矛盾
そして現れるのは、すべてにおいて平均的な超美形という矛盾した存在。
「どうですか?」
の、はずだった。
「うん?」
俗説では超美形になっているはずのマリオンちゃんは……言ってしまえば……
超モブ顔になっていた。
「悪くはない?」
グローリアちゃんが首を傾げ、
「けど……どうなんでしょう?」
エリヴィラちゃんが眉を寄せる。
そう、平均的なマリオンちゃんはモブ顔でありながらモブではない。
肌の色は灰色ぽくて不健康な感じで、髪の色も茶色なのか灰色なのか微妙なぼんやりとした色。
こんな色の肌も、こんな色の髪も見たことない気がする。
あと、額からは小さな角が生えているし、髪質はちょっと羽毛っぽい?
「平均ではあるんだけど……誰でもなさ過ぎてよくわからないことになっちゃったわね」
ううーむぅ。
目の付け所は悪くなかったと思いたいが、敗因としてはモンスター娘ちゃんたちも平均の中にはいっちゃったことか。
モンスター娘ちゃんたち、カラフルだもんねー。
メフティルトちゃんは、そらもー鮮やかな赤毛だし。
赤毛っても、染めなきゃありえないでしょ? ってぐらいの熟れすぎて真っ赤なイチゴみたいな赤。
ロズリーヌちゃんは透明感のある水色で、ウィッグでしか出せないって思ってた色。
そんな色がまじりあって平均化した結果……
なんかうすらぼーんやりした色になってしまったわけか。
「ごめんなさぃ。がんばってみたんですけど、平均のつもりが偏っちゃったかもしれないです」
「あ、そうよね、突然平均って言われても困るわよね」
うん、マリオンちゃんはパソコンじゃないもんな。
急に平均出せって言われても困るか。
つか、パソコンあっても俺には無理だな!
無邪気にめっちゃ高度なこと頼んでしまったようだ。
「いえ、自分ではやろうとしないことだったので、勉強になりました!」
と、マリオンちゃんは小さくガッツポーズ。
「次はどうします? ワタシ、頑張ります」
「そうね」
もっといろいろやってみたいところではあるが、
「今日はこのくらいにしましょう。やりすぎると擬態できなくなることもあるんでしょ?」
「それは、ただ大人が言ってるだけですし! せっかく皆さんが協力してくれているのに、何もできなくて……」
「まだ一日目よ。最初からうまくいくなんてないわ。明日も頑張りましょ」
「あ、明日もっ、いいんですか!」
「当然よ。ね?」
振り向くと、グローリアちゃんたちも頷く。
「乗り掛かった舟よ。最後まで付き合うわ」
「私も。ゴーレム術の参考になりそうだし、勉強させてもらうことにするわ」
「アタシは見てるだけっすけど、楽しいから一緒するっす」
「右に同じ~」
「あ、ありがとうございます!」
マリオンちゃんはうるるっ、と涙がにじんだ目を大きく見開く。
うん、あざとかわいいな!
「あ、そうだ、明日は誰の姿になるか教えて。私の知ってる人かしら?」
「えーっと、明日は確か」
「明日、あたしでもいいわよ!」
グローリアちゃんがすずっと前に出る。
「ほら、あたしにとしとけばへんなもんく言われたりしないじゃない? たまに真似しないでよとか言われてるし、いやでしょあれ?」
「いいんですか!?」
「ええ、いいわよ! あたしは気にしないから!」
「なら!」
「グローリアさんより、私の姿のままがいいんじゃないかしら?」
エリヴィラちゃんが、クールに髪を掻き上げる。
「なんでよ! あたしの姿でいいじゃない! 何よ? そんなにまでしてお義姉さまに注目されたいの?」
「それもあるけれど……マリオンさんが擬態する私の姿、髪型が違うでしょ。見分けられるから便利だと思うの」
「確かにそっすね!」
「実用的~」
「ちょっと! あんたたちどっちの味方よ!!」
グローリアちゃんが、イルマちゃんとラウラちゃんに噛みつく。
「え? 別にどっちの味方でも……いや、グローリアさんの味方っすよ! もちろん!!」
「だったらっ」
「グローリアさん。よく考えて~。グローリアさんが二人になったとして、一時は注目を集められた気になるかもだけど~、結局1/2だから~。減る可能性もあるよ~?」
「え? あ? そう……なのかな?」
「そっすそっす」
「ややこしいのはんた~い」
「うん?」
「だから、私の姿で問題ないわね?」
何やらグローリアちゃんが混乱しているころに、すかさずエリヴィラちゃんがたたみかける。
「う、ん? え? まぁ、そういうことなら?」
「と言うことだから、マリオンさん。明日から自分の姿が見つかるまで私の姿を貸すわ」
「本当にいいんですか?」
「ええ、しばらくなら構わないわ。でも髪は三つ編みにして眼鏡は着けておいてね」
「はい。はいっ!」
マリオンちゃんの目から、今度こそぽろりと涙がこぼれた。
「何も泣くことないわ」
「だって、ワタシ人間の人にこんなに親切にしてもらうの初めてでっ。グローリアさんもありがとうございます。姿を貸してくれるって言ってくれたこと、本当にうれしいですっ」
「別にそのくらい何でもないでしょ? 減るものでもないし」
「注目度が減るからやめたのに~?」
「しー! っす」
「エリヴィラさん、ありがとうございます。すぐに自分だけの姿を見つけますから!」
「ええ。なるべく早くしてね」
「はい!」
なるべく早くなんて言ってるけど、エリヴィラちゃんの声にせかすような響きはない。
ああ、みんな優しい!
