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人気者は突然に

 よくわからんが、なんとなくうんうんと頷いておく。


「あ……頼んでくれて、平気! だけど、これ一枚じゃよくわからないから、もっといろんなところからの写し絵があったらうれしい。身長とかもわかればいいかな」

「身長は176センチ!」

「ファンクラブの会報にいっぱい載っていますわ!」

「衣装はぜひこれで!!」


 と、サラディナーサ様の資料が次々出てくる出てくる。

 どんだけ持ってきたんだこの子たち。


「へぇ、トップと言うことはこの人が一番なの? お姉さまの方が素敵だと思いますけど」

「そうですわ。比べるまでもないでしょう」


 エリヴィラちゃんとグローリアちゃんは雑誌を見ながら言ってくれるけど、イヤイヤイヤイヤ、そりゃねーよ。

 レティシアは確かに美人だけど、サラディナーサ様は芸能人だけあって飛び抜けて美人だもん。


「二人とも。気持ちはうれしいけど、人の好きなものにそんな言い方しちゃいけないわ。好きなものを好きって言えるのは素敵なこと。でしょう?」


 そうそう。

 俺だってミューリちゃんより別のアニメの娘が可愛い。とか言われたらムカつくし。

 大体作画が違うんだから比べるなんてナンセンス!


 うん、サラディナーサ様とレティシアでは作画が違うな。

 同じ次元にいるけど、次元が違うわー。


「は、はい。すいません」

「そうですよね。ごめんね。つい……」


 グローリアちゃんが、謝りながら雑誌を返す。


「わ、私もレティシア様は素敵だと思います! けどけど、サラディナーサ様とは素敵さのベクトルが違うって言うか、同じベクトルならミリヤム様とかそんな方向で」


 謝られた子はあわあわと見るからに慌てて雑誌をめくる。


「レティシア様なら女役のトップですわ! このドレスとか似合うかと!!」

「へぇ。……あなた分かってるじゃない!」

「確かに、これは」


 マリオンちゃんとエリヴィラちゃんは、前のめり気味に雑誌に食いつく。

 楽しそうで何より。


「う~わ~。大丈夫かな~」

「水鏡オタは業が深いって聞くっすよね」


 ラウラちゃんとイルマちゃんはちょっと引き気味だ。


「グローリアさんがあっちにはまったら、どーする?」

「ん~。私は嫌いじゃないかも~」

「マジっすか!!」


「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「あー、あー、あぁぁ……」


 と、イルマちゃんとラウラちゃんの会話をかき消し、悲鳴が上がる。

 うえ?

 泣いてる子いない⁉︎


「なにっ!?」


 振り向くとそこには、サラディナーサ様がいた。

 うん、マリオンちゃんの擬態だな。

 と、わかっていても、叫ぶ気持ち、わかります。

 写真でも美人だったけど、実物になるとやっべぇなこの人!

 女の子たち、拝んでるし。


「は、はぅ~。サラディナーサ様がこんな近くにぃ」


 雑誌を見せてくれてた子は涙目だ。


「ど、どうでしょうか?」


 あ、口を開くとやっぱりマリオンちゃんだ。


「写し絵そのままよ。ねぇ、私はショーを見たことがないからわからないのだけど、そっくりなのかしら?」


 女の子たちはブンブンと縦に頭を振る。


「はい、はい。そのままですぅ!」

「生きててよかったです……」


 そんなレベルか!


「マリオンさん、あの、ポーズをこう! お願いします!」


 女の子が変身ヒーローみたいなポーズをとる。


「えええっと、こう?」


「きゃあぁぁぁぁぁー!」

「きゃー! きゃー!」


 あー、美人でスタイルがいいと、ちょっとわざとらしいぐらいのポーズも決まるのな!


