お願い
マリオンちゃんだけの姿を作ろう! 放課後擬態訓練!
は、全くうまくいかずにいる。
擬態が特性なのに『生活に必要な場合以外はあまり擬態しないようにと』両親に言われていたそうで、マリオンちゃん自身も自分がどこまでできるのか、いまひとつわかっていないようだ。
なので、放課後擬態訓練はこちらが思いつくことをマリオンちゃんに伝えて、とりあえずやってもらうことで、できることを模索していき、マリオンちゃん自身のことを教えてもらう。
って感じになってる。
「ふーん、こうやって色を変えるぐらいは簡単なのね」
感心して頷くグローリアちゃんの前には、マリオンちゃんが擬態したグローリアちゃん。
ただし、肌がちょっと白くて、目の色は薄い緑で銀髪。
ツインテールと胸元の赤リボンは、紺色に変わっている。
うっは!
2Pカラー、2Pカラーですよ!!
「はい、一度しっかり観察していれば、ある程度の組み合わせはできます。えっと、こんな感じに」
と、ツインテールが少し伸びて、昔の少女漫画みたいな縦巻ロールに!
うん、いるね隣のクラスにこの髪型の娘。
「じゃあ、いろんな人から少しずつ組み合わせれば、いいんじゃない?」
と、エリヴィラちゃん。
ふむ、モンタージュみたいな?
「えっと、髪の毛ぐらいならいいんですが、体の一部をつなぎ合わせるとバランスが崩れてしまうので」
「そうなの。じゃあ、楽に変えられるのは髪や色ぐらいなのね。あとは服装?」
そだそだ。
マリオンちゃんは服も体の一部なんだよな。
「はい。観察したら擬態できます。あ、着るのもできますけど体だけを擬態するためには、観察が必要なので。んと、このくらいですぅ」
と、制服から体操服姿に。
なーるーほーどー。
となると、完全に擬態するためには、裸の付き合いが必要と言うことに!!
あ、なんかちょっとドキドキします。
「うーん、擬態って本当に難しいのね。ごめんなさいまだまだ時間がかかりそうだわ」
「いえ、ワタシすごく楽しいのでっ、いっぱい時間がかかったほうが嬉しっ、あ、嬉しいですけど、ご迷惑をっ」
マリオンちゃんは、うっすら全身をピンクにして、あわあわと両手を動かす。
慌てるとスライムの時の色が、ちょっと出ちゃうんだよな~。
かわいい。
「あの、本当に本当のことを言うと、簡単に自分だけの姿ができるだなんて思ってなくて。でも、協力してくれるのが嬉しくて。だから、あの、姿ができなくても謝らないで下さいっ。じゃなくて、ワタシが謝らないといけないぐらいで」
俯くマリオンちゃんは、服もリボンも体の一部であるせいか、全体的にしおしおとしてしまう。
うーむ、アニメ的表現を現実で見ることができるなんて、思わぬ収穫である!
「親戚にも、自分だけの姿を持っていない人がいます。おじいちゃんは一緒に戦った戦士の姿をもらったそうです。その人はもう帰ってこないから……」
「そう……」
学園は平和だから忘れがちだけど、この国少し前に魔王と戦ってたんだよなぁ。
帰ってこない。
と、言うのは、つまりそう言うことだろう。
知識として知ってはいるけど、実感はまーったくない。
「だからもし、飽きたりしたら言ってください。それでいいですから」
「マリオンちゃん……。もう、飽きたりするわけないじゃない。どんなに時間がかかっても付き合うわ。少なくとも卒業するまではね」
卒業するよりは早く姿を作ってあげたいけど、飽きたからハイ止めます!
とは、とても言えない。
それと言うのもマリオンちゃんはすっかり俺たちのグループみたいになっているから。
メフティルトちゃんやロズリーヌちゃんが、本来単独行動が好きな種族。
って言ってたのは本当にその通りらしく、メニューの関係で何度かバラバラにお昼を食べていたと思ったら、いつの間にかそれぞれで食べるようになっていた。
メフティルトちゃんとロズリーヌちゃん、それぞれ一人ずつ食べているし、マリオンちゃんを仲間はずれにしたわけじゃなく、本当に一人が好きらしい。
そんなわけで、今マリオンちゃんは俺たちと一緒にお昼を食べるようになっている。
なので、じゃあ止めまーす! って彼女を一人にするわけにはいかない。
ま、擬態訓練がお互いにとって楽しいなら、止める理由もないんだけど!
「あ、あのぉ」
「ん?」
おずおずとした声に振り向くと、クラスの女の子たち?
警戒するみたいに五人ぐらいで固まっている。
「どうしたの?」
「そ、その、私たちお願いがあるんですけど」
「まぁ、なにかしら?」
「あ、レティシア様じゃなくて、マリオンさんに」
「ワタシですか!?」
マリオンちゃんは驚きすぎて、一瞬色が抜けた!?
そこまで驚かなくてもいいと思うんだけど。
「はははいっ。なんですかっ!?」
「ここで擬態の練習をしているのを見てて」
「実はお願いありまして」
「もし失礼なことだったら謝りますっ」
「いいいえ、失礼なんかなにもっ」
マリオンちゃんも女の子たちも、お互いにガチガチに緊張してる。
おー、なんかほほえましいなー。
「できれば、この人に擬態してもらえないでしょうか!!」
と、女の子の一人が、二つ折りのメッセージカードみたいなのを差し出す。
白地に花の形が押し出され金色で縁取りされた、見るからに豪華なカードだ。
マリオンちゃんが受け取って開くと、中は写真?
写真なのかな? 写真かなんかの魔法だろう。
豪華な衣装に身を包んだ……男装の麗人って感じの人が写っている。
舞台メイクぽい厚化粧で、顔はある程度作られているんだろうけど……
これ、CGじゃないの? ってほど等身高くてスタイルがいい!
マリオンちゃんにミューリちゃんの姿になってもらおう!
をやった時に学んだが、いいスタイルってのは等身が高くてスマートでー、足が長くてー。とかだけではだめなのだ。
絶妙なバランスがあってこそ、スタイルは完成される。
その絶妙なバランスのお手本のような人だ。
残念ながら、男装の麗人としての絶妙完璧スタイル! なので、俺の理想の美少女スタイルとは違うけど。
「まぁ、素敵な人ねぇ」
それは本当に思う。
「は、はい! 水鏡舞台のトップスター・サラディナーサ様です!」
「去年トップに選ばれたのでレティシア様はご存じないかもしれませんがっ」
「歌唱力もダンスもすごくて。よろしければチケットをお分けしますのでぜひっ!」
「あ、あら?」
お、お、おーう。
やっぱ異世界でも、好きなことを語らせたらちょっと引くくらいの早口になったりするのな。
「この人に擬態してほしいのね?」
「は、はい」
「だめでしょうか?」
「それは私じゃなくて、マリオンさんに聞かないと」
「そ、そうですよね。マリオンさんどうかしら?」
「こういうこと、頼んでいいか分からなかったんだけど」
「私たち、どうしても近くでサラディナーサ様を見てみたくて!」
「は、はぅぅ」
プルプルとピンク色になっていたマリオンちゃんが、チラリと俺を見た。