いい子!!
こんな子たちを間近で見ていられるなんて幸せすぎる!
そして、エリヴィラちゃんの双子コーデも続行おめでとう!!
いやー、グローリアちゃんが二人もなかなか幸せそうな光景だけど、全くおんなじ姿だったら面白みがないって言うか、でっかい鏡の隣にいるのと同じようになってしまいそう。
エリヴィラちゃんなら髪型と眼鏡でだいぶ印象変わるし、やっぱ少し姿が違うってのがおいしいのでございます!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ちょっとぉ! また私の服持って行ったでしょ! やめてよね勝手に!」
「いいじゃない。昔はおそろいの服着てたんだし」
「それとこれとは全然違う話じゃない」
私の前で彼女たちは姉妹喧嘩に忙しい。
双子の彼女たちは、毎日のように小さな喧嘩を繰り返している。
喧嘩と言っても子猫がじゃれ合うみたいなかわいいもので、あれこれと言いあってもすぐにころりと忘れて引きずらない。
「しょうがないじゃん、あんたの服あたしに似合うんだもん」
「あったり前でしょ! 双子なんだから!」
「双子なんだからシェアしようよ」
「双子だから嫌なの!」
「どうして?」
私にはそれがわからない。
一人っ子の私は常々彼女たちをうらやましいと思っているのに。
「それは……なんか、双子ってひとくくりにされるんだもん」
「まぁ、それはあるかもね。けど得することだってあるじゃん」
「私は嫌なんだってば!」
「私にはよくわからないな」
「双子にしか分かんないよ。セット扱いはあきらめるとして、間違えられるの?だけはほんとに嫌!」
「まぁ、それはあたしも嫌かな」
「じゃあ、服持ってかないでよ! だから間違えられるんだよ」
「やだ」
「もー!」
「間違えられるの?」
「そりゃもうしょっちゅう」
「おんなじ髪型にしたりするからでしょ! 変えてよ!」
「やだ。これが一番似合うんだもん」
「もー」
「間違えるかな? 全然違うのに」
二人は双子で確かに似ているかもしれないけど、やっぱり全然違う。
一体どうやったら間違えられるんだろう?
「そういえば、一度も間違えたことないよね」
「あー、もー、だから好き!」
二人は突然私に抱きついてわしわしと頭をなでてくる。
「子ども扱いしないでよ」
「しーてーまーせーん」
「愛情表現でーす」
こんなときばかり、息がぴったりなんだから。
「本当に、あなたたちってそっくりね」
「そういうこと言う? まぁ、特別に許してあげるけど」
「あたしも許してあげる。あんたがちゃんと見分けてくれるってわかってるから。同じ服も着れるんだしね」
「そうなの!? そんな理由?」
「大事でしょ?」
「えー、まぁ、そうだけど」
頭の上で会話するのはやめてほしいな。
「だから、どっちが選ばれても恨みっこなしだから」
「何がだからかわかんないんですけど!?」
「何の話?」
「「わかんなくていいの!」」
二人の声が重なる。
本当に、全然違うのにそっくりな二人。
二人とも、私の大切な……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お義姉さま? お義姉さま!?」
グローリアちゃんに揺さぶられてトリップから現実に帰還。
「大丈夫ですか?」
「ちょっとぼんやりしてて」
ええ少々、妄想に忙しくてですね。
「疲れてしまったのではないですか? 体調は大丈夫ですか?」
「ええ、平気よ」
グローリアちゃんは本気で心配そうだ。
レティシアは結構体力あるんだけど、見た目がどうもはかなげなので心配されるんだろうなぁ。
「ごめんなさい! お疲れなのにワタシのためにっ」
「いいのいいの」
俺はマリオンちゃんの頭をなでる。
見た目エリヴィラちゃんと同じはずなのに、マリオンちゃんにはなんかこうしたくなる雰囲気があるんだよな。
「はわわっ」
マリオンちゃんは擬態する時みたいにふるると震え、
「ふぎゅっ」
変な声を出して体をこわばらせる。
おっと、急に触るのはよくないって!
マリオンちゃんにはエダと同じような小動物的かわいさがあって、つい、ね。
「それじゃあ、続きはまた明日。今日はゆっくり休みましょう」
「は、はいっ」
「それではお義姉さま、寮まで一緒に行きましょう!」
「ええ、みんな一緒に」
「はい」
はー、今日もいい1日でした! 楽しかった!
もちろん明日も楽しいだろう!
おっと、もちろんマリオンちゃんの姿のこともちゃんとしないとな。
いい方法を考えないと!




