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 鏡に映っていたのは、ついさっき妄想していた『エダと病弱ではかなげでちょっと影のあるような女の子』の相手そのものだった。


 いや、実を言えば俺の妄想を越えるぴったりキャストだ。


 ふんわりとウェーブした銀髪に、白すぎる肌。

 唇は少し薄めで薄幸そうだが、形大きさ申し分なし。

 鼻筋はすっと通って、小鼻が小さい。


 なにより目立つ大きな目はやさし気に垂れていて、長いまつげがアメジスト色の瞳に影を落としている。


 絶世の美少女ではないけど、かーなーりかわいい。

 病弱系ヒロインに居そう!

 一番人気じゃないけど、上位に必ず食い込むタイプと見た!


 あ、俺、恋愛シミュレーションも範囲内なんで。

 女主人公が選べるのがマストだけど、攻略キャラが仲良しで絡みが多いのだったらまぁアリだよね。


 と、そんな感じの美少女が、鏡の中から俺を見つめ返してくる。


 俺が気にしてなかっただけかもしれないけど、レティシアの記憶に自分の姿、なかったなぁ。


 まぁ、自分の顔なんて鏡でも覗かないと見れないものだけどさ。

 俺がこんな美少女だったら、ずっと鏡見てそうなんだけど。


「これが……私?」

「ええ、すっかりやつれてしまいましたね」


 エダが、きゅっと泣きそうな顔になり、すぐに笑顔に戻る。

 まだちょっと辛そうだけど。


「けど、元気になったら、元のお美しいレティシア様に戻りますよ」


 え? 俺これ以上にかわいくなるわけ?

 そりゃあ、楽しみだ。

 楽しみ……なんだけど……


 なんで俺!?


 『エダと病弱ではかなげでちょっと影のあるような女の子』もとい『エダとレティシア』を見れないじゃん!!


 世界で! 俺だけ!

 俺だけ! 見れないじゃん!!


 最っ悪。


 こんなひどいことがこの世にあっていいのか。


 鏡見ればいいじゃん?


 バーカバーカ!

 そんな不自然に鏡ばっかり見ててどうすんの!!

 俺は、エダとレティシアに見つめあったりしてほしいの!


 それを見たいの!!


「ちょっと失礼しますね」


 俺が脳内で苦悩に悶えていることも知らず、エダはくるりとベッドを一回り。

 鏡が置いてある別の方向から、手を延ばしてブラシで髪をとかしてくれる。


 細くて柔らかい毛がみっしりと植えられたブラシで、毛先の方から何度も何度も丁寧に溶かす。

 鏡の中にチラチラと映るエダの顔は、真剣そのものだ。


 小動物系女の子の真剣な表情。

 これはいいものだ。


「レティシア様。そんなに私ばっかり見ないでください」


 つんと唇を尖らせて、怒ったように見せるけど耳がちょっと赤い。


 カッ!!


 マジで!!


 第三者として!!


 見たいんですけど!!


 レティシアとしてはおとなしくしているけど、脳内俺は机を力の限りバンバン叩いて、手が痛くなったところで床を転げまわっている。


 見たいー! みーたーいーー!

 なんでこの素敵百合空間が視点固定なんだよ!


「私なんか見てもつまらないですよ」

「そんなことはないわ」


 マジでそんなことない。


「恥ずかしいです。レティシア様みたいにきれいな方に見られるの。私、こんなちんちくりんで。二年もたったのに全然変わってなくて」


「私はエダが変わってないのが嬉しいわ。記憶そのままにかわいいんだもの」

「っ……もう、レティシア様は意地悪です!」


 エダはぷいっと横を向いてしまう。


 あわわわ。

 やべ、本当に怒らせた。


「ごめんなさい。怒らせる気はなかったの。許して」

「……仕方ないですね。じゃあ、髪型私の好きにさせてくれたら許します」

「ええ、もちろん。エダの好きにしてちょうだい」


 女の子の髪型なんて分からないし、もともとエダにお任せのつもりだったんだから、こんなことで許してもらえるならありがたい。


「はーい。じゃあ、好きにさせてもらいます」


 エダはまた真剣にブラシを動かし始める。


 何度も何度もブラシを往復させ、ようやく頭の先から毛先まで、一気にブラシを通せるようになると……見るからに違っていた。


 初めの時もレティシアに似合うきれいな髪だと思ったが、今はそれ以上だ。


 全体的に艶が増し、ゆるいウェーブはさらに大きなひと塊になり、山のひとつひとつに光が反射する。


 おーおーおー、ヒロインの髪色にはあんまこだわりなかったけど、銀髪もいいなぁ。

 だけどなんで俺(以下略)!


「始めますね」

 エダはブラシから持ち手が細い櫛に持ち替える。


 持ち手の細い部分でついついと頭を撫でられて、これがけっこうくすぐったい。

 笑ってしまいそうだが、エダに怒られそうなので我慢だ。


 櫛で髪を房ごとに取り分けたエダは、それをあっちにやりこっちにやりしているうちに……サイドの編み込みからのゆるい三つ編みになっていた。


 二本のみつあみは、首の後ろでゆとりを持たせてから、ふわっとした透ける素材の濃いめピンクなリボンでまとめる。


「はい、出来上がりです」

「まぁ」


 おお、これは。

 そのまま下に流しているだけだと病弱オーラが半端なかったレティシアが、ちょっと健康に見える!


 髪の艶もさることながら、顔のサイドの編み込みが髪にボリュームを出し、リボンの色が差し色になってぱっと顔が明るくなった。


 ほー、ほー、ほおぉーーー。


 女子が髪型とか化粧とかに必死になる気持ちが今わかった。

 ここまで変わるのか。


 なら、化粧も髪型もアクセも頑張るよなぁ。

 愛するお姉さまや大事な妹に、素敵と思われる自分になりたいもんな!


「えへへ。レティシア様が目覚めたらって、ずっと練習してたんです」

「とても素敵。ねぇ、これからずっとこの髪型にしてほしいわ。もちろんエダにね」

「お任せください」


 よーし、これでレティシアがエダに髪をやってもらうのを毎日見れるぞー!!


 たへのーしーみー!

 だけど、鏡ごしなんだよなぁ……



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