「目線こちらにお願いします!」

「そのまま髪を掻き上げてください!」


 指示を飛ばす先には、スケッチブックを持った子たちがすさまじい速さで鉛筆を走らせている。

 鬼気迫る表情が、少し怖いぐらいだ。


「ええっとぉ、こ、こぅ、ですか?」

「あー、もうすこし、こう」

「え? ええ?」


 どうやら雑誌に載っているポーズをリクエストしているようだけど、これは口で説明するのは難しそうだ。


「手の角度を、こう。ね?」

「こぅ」

「そうそう、で、目線を向こう」


 マリオンちゃんの隣に立って、ポーズをとる。


「きゃあぁぁぁぁっ!」


 ひときわ大きな歓声が響く。

 つか、なんでエリヴィラちゃんとグローリアちゃんまで叫んでるの?

 ナントカショーには興味なさそうだったよね?


「こんな感じですか?」

「いいみたいね。じゃあ、がんばって」

「ああっ! レティシア様もそのままで!!」

「え?」


 マリオンちゃんのそばを離れようとするが、引き留められる。


「おーねーがーいーしーまーすー! お願いします!!」


 今にも土下座しそうな勢いだ。


「一緒にポーズを取ればいいの?」

「はい! はい!!」


 サラディナーサ様の隣では引き立て役にしかならん気がするが、ま、いっか。


「あ、の、ありがとうございます」


 サラディナーサ様、じゃなくてマリオンちゃんがひそひそとお礼を言う。


「私、何かしたかしら?」

「は、はい。ワタシ、こんなにみんなに喜んでもらえたの、初めてで。すごくうれしいし、楽しいです!」

「これに関しては、私なにもしてないわよ? 全部マリオンちゃんが頑張った成果。この擬態もすごくよくできてるし」

「ワタシだけじゃ、こんなには……」

「次はこのポーズいいですか!? できれば衣装はこちらに!! レティシア様も一緒に!!」


 おっと、まだやるのか。


「こ、この衣装ですね」

「いいですか? 無理なら言ってください」

「だいじょうぶです!!」


 おお、マリオンちゃんがかなりやる気だ。

 結構消極的な感じだったから、新鮮だな。

 マリオンちゃんがやるならば、俺もやらねばなるまい!!


 その後、マリオンちゃんは何度か衣装をチェンジして、夕方になるまでスケッチをしまくられた。


「ありがとうございました!!」


 集まった女の子たちが、一斉にマリオンちゃんに頭を下げる。

 通り篝に見かけた娘や、呼ばれてきた娘も集まって……最終的には結構な人数になってしまった。

 ……サラディナーサ様の人気すげぇな。


「い、いえ、こちらこそ。こんなことでよかったらいつでも」


 サラディナーサ様の姿では収拾がつかなくなるので、マリオンちゃんは三つ編み眼鏡エリヴィラちゃんである。


「いいんですかぁ!」

「よろしいので!?」

「はわっ!? はいっ。練習にもなりますし」

「ありがとうございますっ!!」

「やったぁ!!」


 孤立しがちだったマリオンちゃんが、突如として超人気者へとなってしまった!

 本人の楽しそうだし、これってばマリオンちゃんにとっていい流れじゃないかな?


「レティシアさんっ。今日もありがとうございました」


 寮への帰り道、マリオンちゃんが何度目かのお礼を言う。


「だから、私は何もしてないわ。全部マリオンちゃんの力なのよ」

「でも、ありがとうございます」

「また」

「ワタシ、凄く楽しかったんです。こんなにみんなに喜んでもらえたの初めてだったから」


 マリオンちゃんは何度も、ありがとうと楽しかったを繰り返している。

 相当嬉しかったんだろうなー。


 マリオンちゃんのやる気がぐんぐん上がってるぞ!

 この調子で擬態の訓練も進みそう!

 ふふふ。明日が楽しみだ!!



 と、思ったのだが……

 次の日、マリオンちゃんは欠席だった。


 その次の日も、またその次の日も欠席だった。

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