は放課後の今も空っぽのままだ。


 サラディナーサ様に擬態したあの日、マリオンちゃんはすごく楽しそうで……

 このまま、ちょっと距離があったクラスの子たちと仲良くなれそうだったのに。


「お義姉さま! 今日こそお見舞いに行きましょう!!」


 グローリアちゃんが大急ぎで帰り支度をして、俺の席までやってきた。


「グローリアさーん、ダメっすよ!」

「モーリア先生がお見舞い禁止って言ってたし~?」


 そう、イルマちゃんラウラちゃんが言うように、リゼットちゃんにお見舞いは止められているのだ。

 これには理由があって、この学園にいるのはみんなお嬢様だから……

 お見舞いを許すと、お見舞いの品がすごい勢いで積みあがっていったことがあるらしい。


 うん!

 そうなるだろうな!


 なので、お見舞いは全面禁止。

 どうしてもって時には、時間はかかるけど先生に許可をもらって付いてきてもらう(もちろんお見舞いの品は禁止)か、


「こっそり行くしかないわね」


 ってこと。


 だけど、そう言ったエリヴィラちゃんの表情は強張っている。


 うん、違反がばれると問答無用で謹慎だからな。

 俺もグローリアちゃん叩いた時にくらいました。

 この厳しさもお嬢様学園の証である。


「そうよ! こっそり行けばいいのよ! バレなきゃ平気! ですよね、お義姉さま」

「えーっと」

「ダメっす」

「だ~め~」


 俺が返事をする前に、イルマちゃんラウラちゃんが、グローリアちゃんの両腕をそれぞれ拘束する。


「ちょっ!」

「私たち~、一応グローリアさんのお目付け役だから~」

「一緒に謹慎食らうようなことして、バレたらマジでヤバいっすから」

「バレない、バレないから!!」

「いやいや、ガチで洒落になんないっすから」

「下手したら私たち呼び戻されるし~」


 そういや二人、グローリアちゃんのお目付け役だったか。

 それっぽい仕事してるの初めて見たけど。


「あら、まぁ、大変ねー。仕方ないですねー。これでは私とお姉さまの二人でこっそり行くしかありませんねー」

「エリヴィラ! 白々しいわよ! ぬーけーがーけー!」

「えー、でもー、グローリアさんたちは行かないようだしー」

「行く! あたしも行くから!」

「マジでダメっす」

「絶対阻止~」

「もー!! お義姉さまー!!」


 うーん、これを治めるには……


「お見舞いは、私だけで行くわ」


「え? 私は平気ですよ!!」

「だーめ。もしも謹慎なんかになったら、親御さんが心配するわ。怒られるなら私だけでいいから」

「お姉さま……」


 俺なら謹慎は前にもやったし、もしもバレてもリゼットちゃんなら……なんとか見逃してもらえる可能性も?

 あるかなー? 無理かなー?


