フツーってむずかしいぞ
放課後、教室に残ってさっそくマリオンちゃんの姿を作るために作戦会議を始める。
「まず、マリオンちゃんはどんな姿が欲しいの?」
「えっと、特にどんなとは考えたことがなくて普通にかわいければいいかなぁ、って」
「普通にかわいいね。なるほど」
うん、難しいな!
漠然としてるくせに、普通って結構ハードル高いんだよな。
『フツーできるっしょ?』とか、『このくらいフツーフツー』って言葉にどれだけ煮え湯を飲まされてきた事か!
だが、マリオンちゃんが『普通にかわいければいい』と言うならある意味やりたい放題である。
百合アニメのキャラはないかと思ったが、できるならやってみたいのが性というもの!
練習がてらやってみるのもいいよね。
で、やってみるならキャラは絶対、未百合ちゃん!
※ここからしばらく飛ばしてOK!
えー、ミューリちゃんはですね『都立塩殿高校ダンジョン部』に登場するキャラであります。
都立塩殿高校ダンジョン部は、突如高校の校庭に現れたダンジョンに潜る部活で、元ネタは古いゲームの設定を引っ張ってきているらしく、ダンジョンの攻略方法がなかなかハードなところがおもしろい。
百合漫画ってわけではないんだが、キャラクターたちがちょっとお互いを意識しているぽかったり、スキンシップが多かったりするソフトな百合が楽しめます。
個人的に『百合漫画です!』って押し出しているのもいいけど、一般漫画に入り込んでる明言されていない百合も大好物です!
メインキャラクターは、網走ミオ。名藤小百合。宗岡マトリョーナ。遠野子子子からならる四人組で、ミューリちゃんは小百合の妹でサブキャラクターとしてちょこちょこ出てくる。
原作漫画の方では、塩殿高校に受験しに来ているのでこのままメインキャラの仲間入りをするんじゃないかと睨んでいるね!
アニメ二期も決定してるし、そっちでは活躍するはず!!
……これが見られないのが直人の世界へのでっかい心残りのひとつだ。
えー、そんでミューリちゃんですが、お姉ちゃんである小百合とのスキンシップと、やるときはやるキャラの子子子への淡い憧れがおいしいキャラクターで、妹キャラだけあって甘え上手なところがマリオンちゃんに似合っているんじゃないかと思うわけです!
マリオンちゃんと同じく、かわいいけど狙いすぎ、とかあざとすぎって言われることが多く、ファンも多いけどアンチも多い偏った人気がある。
ファンブックにて、身長体重スリーサイズ、好きな食べ物に趣味なんかも判明しているし暗記しているので問題なし!
※ここまで。
「それじゃあ――」
俺はミューリちゃんのデーターをマリオンちゃんに教える。
身長体重スリーサイズ、顔立ちに瞳の色に髪の色に長さなど、できるだけ詳細に!
「えっと、えっと……こんな感じでしょうか?」
ぷるぷるとマリオンちゃんが震えると俺の言った通りの姿になる。
それはミューリちゃんのデータそのものの姿ではあるのだが……
「あ、いいんじゃないですか?」
「さすがお義姉さま! 普通にかわいいですわ!」
「うう~ん?」
と、エリヴィラちゃんとグローリアちゃんが言ってくれるが、これは……ミューリちゃんではない!
ミューリちゃんの印象的なサイドテールと星形のアクセは完璧。
鼻と口は小さく、真ん丸な大きな目。
日本人ではってか、向こうの人間ではありえなかったカラーリングも再現されている。
なのに違う!
スリーサイズも完全再現されているはずなのに、ミューリちゃんに比べて妙にやぼったい感じの体系になっている。
「んー? 何か違う?」
「間違えてますか!? ごめんなさいっ」
マリオンちゃんが悲痛な表情で謝るが、間違えてはいない。
マリオンちゃんは俺が伝えたとおりにやってくれているのだが、そもそも公式データと絵では違うのかも。
うーむー。
ここは、実際に見ながら細部の調整かな。
「ううん、間違えてないわ。でも、もうちょっと足を細くしてみて」
「こうですか?」
「ええ、後、頭をもう少し大きくして……」
そして、時はたち――
「あ、あの、お姉さまはどんな姿を作ろうとしているのですか」
「な、なんか怖いですよ」
エリヴィラちゃんとグローリアちゃんが青い顔でよりそっている。
うむ、普段そこまで仲がいいわけでもないのにピンチになったらお互いに助けを求めてしまうシチュ! いいね!
ちなみにラウラちゃんとイルマちゃんは、ちゃっかりと教室の端まで退避している。
つか、何をそこまで怖がることが?
と、マリオンちゃんに向き直ると。
「ひゃっ」
思わず悲鳴が口からこぼれる。
「あ、あの、ワタシ、今どうなっているんでょう?」
そこにいるのは、ミューリちゃんの特徴を持った、ミューリちゃんでないもの。
人間の形であるのに、人間ではないと本能がささやくもの。
あっれぇ?
さっきまではかなりミューリちゃんに似てきたと思っていたのに、いったん目を離すとこれである。
「えーっと、ごめんなさい。ちょっと混乱してしまったみたいで。いったんエリヴィラちゃんに戻ってくれる?」
「はい」
ぷるるっと、震えてミューリちゃんもどきからエリヴィラちゃんに。
ううーん。
これはあれか、ゲシュタルト崩壊をおこしたってやつか。
マリオンちゃんにアレを足してこれを引いてってやってるうちに人体ってものがどんなものかわからなくなってしまったんだな。
あー、そーいえば……ミューリちゃんの情報を探そうと検索をかけてたら、よくコスプレイヤーの人がヒットしたなぁ。
あの時は「そんなんミューリちゃんじゃねぇよ。ミューリちゃんバカにすんな」とか思っていたけど、いやあれ大したもんだわ。
マリオンちゃんみたいに好きな形になれるわけじゃないのに、結構似てたもん。
それに比べて俺ときたら……
「ごめんなさい。いろいろやってくれたのに」
「あの、そんなものなんですっ。ワタシたちも自分の姿を作ろうと頑張れば頑張るほどわからなくなって、擬態ができなくなったスライムもいると聞きます」
「ええっ。それって大変じゃない!?」
「いえ、たぶんですけど、あんまり擬態にのめり込まないようにって注意かなーって」
「のめり込むものなの?」
グローリアちゃんが不思議そうに聞く。
「な、なんにでもなれるって、楽しいですから」
「わかる。絶対楽しいわよね」
ゲームのキャラデザだけで数時間費やしたことがあるヤツにはわかるはずだ。
絶対楽しいやつ!!
そして、やりすぎるとゲシュタルト崩壊起こすのもあるあるだよなぁ。
「あ、そうだ。平均的な姿になる。ってのはできる?」
「平均ですか?」
「そう、クラスの子たちでもいいし、覚えている人たちでもいいからなるべくたくさんの平均になってみるの」
そう、俺はどこかで聞いたことがあるのだ。
すべての人の平均的な姿と言うものは、超絶美形だという説を。
「やってみます」
マリオンちゃんがぷるると震えた。