 とにかく、グローリアちゃんエリヴィラちゃんを巻き込むわけにはいかない。


「ほーら、お義姉さまもこうおっしゃられてるし、エリヴィラさんはあたしたちと一緒に帰りましょ!」

「え、でも」

「さー、かーえーりーまーしょー! お義姉さま。マリオンさんのこと、よろしくお願いします」

「あ、私からもよろしくと!」

「ええ。わかったわ」


 イルマちゃんとラウラちゃんがグローリアちゃんを捕まえて、さらにグローリアちゃんがエリヴィラちゃんを捕まえ……

 なんか団子みたいになって、4人は教室を後にした。


「ふぅ」


 なんとか一人になれたな。


 あの子たちを違反に巻き込まない。以外にも実は理由があるのだ。


「メフティルトさん。一緒に帰りましょ」

「は?」


 ゆっくりと帰り支度をしていた、ドラゴン娘のメフティルトちゃんに声をかける。


「なんでよ?」

「少し、話したいことがあるの」

「じゃあ、聞くわよ。今」

「帰りながらでいいわ。そんなに長い話にならないと思うし」

「……さっさと済ませてよね」


 メフティルトちゃんは面倒くさそうに鞄を肩に担ぐ。

 お嬢様らしからぬしぐさだが、彼女は様になる。


「で、なんなのよ」


 寮への道すがら、メフティルトちゃんが聞いてくる。


「ねぇ、一緒にマリオンちゃんのお見舞いに行かない?」

「はぁ?」


 メフティルトちゃんが足を止める。


「なんでよ?」

「なんでって、心配でしょ?」

「別に。聞いてない? アタシ、別にマリオンと仲がいいわけじゃないよ?」

「仕方なく一緒にいてくれてる。なんてマリオンちゃんは言ってたけど、メフティルトさんは、本当にマリオンちゃんのこと心配してるじゃない」

「はぁ?」

「ふふっ。わかるわ。見ていれば」


 そう、わかるのだ。


 興味ないふりをしていても、メフティルトちゃんはマリオンちゃんを気にかけている。

 お昼だって、時々ちらっとマリオンちゃんを確認してるし、放課後擬態訓練もたまーに見に来ている。

 偶然を装ってはいるがバレバレです!


 てゆーかー、強気ギャルな超お嬢様ドラゴンなメフティルトちゃんが、弱気おどおどスライムのマリオンちゃんを気にして、こっそり見守っているとか。

 とか……


 尊いわー。


 気を抜いたら死ねるレベルで尊いわー。


 そんなわけでメフティルトちゃんがマリオンちゃんを気にする以上に、俺は百合の香りを察知してメフティルトちゃんに注目していたのだ!!

 なので、マリオンちゃんのお休みをめちゃくちゃ心配してるのもわかっているのだよ!!


「なによ、それ」

「お友達を心配するのは、当たり前のことよ。隠さなくてもいいと思うけど」

「別に隠してるわけじゃないけどっ」

「そうかしら?」


 ああー、いーなー、この反応!!

 見た目ギャルなのに初々しい照れ方!

 ごちそうさまです!!


「……仕方ないじゃない。マリオンは複雑な立場なんだから」

「複雑?」

「は?」

「何が複雑なの? やっぱり亜人の方が学校に来るのは大変?」


 レティシアの記憶によると、モンスターさんたち……亜人の一部は先の大戦で勇者と共に戦って地位を手に入れたんだよな。

 功績を立てた人から高い身分につけたので、強い亜人の人たちは侯爵(メフティルトちゃん家)とか伯爵(グローリアちゃんの家だね)とかになってる人も多い。


 ……ん? じゃあスライムは? 擬態能力だけで功績立てられたのかな?


「別に。どうせアタシたちは暇つぶしに来てるようなものだし。マリオンは本気でそっちともつながりを持とうとしてるけどね」

「それはうれしいわ」

「そうするしかないのよ、あの子は。自分の居場所を見つけるために」

「どういうことかしら?」

「あ、アンタ知らないの?」

「いろいろあって、ちょっと世間と離れていたから」

「そうだったね。えーと、つまり……マリオンたちは人間に作られたんだよ」

「作られた?」


 どういうことだ?


「スライムにどうやったか知らないけど知能を植え付けて、兵士として使えるようにした。大体は命令を聞くくらいの使い捨てだったけど、その中で特に知能が高いのが残って、マリオンはその子孫」

「まぁ」


 へー、マリオンちゃんの出生の秘密が明らかに。

 って、これみんな知ってることなのか。


「だから、アタシたちの仲間とも言えないし、もちろん人間でもないし、ややこしい立場なんだ」

「そう」

「……だから、アンタ。中途半端に手を出すんなら、最後までマリオンの面倒見なよ」

「最後まで?」


 それは……


「そんなことするわけないじゃない。最後まで面倒を見るなんてありえないわ」

「はぁ!? アンタっ」

「マリオンちゃんは捨て猫や捨て犬じゃないわ。私やあなたが面倒を見なくても、ちゃんと前に進める子よ」

「だけどっ」

「昔のマリオンちゃんがどんな子だったか知らないけど、彼女は今、自分だけの姿を探したりクラスの子と交流を持ったりいろいろ努力しているの。……知ってるでしょ?」


 ずっと見てたんだからさ。


「……知ってる」

「でしょ? 私たちが面倒を見る必要なんてないわ。友達として気にかけはするけど」

「……ふん」

「だから、お見舞いに行きましょ!」

「は? なんでそこにつながるの?」

「つながるわよ?」


 つながらないか?


「アタシは行かない。別に用事はないし」

「そんな」

「アタシがいたら話にくいこともあるかもしんないし。ま、部屋の前までは案内するよ。教師に見つかったらアタシの部屋に行く所だって言えばいいし」

「まぁ、ありがとう!」


 あっぶな!

 そういや、部屋の番号とか知らなかった!!

 メフティルトちゃんありがとう!!



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